日経平均株価は方向性に欠ける荒い展開となっています。前回のコラムで調整に時間がかかるのではとの懸念を示しましたが、30,500円付近で一旦底を打ち、大崩れは回避したという状況になっています。
しかし、ロシア・ウクライナ情勢に加えて中東でも戦闘が始まり、俄かにきな臭さが世界に伝播する気配も漂い始めました。現時点ではまだ経済的な大波乱は生じていませんが、予断は許されません。株式市場もしばらくは楽観と悲観が交差する荒い展開が続くのではないかと予想します。それ以上に、一刻も早い各地の戦闘終結を願って止みません。
コロナ禍以降、観光地は「オーバーツーリズム」状態
さて、今回は「ホテル業界」をテーマに採り上げてみましょう。直近ではインバウンドをテーマに採り上げましたが、今回はそれに関連する第2弾という位置付けになります。
少し背景を振り返ると、直近はコロナ禍沈静化ということもあってインバウンドが急増した結果、多くの観光地では観光需要に人的にも物理的にも対応が間に合わない「オーバーツーリズム」が懸念されるほどの状況に至っています。
観光産業はコロナ禍で一旦身の丈の圧縮を余儀なくされたのですが、一気に旅行需要が拡大したことでカウンターを喰らった状態となってしまったのです。前回のコラムではタクシーなどの交通機関をその典型例と解説しました。
ホテル業界にも需要拡大の追い風
では、宿泊に関してはどうなっているのでしょうか。ホテル業界における主たる上場企業は、西武ホールディングス(9024)、リゾートトラスト(4681)、共立メンテナンス(9616)、エイチ・アイ・エス(9603)、帝国ホテル(9708)などが時価総額上位にランクインしています。
ご多分に漏れず、ホテル業界にも需要拡大の追い風は吹いています。観光庁の調査によると、直近の宿泊施設稼働率はシティホテル、ビジネスホテルともに7割弱まで上昇してきました。ホテル業界はコロナ禍発生直後に壊滅的打撃を受けたのですが、そこからおよそ2年を費やして、ようやく稼働率が5割を超えるに至ります。
そして、さらに1年弱で稼働率は7割程度に到達し、コロナ禍前に匹敵する通常モードと言える水準まで回復してきたと言えるのです。なお、理論上のフル稼働は100%となりますが、スタッフの人繰りやキャンセルの発生などを考えれば、現実にフル稼働が継続することはまずありません。
ホテルがフル稼働状態とされた平成末期のインバウンド急増時でも、観光庁統計の稼働率は8割前後でした。そのような観点から考えると、実質的な稼働率は7割弱というよりも、かなりフル稼働に近い水準にまで回復してきていると考えられるでしょう。
一般的にホテルは稼働状況にかかわらず、発生する固定費負担が大きい構造にあるため、稼働率は業績を大きく左右する非常に重要なKPIとなります。その稼働率が(実質的な)フル操業に近い水準にあるということは、業績面でも朗報ということが言えるのです。
ホテル業界、株価の戻りが良い企業の特徴とは?
なお、かつては民泊がホテルの脅威になるのではとの観測もありましたが、民泊の延べ宿泊者数が宿泊需要全体に占める割合は現在1%程度に過ぎません。宿泊需要回復の追い風の主役はやはりホテル業界が担うことになると言えるでしょう。
しかし、コトはそう単純ではありません。稼働率で業績が左右されるというボラティリティを抑制・緩和させるために、伝統的にホテルはレストラン機能や宴会、セレモニー、大型会議などの招致にも積極的に取り組んできました。規模の大きいシティホテルなどでは、それらの収益貢献が宿泊による貢献を上回るケースもあったのです。
コロナ禍ではそれらの需要もやはり剥落したのですが、その後の生活様式の変化と相俟って、宴会、セレモニー、大型会議などの需要回復は宿泊需要と比較してまだ鈍いというのが実態です。
皮肉なことに、収益の多様化を進めた企業ほどその分回復は鈍く、シンプルに宿泊事業に軸足を置いていた企業ほど回復が速いという状況になっているのです。実際、ホテル関連企業の株価も、どちらかと言えば宿泊特化型企業の方が株価の戻りも鮮明なように感じています。
ホテル関連銘柄における投資戦略、そのポイントとは
では、そのようなホテル関連銘柄に対する投資戦略はどのように考えるべきでしょうか。既にインバウンドなどを軸に宿泊需要が急回復していること、ホテル稼働率も高い水準に近付いていることなどを考えれば、ファンダメンタルズに関する多くの材料は株式市場に織り込まれている可能性があります。
株価がさらに上値を追っていくには、このような既知のファンダメンタルズを越えた(その銘柄ならではの)新しい材料が必要になってくるのではないでしょうか。例えば、客室需給のタイト化に伴う宿泊単価の引上げや、宴会、セレモニー、大型会議などの需要の回復シナリオなどです。
宿泊特化型ホテルでは(客室数という物理的制約が成長限界となるため)、いかに利用者に付加価値を認識させるかがポイントになるはずです。また、非宿泊ニーズ対応では、リモート会議の活用やコスパ重視といったポストコロナの行動様式にマッチした新サービスをどれだけ開拓できるか、が成長のカギとなるでしょう。