株式市場は少しずつ値を戻してきました。中国の景気失速リスクが徐々に顕在化してきたものの、一旦それらは株価に織り込まれたというところなのでしょう。

国内では4―6月期が15期ぶりの需要不足解消になるなど、国内景気は概して堅調な状況にあります。脱デフレ進展は素直に好材料と受け止めたいところです。短期的には中国景気問題や米国金利の再引上げ観測などが水を差す局面もあるでしょうが、基本的には楽観的なスタンスで臨みたいと考えています。

日本のインバウンドはどのような変遷を辿ったのか

さて、今回は「インバウンド」をテーマに再び採り上げてみましょう。

前回のテーマ「海運株」と同様、このテーマも実は過去に2回採り上げています。最初に採り上げたのは2015年の冬で、この時は急増する訪日外国人による「爆買い消費」に焦点を当てました。ホテルや百貨店、家電量販店などに注目しつつも、同時に円安や新興国躍進などに左右されず、欧米と同様に日本のアイデンティティや文化が世界の旅行者を安定的に魅了し続ける必要があると解説しました。

2022年秋に2回目にインバウンドをテーマに採り上げた際は、コロナ禍で冷え切っていた観光産業の回復の起爆剤になるのではと解説し、爆買い消費から体験型消費にシフトしていくのではとの見方も提示しました。

その後、旅行客の入出国規制が緩和されるに伴って(中国人団体旅行復活前にも関わらず)、訪日外国人が驚愕するほどの急回復に至りました。ただ、モノ消費は回復してはいるものの、かつての「爆買い」復活までには至っていないように感じています。その一方、確かに体験型消費のウエイトは増している模様です。

オーバーツーリズム問題が浮上するコロナ後のインバウンド

そして3回目となる今回は、インバウンドにおけるオーバーツーリズムに注目してみたいと思います。

コロナ禍によって観光客の受け入れ能力が一旦縮小した影響もあるのでしょうが、ここもとの観光客急増は様々な問題点を浮き彫りにすることとなりました。

その典型例が京都です。生活バスが観光客に占拠され、地元の方が利用できないという事態が発生しています。また、タクシーが全く足りておらず、途方に暮れる観光客も居るという指摘も耳にするようになりました。神秘的な空間でインバウンド観光客に人気の伏見稲荷に至っては、とある英国企業の調査によると、あまりの人の多さにむしろ「最悪の観光地」にランキングするという状況にもなっているのです。

オーバーツーリズムの発生により、観光客にも地元の方にも不満が発生する皮肉な状況に陥っている可能性は否めないと言えるでしょう。このような状況を放置すれば、観光産業は一時的なブームは享受できても、持続可能な成長はおぼつかないということにもなりかねません。そう遠くない未来において、このような状況を緩和・解決するビジネスのニーズは急速に高まり、産業として成長してくるのではないかと予想します。

投資目線で考える、今後のインバウンドを支える企業群

では、オーバーツーリズム対策として、どのような企業群が投資対象として考えられるのでしょうか。

まず挙げられるのは、既に国交省などが推奨している「手ぶら観光」です。大きな荷物は駅や商業施設において預かり、それをホテルや海外の自宅に配送してもらうというサービスです。これであれば大きな荷物を持ち歩く必要がないため、交通機関や観光地のスペースにも余裕が生じ、結果としてオーバーツーリズムの緩和に繋がることが期待できるというものです。当然、これは国内の観光客やビジネス客にもメリットがあることでしょう。

既にヤマトホールディングス(9064)や佐川急便を子会社に持つSGホールディングス(9143)、日本郵政(6178)といった宅配業者でこういったサービスが展開されていますが、今後は認知度の高まりで注目される可能性はあると考えます。同時に、駅などに設置されるロッカーのさらなる充実も予想されます。コインロッカー関連は上場企業が少ないのですが、日本で初めてコインロッカーを製造・販売したアルファCo(3434)などがあります。

しかし、それ以上に期待されるのは抜本的な人的輸送力の強化です。人的輸送力が向上すれば、交通機関の制約のない地域や時間へ人流の分散化が加速し、観光地の混雑や地元の生活圧迫が緩和される可能性があるためです。

参考になるのは、海外で浸透しているライドシェア(相乗りマッチング)方式による輸送力強化です。スマホを利用することで料金の事前明示や運転者と利用者の相互評価が可能となり、商用タクシーと変わらない信頼性が担保され、長蛇のタクシー待ちが緩和されました。日本ではいわゆる「白タク」規制への抵触懸念から、なかなか普及には至っていないのが現状ですが、現状打破に向けて早期の規制緩和を求める声も高まっているように思えます。

思い起こせば、これと同じことが2010年代にもありました。民泊です。やはり海外で急速に浸透した民泊システムを国内に導入するに際し、当時は旅館業法をどう適用させるのかが大きなハードルとなりました。とはいえ、その後は強力な宿泊機能に担うようになったことは論を待ちません。人的輸送力も同様でしょう。それらを担うベンチャー的な企業が出てくるのか、バス・タクシー事業を展開する既存の交通機関がそのようなアプローチを模索するのか。これは大きなビジネスチャンスであるとともに、観光ビジネスを継続可能にするために重要な試金石になると考えます。

ちなみに、バス・タクシー事業を展開する既存の交通機関とは、三重交通グループホールディングス(3232)、神奈川中央交通(9081)、神姫バス(9083)といったバス大手、そして近鉄グループホールディングス(9041)、東急(9005)、阪急阪神ホールディングス(9042)、名古屋鉄道(9048)、東武鉄道(9001)、西武ホールディングス(9024)、小田急電鉄(9007)などの私鉄大手、タクシー専業の大和自動車交通(9082)などが挙げられます。