◆物心ついて酒を飲み始めてからというもの、飲まない日がない。風邪をひいて熱にうなされ寝込んでいるときも「薬だ」と言って飲む。朝ひどい二日酔いでもう二度と酒なんか飲むまい、と思った日も夜にはまた飲んでいる。そんな調子だから肝臓の具合が悪くなって、医者から酒を控えるように言われた。控えろと言われて控えられるなら苦労はない。酒はやめられないが、せめて肝臓にいいものを摂取しようと、シジミ汁だのウコンだの飲んでみたが、どうにもおいしくない。いちばん口に合ったのは柿である。
◆昔から柿は酔い覚ましによいとか、飲む前に食べると悪酔いしないと言われてきた。柿の渋み成分であるタンニンが効くのだろう。しかし、固形物である柿はそんなにたくさん食べられない。それでは、と飲み始めたのが「柿酢」である。僕が飲んでいるのは、渋柿だけを使用した柿酢で、アルコールや合成酢酸はもちろん、水さえ一滴も加えずに柿のみをまるごと発酵させその後2年間熟成させたものだ。いわば柿の成分だけを濃縮させたジュースである。
◆濃縮ジュースで思い出すのは大村敬一・早稲田大学教授の銀行のエクイティ(株主資本)に対する見方である。「事業会社のエクイティは設備など物的資産に置換され物的価値が残るが、金融機関が増資で集めた資金はレバレッジ創造の単なる『濃縮ジュース』にすぎない。(中略)株式の価値は企業価値に依存するが、証券化のようなレバレッジファイナンスではこの株式資本がまた企業価値に影響する。金融ビジネスではエクイティが変動してその価値が暴落したためにレバレッジがそれ以上に収縮して流動性危機に陥る事態が発生しており『エクイティは安全装置』との認識が崩れている」
◆先生が何をおっしゃっているのか一般人にはなかなか理解しがたいところだが、要は銀行の株は危ないということだ(この点については7月18日付け新潮流「安全な株」ご参照)。危ないがゆえ、規制が必要となる。世界の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)は、国際的に展開する30の巨大銀行を対象にした新しい自己資本比率規制案を正式発表した。
◆最低比率は「16~20%」と、20%になる余地を残したものの、導入時期は「2019年1月以降」と十分な準備期間を設けることになった。日本で対象となる3メガバンクは「達成可能」としている。ひとつだけ、解説しておこう。銀行の自己資本比率を<高める>という規制は、濃縮ジュースの濃度を<薄める>ということである。
◆僕が飲んでいる柿成分100%の柿酢をはじめ、世の中の100%果汁ジュースの濃度が薄まるのはよろしくないが、銀行のレバレッジ比率が規制によって低くなるのは...良し悪しである。この点については、また追々触れていきたいと思う。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆