◆昨日の続きである。昨日の小欄で、1日たりとも酒を抜いたことがないと書いたけれど、実はこの前、初めて断酒というものを経験した。しかも7日間も!ピロリ菌を除菌するために1週間、薬を飲むことになり、それには禁酒しなければならないというのだ。なにしろ初めてのことだから、禁酒期間に入る前は不安で憂鬱でたまらなかったが、やってみると案外どうってことなかった。むしろ、眠りは深くなるし、酒が残らず迎える朝は快適だし、いいことずくめだったのである。酒を飲むのが習慣になっていたから、その習慣を変えることに不安があったのだ。

◆これはタバコをやめたときと同じである。僕は今から10年ほど前、40歳の時に、それまで25年間吸っていたタバコをやめた。やめようと決めたら、スパッとやめることができた。タバコ(ニコチン)の中毒性というのは、実はものすごく弱くて - そうでなければ合法的に認められるわけがない - 3日間も禁煙すれば体内から完全に消失して、生理的には禁断症状など出ない。体はニコチンを欲しないようになっている。それでもタバコがやめられずに、吸いたくなるのは習慣によるものである。というような説を読んで、なるほどと試してみたら本当にあっさりとやめられたのだ。

◆ところが、今ニコチンの中毒性についてネットで調べると、麻薬のような中毒性がありニコチン依存症というある種の「病気」のせいでタバコがやめられないのだという説があふれている。それは病気なのであって意志の問題ではないと。だから、禁煙外来で治療を受けよう、と。実は医薬業界の広告宣伝の一環なのだ。2006年から「ニコチン依存症管理料」なる名目で、禁煙指導の健康保険適用が開始されたことが大きい。要は禁煙指導が「商売」になったのである。

◆で、どのようにして禁煙に導くかといえば、ニコチンパッドやニコチンガムなどを処方してニコチン切れによる禁断症状を防ぎながら徐々にニコチン摂取量を減らすというもの。結局、「医師」の力というより「意志」の力なんじゃないの?とも思う。ニコチンは中毒性がある物質、つまり「毒」なのに、薬だといってニコチンを処方するところが面白い。なるほど、毒にも薬にもなるということか。「すべての薬は毒である」と言ったのは米国の世界的な製薬メーカー、イーライ・リリーの創業者、イーライ・リリー氏であったと記憶している。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆