日経平均株価は9月下旬から一気に値を崩すこととなりました。

前回のコラムでは「相場の勢いが問われる局面に差し掛かってきた」とし、「当面の関心事は年初来高値を更新できるのかどうか」と解説しましたが、残念ながらその結果は芳しくない方向に向かうことになりました。相場の転換点となったのは、米国金利の再上昇観測です。

ここまでの反応はやや予想外でしたが、それだけまだ世界経済にはリスクが横たわっているということなのでしょう。高値更新への挑戦には、またしばらくの調整期間を要することになるのでは、と受け止めています。

暫定プライム銘柄、経過措置の行方

さて、今回は暫定プライム銘柄のその後をテーマに採り上げてみましょう。暫定プライム銘柄については、2023年2月のコラムでもテーマとして採り上げました。東証は上場基準を満たしていない暫定プライム企業に対して明確に改善期限を区切り、それでも基準未達であれば上場廃止になる方針を示しました。

その上で、2023年9月末までにスタンダード市場を選択する場合は、その移行を認めるという救済措置も提示しています。暫定プライム企業にとってはスタンダード市場を甘受するか、背水の陣でプライム市場残留に臨むか、の二者択一が迫られたのです。

2023年2月のコラムでは、プライム残留を目指す企業は基準達成に向けて相当に積極的な対応策を打ち出してくるだろうと予想し、そこに投資妙味が出てくるのではという視点で解説しました。例えば、増配や株式分割など、即効性の高い施策が打ち出される可能性が大きいと考えたのです。実際、増配に踏み切る企業はかなりの数に上ったのでした。

プライム基準達成を目指す企業に投資妙味はあるか

では、二者択一の期限である9月末を越えて、暫定企業群はどういった選択をしたのでしょうか。2022年末時点で基準未達の暫定プライム企業は269社を数えましたが、このうち、およそ177社がスタンダード市場への移行を選択することになりました(最終集計はまだ固まっていません)。過半が「身の丈に合った」選択をし、上場企業というポジションを維持するという決断をしたということになります。

その一方で、残り約90社は背水の陣でプライム基準達成を目指す選択をしたことになります。上場廃止となれば社会的信用や担保能力、資金調達手段などにも影響が出かねないというリスクの大きさを考えれば、残り90社にとって基準未達は一時的なものに過ぎなく、達成には相応の強い自信があるということなのでしょう。

このような企業は、今後一時的にせよ基準未達となることのないよう(つまり、少々の株価の動きで基準達成に一喜一憂することのないよう)、余裕を持って基準をクリアしておけるような株価・株主数水準を目指すことになります。当然、これはさらに投資魅力度を引き上げていくということに他なりません。引き続き、投資妙味のある銘柄群ということができると考えたいところでしょう。

ただし、企業が相応の自信をいくら示したとしても、市場からその実現性に疑義が持たれ、基準達成は困難と認識されるケースも十分考えられます。その場合、(企業の自信とは相反するように)株式市場は将来の上場廃止リスクを織り込み始めることになります。この点には注意が必要です。企業のコメントや自信を鵜呑みにすることなく、本当に企業側の計画した改善策が実現できているのか、順調に進捗しているのかなどを見極めることが肝要です。本当に自信のある企業は、そういった成果をしっかりと開示しているはずですから。

スタンダード市場へ移行する企業にも、投資妙味あり

一方で、スタンダード市場へ移行する企業はどうでしょうか。実はそういった企業群も引続き高い投資妙味を持つ企業が少なくないのではと考えています。

スタンダードへ移行したとしても、それまでプライム残留に向けて種々の企業価値拡大策を真摯に検討・実施してきたことは間違いないはずです。「身の丈に合った」市場選択となりましたが、高みを目指した経験はその後の会社経営に大きく貢献することでしょう。取締役会も市場変更の決断を前に、相当に活性な議論がなされたと考えられます。

実際のところ、プライム維持に向けて割かなければならなかった人員や予算を今後は成長へと振り向けることができるという利点は大きなものがあります。成長を真摯に追求したいと考えていた企業にとって、むしろ肩の荷が下りて存分に成長を追求できるという環境が整ったと位置付けることができるのです。

もちろん、そういった前向きなスタンダード市場選択ではなく、ある種の諦めで市場を選択した企業も存在しているはずです。投資家の皆さんは、当該企業がなぜスタンダード市場を選択したのかについて言及したニュースリリースなどを読み比べてみてください。きっと、戦略的な選択なのか、仕方なくの選択なのかがぼんやりとでも見えてくることでしょう。それらをしっかりと見極め、成長を指向する企業を選択したいところと考えます。

ちなみに、プライム市場の選択も可能、あるいは十分射程圏であったにも関わらず、4月以降にスタンダード市場を選択した時価総額上位企業は(2023年8月時点)、日産東京販売ホールディングス(8291)やセラク(6199)、大豊工業(6470)、HEROZ(4382)、サーバーワークス(4434)、中央発條(5992)、パリミキホールディングス(7455)などがあります。まずはこのような企業のニュースリリースを読み比べてみるのはいかがでしょうか。