東京ドーム(9681)はご存知の通り、ドーム球場である「東京ドーム」とその周辺の遊園地、ホテルなど各種施設を擁する東京ドームシティの運営を主軸とした会社です。その他にも東京都内の不動産運営、小売事業や競輪事業、熱海の「熱海後楽園ホテル」などを運営していますが、それらの事業規模は小さく、札幌のホテル運営を終了するなどドームシティ事業以外は縮小傾向です。
ドームシティ事業はここ数年、毎年150億円以上の事業利益をあげており、東京ドームの主力事業になっています。大阪の中之島、梅田、御堂筋、淀屋橋、東京の秋葉原、日比谷、虎ノ門(商船三井本社)、青山ライズスクエア(JCB本社)、八重洲、新宿(新宿アルタ)などに不動産を有するダイビル(8806)の営業利益がここ数年100-110億円程度であることを考えると、ドームシティがどれだけのドル箱であるか、理解いただけることでしょう。
利便性・集客力の高い東京ドーム
ドームシティは電車・地下鉄を使って東京駅・新宿駅・池袋駅といった主要駅から10-15分程度、羽田空港から45分程度、ドームシティから徒歩数分圏内に5路線6駅があるという圧倒的に利便性が高い立地を誇ります。
福岡ドームが最寄り駅(地下鉄唐人町駅)から徒歩15分の場所にあり、最寄り駅が同駅だけ(福岡市内の移動はバスも利用されていますが・・・)ということを考えると、東京ドームは極めて有利な立地にあると言えるでしょう。
東京ドームと福岡ドームには、周辺人口においても大きな差があります。事実、福岡ドームは球団・球場が好調である一方、その商業施設であるホークスタウンは苦戦していました。福岡・博多を拠点とするアイドルグループ HKT48の劇場もあったホークスタウンですが、スーパー銭湯・映画館が集客の厳しさから閉鎖するなど、施設の空洞化が進んでいました。
2015年に土地を取得した三菱地所(8802)はホークスタウン周辺を再開発し、新たな商業施設・マンションなどの複合開発を行っています。一方、ドームシティが2003年にラクーアとして開発したショッピングモールは好調そうです。これは運営面の違いがもちろんあると思いますが、立地の差も大きいのではないかと思われます。加えて、東京ドームは敷地の大きさも図抜けています。都市公園に指定されているため、運用に一定の制約があるものの、ポテンシャルが非常に高い土地と言えるでしょう。
三井不動産によるTOBで東京ドーム株は上昇
前回の記事でもお伝えした通り、読売グループは球団・球場の一体化を図ることが理にかなっており、また東京ドームが有するドームシティは収益をあげる不動産として極めて魅力的です。そういった背景もあり、日本を代表する不動産会社である三井不動産(8801)が読売新聞グループと連携して東京ドームを公開買付することになったのでしょう。
三井不動産は自社のノウハウでさらにドームシティを活性化し、読売新聞グループと連携して球団(読売ジャイアンツ)と球場(東京ドーム)の一体運営を図ることで、さらに東京ドームの価値を向上する青写真を描いているように思えます。三井不動産の買付価格は1,300円であり、公開買付が報道される直前の同社の株価の終値897円に45%近いプレミアムをつけ、2020年の最高値である1,104円から見ても高い値段になっています。
この東京ドームに目をつけていたのがアクティビストである香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」でした。オアシスは2020年初めの時点で東京ドーム株を9.61%保有していました。三井不動産の公開買付に関するリリースにはオアシスとの交渉の様子が詳細に記されています。
オアシスは東京ドーム株式を取得後、ウェブサイトから東京ドームの業務改善策を提案しており、東京ドームに対し同社株を1,300円ですべて買い取る提案(つまり、公開買付を行うことと思われます)をしていました。その後、10月には東京ドームに経営陣を刷新すべく臨時株主総会を招集していました。この間に、東京ドームは読売新聞グループを通じ、もともとドームの不動産に注目していた三井不動産と対応を協議していたとのことです。
オアシスの株式買付と1,300円での買付提案が行われた後、東京ドームは激震に見舞われます。言うまでもなく、2020年度の決算はコロナ禍の影響もあり赤字になる見通しです。そんな時期に行われたオアシスの臨時株主総会招集の際には、東京ドーム買収の話は特に出なかったようです。
このような動きを経て、11月に三井不動産は読売新聞グループと買付価格を1,200円とし、公開買付を行うことを東京ドームに提案します。東京ドーム側はその提案に対し、オアシス提案(1,300円)やその他の公開買付事例などを考慮し、1,350円を要請しました。三井不動産側はそれを受け、提案を1,250円に増額、最終的に両者とも1,300円で合意したとのことです。これは当初のオアシスの提案と同額ですが、オアシスの提案後に新型コロナウイルスが感染再拡大したことを考えると、合理的だと判断されたようです。
公開買付が発表された後、東京ドームの株価はオアシスの動きで公開買付価格が上がることも目論んで、公開買付価格1,300円を超える水準で動いていました。一時は1,400円を超えたものの、オアシス側が「三井不動産の公開買付を歓迎する」としたことで1,300円台に落ちています。
オアシスは1,300円で応募するとは明言しておらず、しばらくは動きがあることが予想されます。三井不動産の公開買付によって1,300円で売れるわけですから、慌てて取引所で売却する必要はありません。これは、これまでの公開買付と同様です。今回の公開買付でもアクティビストの存在は東京ドームの一般株主にとって有利に働いていると言えるでしょう。
東京ドームはランドマークを含む有力不動産を保有しながらも、時価総額が1000億円に満たない魅力的な投資先だったと言えます。帝劇ビルを保有していた東宝不動産、八重洲の不動産を有していたユニゾホールディングスなど、不動産を保有する比較的小規模な会社は徐々に買収される傾向が見られます。
次に注目される不動産保有銘柄は?
同じような銘柄にどういうものがあるでしょうか。五反田TOCビルをはじめ大崎・有明などに物件を有するテーオーシー(8841)(時価総額730億円)、錦糸町楽天地ビルや浅草物件を有する東京楽天地(8842)(時価総額290億円)、虎ノ門に大規模ビルを構える飯野海運(9119)(時価総額460億円)、歌舞伎町のミラノ座跡地を有する東急レクリエーション(9631)(時価総額310億円)などは小型で優良不動産を保有していると言えそうです。
そしてかなり大型になりますが、羽田空港の家主である日本空港ビルデング(9706)(時価総額5490億円)もやはり注目されるところでしょうか。アクティビストの動きにも引き続きご注目ください。