株価は結局のところ、石破ショックとなった自民党総裁選後の安値付近まで調整が入ってきました。連立与党の過半数割れ後も次なる展開への期待から上昇していましたが、ここにきて「政権安定化に向けての具体的かつ効果的な施策」が遅々として進まない状況が、ついに嫌気されてきたということなのでしょう。まさに前回のコラムで懸念した通りの結果になってしまいました。
今後も、対応が遅れれば遅れるほど、また施策が小出しになればなるほど、期待していた株式市場は失望感を募らせることになるでしょう。当然、それは今日以降選出される次期米大統領への対応策という視点でも出遅れが懸念されることになりかねません。現状に対しては憂慮の念を禁じ得ませんが、少なくとも特別国会が召集される11月11日までは、まだまだ神経質な展開が株式市場においても展開されるのではないかと予想しています。
日米中の消費動向を把握する重要イベント
さて、今回はブラックフライデーを取り上げてみましょう。最近はその後のサイバーマンデーまでを含めて、BFCMと称されることもあるようです。このテーマについては11月に入ると例年のように取り上げている気もしますが、それだけ日米中の消費動向を把握する意味でも非常に重要なイベントでもあると考えています。
言わずもがなですが、ここでは感謝祭前後の米国の大バーゲンセールのみならず、日本の歳末商戦、そして中国で一大イベントとなっている「独身の日セール(11月11日)」を含めての言及になります。かつて、このBFCMは中国の消費力の規模を世界に知らしめ、ECの世界的台頭を知らしめ、米国のリアル店舗の復権をもまた知らしめる契機となりました。個人消費は景気を牽引する重要なファクターです。今回のBFCMではどのような新しい変化が見えるのか、考えられる注目点などをまとめてみたいと思います。
今季のブラックフライデーにおける注目点は?
ズバリ、今回のBFCMシーズンにおける注目点は以下の3点に集約できると考えます。
まずは、米国の消費意欲です。BFCMは大統領選後すぐとなるため、新大統領を米国民がどう捉えているか、伺うことができるかもしれない絶好の機会となります。懸念されているように分断が進み、先行不透明感が台頭すれば、消費意欲も低下し、BFCM商戦も思ったほど賑わわない可能性があります。それはすなわち、今後の景気への逆風となるリスクが示唆されるかもしれません。
次いで、中国の消費意欲です。中国景気にはかなりの警戒感が否めないという報道は少なくありませんが、中国内需の実情を探るという観点から、このセール期間の動きは要注目と言えるでしょう。
そして、日本の状況です。日本では賃金上昇が浸透してきたところでもあり、消費者からすれば経済的に余力が出てきたと期待したいです。しかし、物価上昇を勘案した実質賃金は8月時点で3ヶ月ぶりにマイナスに転じており、消費者の財布の紐が緩む状況にはまだないように思えます。日本の消費意欲について見極める、よい機会と位置づけたいと思います。
日本株投資への影響は?
ただし、それらを日本株の投資に結びつけるのは慎重に考える必要があります。東証の業種別株価指数(小売業)の過去のトラックレコードを見る限り、BFCMシーズンで目立ったインパクトを確認するのは難しいからです。実際にBFCM期間(11月中旬~12月中旬)の前後でどの程度株価が動いたかを調べてみると、日本でブラックフライデーが喧伝され始めた2014年から昨年2023年の10回で株価指数が上昇したのは半数の5回に留まります。
もちろん、BFCM期間中は相当の消費喚起がなされているのですが、それが需要の先食いであれば、その後の反動減は否めません。株価指数上昇ケースが50%ということは、株式市場も一時的な効果なのか、それとも消費全体の水準向上のきっかけとなるのかを、しっかりと見極めているのではないかと考えます。
過去10年で株価指数の上昇が顕著だったのは2016年、2017年の2回のみで(それぞれ5%程度の上昇)、この時は安倍内閣の政治的安定局面下にあり、経済的にも(当時の)円安が落着いて名目GDPの伸びが一服した(実質GDPは堅調を維持していた)頃に相当します。実質賃金も徐々に伸び始め、先行を楽観する向きが増える一方、物価はまだ顕著に上昇していないという時期でした。
では、現在の状況はどうでしょうか。残念ながら、この時の条件とはあまり重複していないようにも感じます。セミマクロ的に見れば、ブラックフライデー好調という言葉が踊っても、あまり株価は反応しないという可能性を考えておく必要があるでしょう。
ブラックフライデーを成長のチャンスにできる個性的小売り企業
ただし、ミクロではやや視点が変わってきます。経済全体が停滞する中でも成長企業が出てくるように、個性を持った小売企業ならば、BFCMを独自の成長を加速させるきっかけにするケースが十分考えられます。
そのような企業を事前にピックアップするのは難しいのですが、例えばBFCMセールを明確に実施している企業で、かつ売上高の予想伸び率が比較的高い企業をリストアップすると、エービーシー・マート(2670)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)、イオン(8267)、ヤマダホールディングス(9831)、しまむら(8227)、三越伊勢丹ホールディングス(3099)などの企業が挙げられます。
売上成長期待の高い企業にはBFCMがさらにブーストをかける可能性があるのでは、と考えます。もちろん、これらの大企業ではなく、もっと変化率の大きな中堅企業も頭角を出してくるケースも十分あり得ます。
BFCMではお目当てのお買い物だけでなく、同時にどんな製品・商品が売れ筋になっているのかを確認するというのも、一つの楽しみとして捉えたいところですね。