東京楽天地とオーエス、公開買付が発表され株価が大きく上昇

映画館事業の再編とも言える今回の買収

12月6日に東京楽天地(8842)、オーエス(9637)がそれぞれ東宝(9602)、阪急阪神ホールディングス(9042)に公開買付され、両社ともに上場廃止の見込みであることが発表されました。公開買付の発表に伴い大きく株価が上がりましたが、楽天地は時価総額が約450億円、オーエスは約160億円で、いずれも規模が大きい企業ではありません。東宝、阪急阪神はそれぞれ時価総額が1兆円前後なので、それと比べても非常に小さい企業です。前回取り上げた大正製薬ホールディングス(4581)やベネッセホールディングス(9783)と比べても、この買収はあまり話題になっていないように見えます。

楽天地、オーエスはもともと映画館運営を祖業としており、楽天地は東京錦糸町、オーエスは大阪梅田が拠点です(オーエスは創業の地は神戸三宮)。両社とも、もともと阪急グループと縁が深く、東宝も阪急グループが発祥の企業であり現在も阪急阪神HDの持分法適用会社です。つまり、今回の買収は広い意味での阪急阪神ならびに東宝グループによる映画館事業の再編と言えます。

今回の買収の前でも楽天地の筆頭株主は東宝で、2位が阪急阪神HD。オーエスも同様に東宝、阪急阪神不動産、阪急阪神HDが株主に並んでいます。今回の公開買付価格はいずれも直前の株価から50%程度高い価格となっており、一見するといい条件での公開買付にも見えます。

実は「不動産保有会社」として注目に値する両社

本コラムでも過去2回に渡って楽天地に注目

さて、先にこの買収はあまり話題になっていないとしましたが、一部の投資家には印象的な買収だったと思われます。大きな企業ではないものの、この連載でも楽天地のことは何度か取り上げてきました。例えば、2020年12月の記事「東京ドーム買収劇の裏側、次に注目される不動産保有銘柄は?」です。

同記事では、東京ドームの不動産の魅力を案内すると同時に、同じような魅力のある不動産会社として、テーオーシー(8841)、飯野海運(9119)、東急レクリエーション、日本空港ビルデング(9706)と合わせて、この楽天地を取り上げています。東急レクリエーションも2023年9月に東急(9005)による子会社化が発表されたので、約3年で5社のうち2社は親会社に買収されたということになります。

また、2021年8月付の記事「不動産会社の含み益の状況と、賃貸不動産が目立つ企業は?」では、不動産会社各社の賃貸物件をまとめています。ここでも帳簿価格に対し、直が高い企業として目立つのは、前述したテーオーシーと楽天地です。

楽天地は保有している賃貸不動産の帳簿価格が273億円に対し、時価が585億円ということで、含み益は300億円を超え、当時の楽天地の株式時価総額が262億円だったことを考えると、含み益だけでもそれを上回っている格安な状況だったと言えそうです。今回の公開買付で株価が上がり、時価総額は約450億円になっているので、結果的にその頃の時価総額から200億円上乗せされたということになります。

おそらくこれまでにも株価が大きく上がる機会はあった

つまり、楽天地は不動産保有会社として特に注目に値する企業であったということです。上記の不動産会社の含み益では取り上げていませんが、オーエスも同様に不動産保有会社として注目できます(オーエスは本業が映画興行とされ、サービス業に分類されているため、上記のリストには入っていません)。

これは楽天地が錦糸町や東京浅草を中心に、オーエスは梅田や神戸三宮を中心に優良な不動産を多数保有している一方、業績にそれは反映されておらず、保有不動産に対し株価が割安だったためです。上記の記事ではアクティビストのストラテジックキャピタルが京阪神ビルディング(8818)に投資、提案を行っており、京阪神ビル株が大きく上がっていることを紹介しましたが、同じような機会が楽天地などにはあったということです。

一方、今回、冒頭にも書いたように両社は阪急阪神東宝グループが大株主として存在しており、京阪神ビルと比べるとなかなかアクティビストも投資先として戦略が見出しにくかった面があるのかも知れません。しかし、親子上場の問題視や少数株主価値重視の動きの中で、阪急阪神東宝グループとしても楽天地やオーエスをこのまま上場させていても良くないと判断した面もありそうです。

前述の東急と東急レクリエーションの例も同様に見えます。上記の2021年の記事でも楽天地、空港施設(8864)、テーオーシーを注目の不動産会社と書いていますが、同列で紹介した日本アセットマーケティングも「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)(7532)が2021年12月に公開買付を発表し、買収。その後、上場廃止に至っています。

株主目線では今回の買収が「良いニュース」と言える理由

つまり、今回の楽天地、オーエスの買収は阪急阪神東宝グループの映画館事業の再編であると同時に、アクティビスト目線で言うと、親子上場の解消、そして保有する不動産価値がおそらくは触媒になっているという点で、上記の東急と東急レクリエーション、PPIHと日本アセットマーケティングと同様に考えられるということです。

そして、上記の4つのケースはいずれも株主にとっては良いニュースで、それぞれ直前の株価から見て大きく株価が上がる形で買収が行われています。楽天地とオーエスは進行中で、楽天地に至っては公開買付価格を上回って株価が推移していることから、このまま阪急阪神東宝グループの想定通りに買収が完了するかははっきりしていない面もあります。しかし、少なくとも現時点で楽天地株を取引所で売却すれば買収発表前より高くは売れます。

「親子上場かつ子会社が優良不動産を保有している」条件を満たす銘柄とは?

条件を満たす企業は減っているものの、あえて言うなら…

それでは「それに続く銘柄とは?」が投資家としては気になるところです。親子上場で子会社が優良不動産を保有している、というのが良さそうではありますが、上記のようにそういった会社が減ってきているのも事実です。過去の記事で取り上げた企業では、上場している親会社がある企業はすべて買収されており、テーオーシー、飯野海運、日本空港ビルデング、空港施設はいずれも上場親会社はありません。

あえて言えば、日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)がそれぞれ約20%を保有する空港施設は面白い可能性はあります。日本空港ビルデングもより少ない株数にはなりますが、同じくJAL・ANAが保有しています。ただ、2社が保有していると1社が保有している場合より簡単にはまとまらないでしょう。

これまでの記事で取り上げた以外で不動産保有が目立ち、親子上場と言えそうな企業を探してみましょう。まず三重交通グループホールディングス(3232)はホテル、不動産を幅広く保有しており、近鉄グループホールディングス(9041)が大株主です。また、こちらはよく注目されますが、平和不動産(8803)も三菱地所(8802)の資本が入っており、優良不動産を多数保有しているということで注目でしょう。エムティジェネックス(9820)は不動産を直接保有しているわけではないのですが、森トラストの駐車場管理を広く行っており、森トラストが過半数を握る筆頭株主です。企業のサイズを考えると注目できそうです。

同じく土地持ちで言うと、松竹が筆頭株主の歌舞伎座(9661)、三井不動産の帝国ホテル(9708)も挙げられるでしょう。同じような文脈では、系列が明確ではないですが東京會舘(9701)もあります。東京會舘は本館再開発では三菱地所と連携しています。これらの企業は歴史も存在感も大きく、なかなか買収は難しそうな印象がありますが、はたしてどうでしょうか?

親会社が上場していない場合の注目企業

楽天地、オーエスのような企業を考えると、親会社が上場していないものの、ある程度、明確な企業が面白いのかも知れません。これまでに取り上げてきたテーオーシーはまさにその典型で、同じようなことを考える方は多いと見られ、楽天地、オーエスの買収発表後、テーオーシー株は20%近く値上がりしています。

同様の企業としては埼玉県川口市に大型商業施設などの土地を持つサイボー(3123)も挙げられます。同社は祖業の紡績工場跡地をイオンのモールとして賃貸しており、その収益が利益の過半を占めています。同社の保有賃貸不動産は帳簿上では266億円ですが、時価は406億円と140億円の含み資産がある一方、同社の時価総額は70億円に満たない水準です。マンション開発のゴールドクレスト(8871)は完全なオーナー会社ですが、アクティビストのストラテジックキャピタルが株を買い増しています。

ストラテジックキャピタルは、Xの公式アカウントで継続的に興味深い投資情報を発信しています。2022年11月1日のポストでは、バリュー投資のスクリーニング方法を紹介しており、スクリーニング結果にアクティビストの投資先が多いことを「アクティビストが狙う銘柄は似ますね」と表現しています。その検索結果に上記のゴールドクレストもあがっているのですが、そのポストでは「バリュー投資の対象は『割安さの解消される可能性』であって、『割安さ』ではない」としており、これはストラテジックキャピタルが「割安さの解消される可能性」を見出したことを示しているのかも知れません。もちろん、だからこそ何十億円という金額を投資しているのだと思いますが。

楽天地とオーエス、興味深い買収価格についても今後要注目

楽天地、オーエスの買収はその時点の投資家にとっては良いことには見えます。一方で、そういった面白い企業が買収されていくのは、どこか寂寥の念を感じる部分もあります。特に、両社は映画館運営という個人にも近い企業であり、映画館の株主優待でも有力な企業でした。一方で、本記事にも挙げたように、まだまだ興味深い企業は多数あり、それらを探すことは大変楽しいことのように思います。楽天地、オーエスの買収については買収価格においても興味深い点があるので、またそちらも確認できればと思います。