衆院選、政権与党が過半数を割り込む

今回はこのテーマで考えてみましょう。ズバリ「総選挙その後」です。10月27日(日)、第50回衆議院議員総選挙が実施され、即日開票がなされました。その結果はみなさんご存知の通り、政権与党(自民党、公明党)が定員過半数を割り込む大敗となりました。自民党は比較第一党を維持しましたが、特別国会において首班指名を受けるには、連立範囲を広げるか、少数与党路線を採るかの選択肢が迫られることになります。

一方、非自民党勢力は結集すれば、政権交代も可能になります。いずれにしても政権求心力は低下し、国会運営や政策実行力といった観点でもかなり慎重な舵取りが今後は求められることになるはずです。2025年夏には参議院選挙も控えており、その結果次第では政治の枠組みが一層流動化する可能性も否めません。岸田前首相の総裁選不出馬宣言を契機に、政治体制は一気に波乱の展開となってきたと言えるでしょう。

不安定な政治は株式投資にとってマイナス

当然、株式投資という観点でも不安定な政治はマイナスでしかありません。政策実行力が低下すると、時流に沿った仕組みの構築が遅れ、結果として国の競争力を毀損してしまいかねないためです。

振り返れば、長期政権となった小泉純一郎内閣の後は、安倍(第一次)、福田、麻生、鳩山、菅、野田の6人の首相がおよそ1年間隔で交代することになり、安定性を欠いた7年(2006~2012年)を迎えることとなりました。

この間、日経平均は16,000円程度から10,000円を下回る水準まで下落しています。もちろん、この低迷は政治の不安定さだけが原因ではなく、リーマンショック、東日本大震災といった未曽有の出来事が影響した部分もあるのですが、こうした不測の事態に対する政策対応という点でも政治の不安定さが足枷となったことは間違い無いでしょう。

筆者も、この時期に「日本の首相は(すぐに変わるから)覚える必要がない」「日本は議論ばかりして決断しない」と辛辣に批判する外国人投資家を目の当たりにした一人です。この時の厳しさを知る者として、再び似たような状況が到来するようなことは何としてでも避けたいという気持ちです。

市場は政権安定化への期待を早くも反映

しかし、選挙直後の株式市場はむしろ上昇で反応しました。与党の過半数割れ観測は選挙戦終盤にも台頭していたため、「既に織り込み済みであり、結果が出たことで悪材料は一旦出尽くし」と受け止めたことになります。

実際、選挙戦は前半こそ「選挙は買い」の経験則通りとなり、日経平均は4万円台を回復する局面もありましたが、後半は政権不安定化懸念から11日連続で陰線を示すなど、買い手不在の軟調な展開に転じました。トータルでは「選挙は買い」の経験則が実に51年ぶりに崩れています。

株式市場としては、結果が明確に出た以上、今後は政権安定化に向けて何らかの具体的な施策が早急に打たれる、という期待を早くも反映したということでしょう。株式市場というのは面白いもので、現実の余韻に浸る(あるいは悲嘆に暮れる)ことなく、常にその先はどうなるのかを見据えた動きをするものなのです。

今後の政権運営に注目

では、今後はどう考えれば良いでしょうか。政権安定化に向けての具体的かつ効果的な施策が早急に打たれるのか、がまず試金石となります。対応が遅れれば遅れるほど、また施策が小出しになればなるほど、期待していた株式市場は失望感を募らせることになリます。

かつての政権与党にはこのような局面で、電光石火で事態を進展させる策士がいたものでした。戦後、少数与党政権は3回発足していますが(第5次吉田内閣、第1次鳩山内閣、羽田内閣)、不信任案を野党に握られるという構造がネックとなり、いずれも極めて短命に終わっています(鳩山・羽田の両内閣は数ヶ月、吉田内閣でも1年半)。

また、比較第一党を除いた多党連立政権では8党派連立となった細川政権が記憶に新しいところですが、こちらも1年を待たずに退陣を余儀なくされました。過去の例を見る限り、その場凌ぎの対応では決して政権安定化には繋がっていないのです。

今回、与野党がどのような形で政権を安定させるのか非常に注目されます。本コラム執筆時点(10月29日夜)ではまだ新たな枠組みが決まっていませんが、現状の展開ピッチを勘案すると、あまり楽観的に考えることは慎んだ方が良いのかもしれません。

野党の政策が採用される時、追い風となる銘柄は?

次に政策ですが、政権がどういう枠組みになろうと、現在は過半を占めることとなった野党の政策が採択される可能性は飛躍的に高まることでしょう。

現野党の主張ポイントは(もちろん、政党によって違いはありますが)減税や補助金、給付付税額控除など可処分所得の向上におおむね集約されると思います。増税イメージを払拭できない現与党と比較すると、その期待度は大きいと言えるでしょう。可処分所得増があれば、まずは日常的な消費(お手軽な外食や生活品などを取り扱うGMS(総合スーパー))などに特に追い風となるのではと想像します。

例を挙げると、外食関連ではすかいらーくホールディングス(3197)、ゼンショーホールディングス(7550)、日本マクドナルドホールディングス(2702)、FOOD&LIFE CAMPANIES(3563)など、GMSではイオン(8267)、サンエー(2659)、ライフコーポレーション(8194)、ヤオコー(8279)、大黒天物産(2791)などが挙げられるかもしれません。

しかし、将来の不安が高まる中では、消費者は防衛行動に傾き、消費は増えません。ここでも政権の安定化が問われることを軽視してはいけないと受け止めます。また、減税や補助金などは財政拡張を伴うものになるはずで、財政赤字をさらに拡大させかねません。それはひいては更なる円安やインフレ圧力にもつながる可能性があり、巡り巡って(元の木阿弥となる)実質所得の低下を招くというシナリオもくすぶることになります。

株価はまず期待を織り込み始めていますが、期待が高いほど失望も大きくなります。前述の通り、今後の政策は非常に難しい舵取りが要求されることも確かです。ぜひ、読者の皆様には雰囲気に流されず、じっくりと考えての投資判断をお願いしたいところです。