中国当局の景気刺激策への期待などから株価切り返しへ

2023年10月の中国本土市場・香港市場は中盤までは軟調な展開が続いていたものの、終盤から切り返しています。2023年9月28日終値~11月6日の騰落率は、上海総合指数が-1.7%、香港ハンセン指数が+3.4%となっています。

大手不動産企業のデフォルト懸念、10月中盤までは冴えない中国の経済指標、欧米の株式市場が軟調であったことなどから株価は調整が続いていたのですが、前述の通り、10月終盤からは切り返しています。

株価が切り返した理由は、中国当局が2023年に発行する新規国債を10-12月期に1兆元増額すると決め、公共投資を拡大して景気のてこ入れを狙ったこと(全額を地方政府に支給し、災害の復旧・復興の支援や自然災害に耐える総合力を強化する)や政府系資金である国家隊が買い支えに動き出したこと(中央匯金投資有限責任公司がETFを追加購入したとの報道)、中国政府が人型ロボットの開発を支援するなどの追加の景気刺激策を打ち出すとの期待によるものです。

また、米国の金利先高感が低下して米国の金利が下がり、欧米の株式市場が回復したことや人民元が上昇したこと、中国の9月の工業部門企業利益が8月の前年比17.2%増に続き、11.9%増と大きく増加したことなども株価の回復の追い風となっています。

上海総合指数は依然として50日移動平均線や200日移動平均線よりも株価が下で推移していますが、香港ハンセン指数は8月中旬以降、強い抵抗線となっていた50日移動平均線を株価が上に突き抜けました。

なお、香港ハンセン指数の第3四半期の時価総額別の値動きを見ると比較的大型株は下げが緩やかな一方、小型株ほど大きく下げています。年初来の下落率の上位銘柄は不動産株や不動産管理企業が並びます。また、銀行や保険株などの金融株も弱い値動きとなっていますが、これらは不動産不況に関係し、資金の出し手として警戒されたものと思われます。

不動産不況は引き続き注視すべき問題

このように市場全体の動向やセクター別の株価にも大きな影響を与えている中国の不動産不況ですが、引き続き巨大な債務を抱える不動産大手の支払能力が問題視されています。それが銀行や保険会社など、金融大手の懸念に拡がる構図は、2000年代の米サブプライムローン問題に似ています。

サブプライムローンは支払い能力のない個人に対し過剰な不動産融資を積み上げたものでした。そしてその債権は、様々な投資商品に優良な債券と混ぜられた上で、高い格付けをつけられて販売されていたので、金融機関も自らの資産内容を完全には把握できない中で投資していました。この支払い能力のない個人に対する不動産融資を、中国の支払い能力のない企業への不動産融資に置き換えれば、構図は同じに見えます。

千数百兆円(2027年に2000兆円の推測も)にもなる地方政府傘下のフィナンシャル・ビークル「融資平台」の発行する債券の買い手は、銀行理財商品、信託商品、そして保険会社などになっています。

融資平台は「暗黙の政府保証」があるので安全と思われてきたもので、集めた資金で道路や橋、公共住宅などインフラ投資が行われてきました。当然、不動産開発にも多額の資金を投入しています。民間の主要不動産大手11社の開発用不動産在庫だけで130兆円あり、仮にその不動産価値が3分の2に下がれば、減損によって全体で債務超過となります。従って不動産価格が下がらないことと、不動産へ投資するお金が流れ続けることが重要です。
現状開示されている中国の大手銀行などが直接融資する表向きの不良債権比率は低いのですが、投資商品などを通じて間接的にどれほど不動産向けに資金が投じられているかはよく分かっていません。

ただ、中国の巨大な不動産債務を誰が支えているかと考えれば、様々な要因で安全だと思われていた「融資平台」の発行する債券・理財商品を通じて、巨大な金融機関が資金を投じてきたというのが実際の構図だと思います。

もちろん、不動産市況の悪化が深刻化しないように中国当局が様々な不動産市場への刺激策を打ち出しているため、システミックリスク(市場または決済システム等の機能不全)へと発展する可能性は今のところはまだ大丈夫と言えそうですが、中国の不動産市場がどうなっていくのか、今後も注視していく必要はあります。