日経平均は39,000円前後を軸とした一進一退の推移が続いています。国内では少数与党体制が固まり、野党に内閣不信任というカードを握られたままの薄氷の政権運営が迫られる状況となりました。企業業績も、中間決算を見る限り、一服感が出始めています。

さらに日本を取り巻く世界の状況においても、接戦必至とされていた米大統領選は蓋を開けてみるとトランプ氏の圧勝に終わり、米国では大きな政策変更が不可避という状況となっています。中国では消費意欲が試された「独身の日」セールが期待未満に終わったと論評されるなど、こちらも景気減速懸念がさらに台頭する展開になりました。

どうも先行きの不透明感が高まってきているように思えます。株式市場はニュースフローに振り回される神経質な展開がまだしばらくは続くのかもしれません。

インバウンド需要も高いラーメン店

さて、今回は「ラーメン店」を取り上げてみましょう。多くの人が大好きなラーメンですが、あえてここで取り上げるのには理由があります。そう、インバウンド需要です。

すでに多くの方が認識されている通り、日本のラーメンは日本人だけでなく、訪日外国人が最も楽しみにする食事の一つに数えられています。そして、その訪日外国人はコロナ禍後に急回復を遂げ、このところは円安という追い風もあり、2024年は9月時点で2023年の年間実績2,506万人を突破しているのです。過去最高となった2019年の3,188万人を更新するのではという見方も増える中、街中ではラーメン店で舌鼓を打つ訪日観光客の姿もすっかり定着してきた印象にあります。

そこで、本コラムでは上場しているラーメンチェーンをまとめ、投資に際しての見方を考えてみたいと思います。なお、ここではラーメン専門点をその対象とし、ラーメンを1メニューとして捉える中華料理店や焼き肉などラーメン以外の料理も手掛ける企業はその対象外としています。

上場しているラーメン専門チェーンを相対的に評価する

主な上場ラーメン専門チェーンとしては、ギフトホールディングス(9279)(ラーメン店ブランドは町田商店)、幸楽苑(7554)(幸楽苑)、丸千代山岡家(3399)(山岡家)、力の源ホールディングス(3561)(一風堂)などが挙げられます。

これらはラーメン専門店としていずれも有名な大手企業群なのですが、それでも時価総額は1,000億円未満という水準にあります。これは一般的に中小型株と捉えられる範疇にあり、株式流動性の低さから株価にはボラティリティが生じやすいという傾向は否めません。このことは投資判断を下す前に予めご認識をいただきたいところです。

では、どのような銘柄を選ぶか考えてみましょう。これは頭の痛い問題です。上場しているラーメンブランドを全て食べ比べてみることもできず、自身が「これは絶品」と評価しても、その良さはすでに株価に織り込まれているかもしれません。

そこで一つの考え方をご紹介しましょう。これはラーメンに限らず、飲食業や小売業などにも共通して用いることができる手法なのですが、足元の好不調がどの程度株価に反映されているのかを可視化するアプローチです。同業他社との比較において、どのくらい期待値が上乗せされているのか、あるいはより慎重に見られているのかを確かめることができるというものです。

ただし、あくまで同一業界内での相対評価であり、これだけでその銘柄の買いまたは売りを判断するべきでないことは言うまでもありません。それでも、株式市場が対象銘柄に対して、どのような見方をしているのか、を(相対評価ではありますが)直観的に理解できる手法となります。

月次売上高伸び率と今期予想PERから見えてくる業界の傾向

前置きが長くなりましたが、以下の散布図をご覧ください。この散布図は、縦軸は既存店の月次売上高伸び率(ここでは直近3ヶ月の単純平均)、横軸は今期予想PERとし、ラーメン専門チェーン各社をプロットしたものです(月次売上非開示の企業を除く)。

【図表】ラーメン専門チェーン店の売上伸び率と今期PER予想
出所:著者作成

いずれのデータも投資系サイトや各社HPから拾ってくることが可能です。PERを成長期待値と捉えると、月次売上の伸びの大きな企業ほど期待値(=PER)は高くなるはず、という図式を描くことができます。サンプル数を一定数以上集めれば、その業界の(月次売上とPERの)おおよその傾向が見えてくることになります。その傾向線に対し、どれだけ乖離しているかで各銘柄の割安感・割高感を視覚的に把握することができることになるでしょう。なお散布図には、わかりやすくするために参考として傾向線を加えています。

この散布図を見ると、多くのプロット(=企業)は傾向線に沿った位置にあり、概ね足元の業績動向と市場の期待値は密接に関係している様子がうかがえます。一方で、1社(丸千代山岡家)だけは傾向線から大きく外れており、月次売上の伸びは高いものの、それが市場の期待値向上には繋がっていないという状況も見て取れます。単純に考えると、この背景にあるのは株式市場が当該社の好調を織り込み切れていないのか、あるいは足元の好調の持続性に対して慎重な見方にあるかのどちらかということになります。

正解を見つけ出すことは極めて難しいのですが(正解は常に後からしかわかりません)、こうした仮説を想定・検証するのは実に楽しい分析です。新店計画はどうなっているか、お店の訴求ポイントに変化はないか、といったチェックポイントに加え、ターゲットを絞ることができれば、実際に店舗に足を運んで味や雰囲気、混み具合などをご自身で確かめて判断するのも良いでしょう。

もちろん、傾向線付近にある企業も、今後の好不調次第では傾向線から外れてくる可能性は十分あり、そうした変化を見出すのも楽しいところです。今は過去のデータもすぐに調べることができるため、市場から期待されやすいのか、慎重に捉えられがちなのか、という傾向も確認できます。銘柄研究の醍醐味は実はこうしたところにあると言えるのです。