スーパーボウル、過去最高記録の視聴者数
2022年2月28日にこのコラムで「全米で1億人が観るスーパーボウルの経済学」を書いてから2年が経ちました。
スーパーボウルは、アメリカンフットボールのプロリーグ「NFL」の王者決定戦で、アメリカ最大のスポーツイベントと言われています。 同時にスーパーボウルは、アメリカ人が団結する最大のスポーツイベントでもあり、アメリカの経済的な大きさの象徴とも言えるビッグイベントです。毎年違う都市で行われるスーパーボウルですが、2024年の試合は観客席が72,000あるという、ラスベガスのアレジアント・スタジアムで開催されました。
2月11日(米国現地時間日曜)の夜放送された2024年のスーパーボウルの視聴者数は1.234億人、過去最高記録であった2023年の1.151億人より83万人増え、アメリカの歴史上最も観られたテレビ番組になったそうです。
スーパーボウルの経済効果は約2.6兆円
試合の前に行われた事前調査では、視聴者の半分以上はパーティに参加するか、自分がパーティをホストし友人達と試合を楽しみ、1,600万人はバーやレストランで試合を観るという結果でした。そんな食事、お酒、服装、パーティの費用などを合計すると173億ドル(約2.6兆円)の経済効果があると言われています。これはIMFによると、中東にあるクエート1国の2023年のGDPを超える金額です。この経済効果の規模は2023年より10億ドル(約1,500億円)増えるとみられています。
この数字に加えて、スーパーボウルはスーパーボウルをホストしたラスベガスにとっても追加で5億ドルの経済効果をもたらすであろうとされています。この試合を観るために15万人がラスベガスを訪れ宿泊費や食事代を払い、スーパーボウルグッズなどを買っていくのです。
凄いのは経済的な効果だけではありません。この試合を観戦に来ているのはビヨンセ、レディ・ガガ、ポール・マッカートニー、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバー、イーロン・マスクといった豪華セレブ達の面々です。
スーパーボウルの広告出稿状況から考察する企業の強さ
加えて凄いのはスーパーボウル番組というプラットフォームを使って行う企業のコマーシャルによるマーケティングです。私はアメリカのストリーミングサービスでこの試合を観たため、現地のコマーシャルをそのまま観ることができたのですが、スーパーボウルの楽しみの一つは、毎年その試合の放送時間のためだけに各企業が特別に制作するCMです。このコマーシャルの値段が凄いのです。2023年700万ドル(約1.05億円)だった30秒のテレビコマーシャル料は、2024年は平均750万ドル(約1.13億円)まで値上がりし、史上最高となりました。東京のキー局の通常の30秒コマーシャルの値段は2,000万円程度と言われていますから、750万ドルという値段がいかに高いかが分かるでしょう。
これだけ高いお金を払ってコマーシャルを流すわけですから、企業もかなり力を入れてコマーシャルを作ります。スーパーボウルのCMの制作費は1,500万ドル(約2.25億円)から5,000万ドル(約7.5億円)かかっていると言われています。
CMのスポンサーはというと、クアーズやバドワイザーといったビールブランド、ステートファーム(保険)、ウーバーイーツ、プリングルズ(スナック)、グーグル、Tモバイル、ベライゾン(通信)、パラマウント、プルートTV(ストリーミング放送)、M&M、リンツ、リーズ(チョコレート)、トヨタ、BMW、フォルクス・ワーゲン、KIA(自動車)、ファイザー(製薬)、ダンキン・ドーナッツ(ドーナツ)(※)などです。正にアメリカの消費者にリーチしたい企業によるCMのオンパレードです。
その中でも私が気になったのは、キリスト教のコマーシャルだったのですが、実はこのコマーシャル、放送後の論評でも高い評価を得ていました。また、高額なコストをかけて作るコマーシャルは、アンソニー・ホプキンス、アーノルド・シュワルツェネッガー、ダニー・デヴィート、ビヨンセなど、ハリウッド俳優や歌手が出演し非常にエンターテイニングなものでした。
CNNで報道されていたシミュレーションによると、スーパーボウルで流す広告に1ドルかけると、4.06ドル相当の売り上げの効果があるとのこと。そもそもCM出稿には莫大な費用がかかりますから、業績がよい企業がスポンサーになる訳ですが、スーパーボウルのコマーシャルはROI(投資利益率)的には十分ペイすると企業のCFO達は考えているようです。
テイラー・スウィフト×スーパーボウル
170億ドルを超える経済活動となるスーパーボウルですが、そんなスーパーボウルをより注目されるイベントにしたのは世界的なスーパースター歌姫のテイラー・スウィフトさんの関わりでしょう。
彼女は、ビルボード全米HOT100ランキングのトップ10を独占したアメリカの音楽業界で最初で唯一のアーティストであり、ビルボード・ランキングで2009年、2015年、2023年と3世代に渡って年末1位の座を獲得したアーティストでもあります。
彼女のInstagramのアカウントのフォロワー数は2.8億人を超え、公式X(旧ツイッター)のフォロワー数も9,520万人と(筆者のフォロワー数はたったの6.6万人です)、彼女の曲・活動・意見は幅広い世代に支持されています。
2023年アメリカのニュース雑誌「タイム」は彼女を「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に選んでいます。そんな彼女が、今回スーパーボウルの試合でサンフランシスコ・フォーティ・ナイナーズと対戦するカンザス・シティ・チーフズのトラビス・ケルシー選手と交際していることが分かり、世界中の注目を集めたのです。
世界的人気歌手のスウィフトに加え、ケルシー選手も2023年11月の米雑誌「ピープル」誌で大谷翔平とともに「スポーツ界のセクシーな男」の上位21人に選出された人物で、二人はお似合いのカップルです。
日本でも大々的に報道されましたが、テイラーは米国でのスーパーボウル直前、日本時間の土曜日に東京でコンサートを行っていました。そのため、彼氏がプレーするゲームに彼女の到着が間に合わないのではないかという懸念が世界的な話題となり報道されたのです。
それを受け、在米日本大使館は公式Xでテイラーが、日本時間10日の東京公演後、東京からラスベガスまでは飛行機で12時間かかるが、日本とラスベガスは17時間の時差があり、スーパーボウルが始まる前に余裕を持って到着でき、彼女がラスベガスで応援ができるのかについて心配する必要はないと異例のコメントを行ったのです。
実際彼女はプライベートジェットで、余裕を持って米国に帰国し何の問題はなかったのですが、そのプライベートジェットの米国への到着の様子が報道されるなど、彼女のスタジアム観戦はまるでスーパーボウルの試合とセットになっていたかのような扱いでした。
テイラー・スウィフト、日本のコンサートの経済効果は341億円
彼女の今回の日本での4日間のコンサート「Taylor Swift The Eras tour」が日本経済に与えた経済効果は341億円になろうと試算されています。 また、テイラーが2023年行った全米ツアーは50億ドル(約7,500億円)の経済効果をもたらし、米国経済に大きく貢献したと言われています。(50億ドルというとヨルダン1ヶ国のGDPに相当) 。
先ほどの試合の結果はというと、最終的にはカンザス・シティ・チーフズが優勝することになったのですが、今回のスーパーボウルでカンザス・シティ・チーフズを応援したアメリカ人の2割はその理由を、テイラーが同チームのケルシー選手と付き合っていたからだ、と答えているのです。このような現象をアメリカのメディアはNFLのスイフト化(Swift-ization)が起きたと伝えています。
そんなテイラー・スウィフトですが、アメリカの政治の世界でも影響力を持っているようです。 彼女は過去に民主党の政治家を支持し、2020年の選挙でもバイデン大統領の支持をオープンにしていました。今回の大統領選挙では、まだどちらの候補を支持するか明らかにしていませんが、トランプ元大統領は、数日前にわざわざテイラーがバイデン大統領を支持するのは間違っていると発言しています。このような発言は、トランプ大統領が彼女の選挙における影響力を恐れている証拠となるでしょう。
2023年3月に行われたモーニング・コンサルトのアンケートによると、53%のアメリカ人がテイラーファンで、16%が彼女の熱烈なファンだという結果が出ています。このアンケートは、世界で最も成功したEras Tourコンサートツアーが行われる前のことで、今アンケートをやり直したらこの数字はもっと高いだろうと言われています。
前回の大統領選の時より影響力を持つ彼女がもし、「自分はバイデン大統領を支持する」と公言すると、ミレ二アル世代の若者に人気のある彼女は、大統領選挙の行方に強い影響を与える可能性があると言われています。
彼女の熱烈なファンのうち55%は民主党支持、23%は共和党支持で、23%は独立系と分かれています。2023年11月に行われたNBCニュースによるアンケート調査では、40%の有権者が彼女に対しポジティブな見方をしているとしており、これはバイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領、ビヨンセの誰よりも高い評価となっています。
米国の大統領選挙の行方を探る上で要注意なのは、テイラー・スウィフトの大統領候補についての言及なのかもしれません。
(※)参考:本コラムで紹介したブランド/サービス等を提供している企業のうち、米国で上場している企業一覧
ブランド/サービス/社名等:(社名、シンボル、業種)
クアーズ:(モルソン・クアーズ・ビバレッジ、[TAP]、飲料)
バドワイザー:(アンハイザー・ブッシュ・インベブ、[BUD]、飲料)
ウーバーイーツ:(ウーバー・テクノロジーズ、[UBER]、テクノロジー)
プリングルズ:(WKケロッグ、[KLG]、生活必需品)
グーグル:(アルファベット、[GOOGL]、インターネットサービス)
Tモバイル:(Tモバイル、[TMUS]、無線通信サービス)
ベライゾン:(ベライゾン・コミュニケーションズ、[VZ]、総合通信サービス)
パラマウント、プルートTV:(パラマウント・グローバル 、[PARA]、放送)
アップル・ミュージック:(アップル、[AAPL]、音楽サブスクサービス)
リーセス(ハーシーズ):(ハーシー、[HSY]、食品加工)
ファイザー:(ファイザー、[PFE]、医薬品)