モトリーフール米国本社、2023年10月1日 投稿記事より
主なポイント
・アプライド・デジタルは、AI市場全体で急増するデータセンター需要から恩恵を受ける可能性がある
・センチネルワンは、AIを活用したセキュリティツールでサイバーセキュリティ市場を破壊することを目指している
・一方に株価上昇が見込まれる
見過ごされがちなAI銘柄2社、その投資先としての魅力を比較する
オープンAIのChatGPTをはじめとする生成人工知能(AI)プラットフォームの成長性について、強気派が喧伝した結果、過去1年間に多くのAI関連銘柄の株価が急騰しました。こうした上昇気流に乗って株価が上昇した代表的な例が、AIタスクを処理する画像処理装置(GPU)を提供するエヌビディア[NVDA]や、オープンAIの最大の支援者であるマイクロソフト[MSFT]です。
そのような中、予想もしなかったリターンとなっている企業もあります。AIを活用する企業向けにデータセンターをレンタルするアプライド・デジタルの株価は、年初来で230%近く上昇しています。それでも、新規株式公開(IPO)時の株価と比べると、わずか25%高の水準です。一方で、人間によるすべての分析をAIアルゴリズムに置き換えることを目指すサイバーセキュリティ会社のセンチネルワン[S]の株価は、年初来で10%下落しており、IPO価格と比べても半分以下で取引されています。成長するAI市場での長期的な投資先として、どちらが有望なのでしょうか。
アプライド・デジタル:爆発的成長に向けて準備を進めている
アプライド・デジタルは、2022年4月にアプライド・ブロックチェーンという社名で上場しました。当初はブロックチェーンやビットコイン企業向けにデータセンターをレンタルしていましたが、2022年11月に社名をアプライド・デジタルに変更し、高性能コンピューティング(HPC)市場で、AIやクラウド関連の顧客に幅広くサービスを提供していくことを宣言しました。
2023年5月には、AIとクラウド関連の顧客にデータセンターを提供することに特化した、サイ・コンピューティングという子会社を新たに設立しました。その後、サイ・コンピューティングは2件の大型案件を獲得し、5月には2年間で1億8000万ドルという契約を結び、6月には3年間で4億6000万ドルという大型契約を締結しました。また、アプライド・デジタルは最近、エヌビディアが一流と認めた企業で構成されるエヌビディア・パートナー・ネットワークに参加が認められました。
それらの結果、2024年5月期の売上高は、前年比595~631%増の3億8,500万~4億500万ドルが見込まれます(2023年度は5,500万ドル)。調整後の利払い・税引き・減価償却前利益(EBITDA)については、2023年度の14万6,000ドルから、2024年度は1億9,500万~2億ドルに増加する見通しです。これらの予想に基づくと、予想株価売上高倍率(PSR)2倍未満、調整後EBITDAに対して4倍という足元の株価は割安に見えます。
ただし、アプライド・デジタルにはいくつかの重大な欠点もあります。突然の社名変更や、顧客が非常に集中していることに加え、IPOの引受会社であったB.ライリー・ファイナンシャル[RILY]との複雑な関係に関して、集団代表訴訟に直面しています。
アプライド・デジタルのウェス・カミンズCEOは、B.ライリー・ファイナンシャルが2021年に買収した投資顧問会社272ファイナンシャルの創業者兼CEOでした。また、アプライド・デジタルは、データセンター拡張資金の調達でB.ライリー・ファイナンシャルに大きく依存しており、2023年度末時点の負債資本倍率は3.3倍という高水準にあります。負債比率がこれほど高い企業は、金利が高止まりする限り、魅力的な投資先とは言えないかもしれません。
センチネルワン[S]:厳しい市場で成長鈍化に直面
センチネルワンは、過去3年連続で売上高が前年比2倍以上に増加しており、2024年1月期は、前年比43%増の6億500万ドルが見込まれています。こうした堅調な成長は、AIを活用したサイバーセキュリティ・サービスには依然として肥沃な市場が残っていることを示しています。
とはいえ、センチネルワンはGAAPベースでも、非GAAP(調整後)ベースでも、依然として大幅な赤字です。規模が大きく、多角的で、利益を上げている市場リーダーとの激しい競争に直面しており、中でもパロアルト・ネットワークス[PANW]やクラウドストライク・ホールディングス[CRWD]は、さまざまなAIサービスを通じてエコシステムを拡大しています。
成長の鈍化と大幅な赤字に加えて、センチネルワンの金額ベースの売上維持率(NRR)は、2023年度の130%から、今年度第1四半期は125%、第2四半期は115%と、低下し続けています。同業他社と同様に、センチネルワンは業績悪化の理由について、マクロの逆風によって顧客企業がソフトウェア支出を抑制しているためだとしています。
このようなプレッシャーは意外なことではありませんが、センチネルワンは6月上旬、「手法の変更と過去の不正確な情報の修正」を理由に、年間経常収益の計上方法を突然変更しました。過去の情報の間違いについては、シスコシステムズ[CSCO]が先日、センチネルワンのARR計上方法に関する懸念から同社の買収計画を撤回したとの噂が広がったことで、再び表面化しました。センチネルワンは、そうした噂はすべて「捨て身になった競合他社」が広めた「嘘」であると述べています。
センチネルワンの5―7月期末時点の負債資本倍率は0.4倍と低水準であり、今年度予想PSRは7倍と、株価に割高感はありません。しかし、成長が減速している、利益が出ていない、そして多くの大手サイバーセキュリティ企業と比べて魅力に欠けるというシンプルな理由から、足元の厳しい市場では、しばらく低調が続くと予想されます。
どちらか選ぶならアプライド・デジタル
両社はどちらも、極めて投機的な投資先です。しかし、どちらか一方を選ぶとしたら、株価が割安で、事業規模の拡大に伴って株価上昇が見込まれるアプライド・デジタルの方が有望かもしれません。センチネルワンも成長し続けるかもしれませんが、売上高が安定的に成長し、純損失が縮小し、競争優位性が大幅に高まるまでは、株価上昇は見込めないと思われます。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Leo Sunは、クラウドストライク、パロアルト・ネットワークスの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はビットコイン、シスコシステムズ、クラウドストライク、マイクロソフト、エヌビディア、パロアルト・ネットワークスの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。