株式市場は腰の強い展開が続いています。先月下旬からは高値圏での一進一退といった展開にありますが、これだけの急騰があったにも関わらず、その反動が見えないというのは、それだけ「下がったところは拾っておきたい」という向きが多いということなのでしょう。
下値の底堅さは想定通りであり、日柄調整の進展は「持続的な上昇」といった相場展開の健全性という意味で、ここでは良いことであると位置付けたいと思います。引き続き、前向きなスタンスで相場には臨みたいと考えています。
米国株の暴落や中国の景気減速など、世界を取り巻く懸念材料
そのような中、今回は「金融危機への備え」をテーマに採り上げてみたいと思います。読者の中には「日経平均が史上最高値に挑もうとする局面で何と縁起の悪いことを」と、思う方もいるかもしれません。
かくゆう私も前向きなスタンスであることに変わりはなく、2023年末のコラムで2024年を「史上最高値への挑戦の年」と位置付けているように、危機どころか好調な推移を想定しています。しかし、上手くいっている時ほど、思いもかけないことに足をすくわれがちなのも事実です。調子の良い今こそ、否、今のうちに、改めて備えを再考しておくべき、と考えました。
実際、直近は気になるニュースがちらほらと出始めています。米国ではニューヨーク・コミュニティ・バンコープ[NYCB]株が暴落するなど、1年前に発生したシリコンバレー銀行(SVB)の破綻を一瞬想起させる動きがありました。現在は沈静化を見せていますが、金融株の急落はまさに「炭鉱のカナリア」よろしく、危機の兆しと位置付けられるものです。波乱を予想する訳ではありませんが、嫌なニュースであることは確かでしょう。
中国の景気減速も懸念材料です。ここにきてその傾向は鮮明になってきており、数十兆円規模の負債を抱えて不動産企業が破綻したと言うケースも出てきました。デフレに長期間沈むきっかけになったバブル崩壊直後の日本を彷彿させるような展開です。中国とのデカップリングが進行しているとはいえ、兆円単位の企業破綻が世界経済に影響を与えないはずはないでしょう。その他にも、まだ破綻予備軍が存在するという観測もある状況です。これらが金融危機の発火点となる可能性は否めないのではないでしょうか。
また、世界情勢も懸念するところです。ロシア・ウクライナ情勢は硬直化しつつあり、中東の火の手も止む気配がまだ見えません。台湾海峡の先行不透明感も継続しています。米大統領選の行方によっては、この均衡が崩れると言う見方もあながち杞憂とは言えないでしょう。
日本ではデフレからインフレへの転換、住宅価格の上昇が顕著に
国内においても、諸物価は上昇基調を辿っており、日銀は想定する物価上昇率2%にまだ至っていないとの判断ながら、デフレからインフレへと消費者のマインドは大きく転換してきています。
それに併せて住宅価格も上昇してきており、東京23区における2023年の新築マンション平均価格は1.15億円と、バブル期超えとなる史上初の1億円越えとなりました。一部地域では住宅賃料単価も上昇が報告されています。被雇用者の平均年収が低迷する中での、この住宅費の上昇は、どこかで実需がマッチしなくなる危うさを秘めているように思えます。
バブル期も住宅費は高騰したのですが、当時は「年収の5倍」が目処とされる中、ピーク時には9倍程度の価格になっていたようです。既に現在の価格はマンション取得世帯年収の10倍程度といった試算もあります。もちろん、当時と現在ではローン依存度が低いうえ、賃金水準の引き上げによる購買力上昇が実需を喚起するため、問題ないと言うこともできるでしょう。
しかし、実需喚起が遅れるとやはりどこかでバランスを崩すリスクが急拡大することにもなりかねないと考えます。私は強気のスタンスではあリますが、このような「シナリオと逆行するニュース」には、やはり注意を払っておきたいところです。
好調な時こそ「耳の痛い話」に敏感であるべき
なお、バブル期を経験した方の話によると、「当時はもっと高揚感があった。確かに懸念材料は否定しないが、当時とは違って息はもっと長いのではないか」とおっしゃっていました。確かにこれも1つの見方なのでしょう。
しかし、このような見方を鵜呑みにすることに対しても、私は危うさを感じています。例えば、「当時もかなり息は長かった」のです。バブルをブラックマンデーから日経平均の史上最高値までとすると、実に2年かかっています。実体経済がピークアウトするのはそこからさらに2、3年を要しているのです。歴史を後から見ると早く進んだかのように錯覚しますが、現実は異なるのです。
また、高揚感についても然りです。その当時と現在では本人の経験値が決定的に異なるため、何を以て高揚感を持つかは大きく違ってくるはずです。熟練した視点で当時と同じ高揚感を持つことはまずないと考えるべきでしょう。感覚で捉えることはとても重要ですが、「今回は前回と違う」という認識が誤りであることは歴史が証明しています。過度に悲観的になる必要はありませんが、好調な時こそ「耳の痛い話」に敏感であるべきことを肝に銘じておきたいところです。