銀行株や保険株も、不動産不況の悪影響で売り傾向へ

2023年9月の中国本土市場・香港市場は軟調な展開が続いています。2023年8月31日終値~10月29日終値まで(上海総合指数は連休のため9月28日終値まで)の騰落率は、上海総合指数が-0.3%、香港ハンセン指数が-3.1%となっています。ちなみに7月初め~9月末までの株価推移を見ると、上海総合指数が-3.1%、香港ハンセン指数が-6.3%となっています。

金利上昇を受け、世界的に2023年7~9月期の株価は下落したわけですが、特に中国株は不動産企業の巨額債務問題を巡って大きく下がりました。中国の不動産株や不動産管理企業は年初来の下落率が-50%~-80%台となっている銘柄も多くあります。

時価総額別では比較的大型株は下げ緩やかですが、小型株ほど大きく下げています。また、大型株の中でも不動産に関係するかどうかで2極化しています。不動産セクター以外で特に目立ったのは銀行、保険などの金融株です。これらは業績が悪化しているから売られたというよりも不動産不況に関係し、資金の出し手として警戒されたものと思われます。

例えば、平安保険(02318)を見てみると保険会社の価値を表すとされる「エンベディッド・バリュー(EV)」(=保険契約が将来生み出す利益の合計見積りである「保有契約価値」と、すでに実現済の利益を表す「修正純資産」の合計額)は年々大きくなり続け、2023年6月末時点では1.5兆元に迫り、過去最高となっています。

その一方、時価総額は2019年に1.7兆元を超えていましたが、最新では1兆元を割り込むまでに落ち込んでおり、EVとの差が拡大し、その意味では割安感が増しています。それでは果たしてEVか時価総額(株価)のどちらが平安保険の価値を正しく表しているのか、ということになります。

このように銀行株や保険株は業績や価値がどうこうというよりも、株式市場全体の動向の影響を受けやすく、特に目先では不動産不況の悪影響を受けることで売り込まれていると言えそうです。

政策期待の局面続くも、大胆な政策が発動される可能性は小さいところか

香港ハンセン指数は株価が50日移動平均線や200日移動平均線を下に割り込んで推移しており、さらに9月頭には50日移動平均線で頭を押さえつけられる形での下落となっており、明らかに下落トレンドのチャート推移となっています。

ただ、6月以降の株価推移ということで俯瞰すると、200日線を上下に跨いで上昇・下落を繰り返しているだけのようにも見え、トレンドがあまりないように見えます。これは中国当局がある程度のところまで株価が下落してくると、景気刺激策や株価対策を打ち出していることが背景にあると思います。

広州市では住宅購入規制の緩和実施や、総額1億3000万元相当の買い物券を発行するなど、各都市は住宅購入に対する緩和策や消費刺激策を打ち出すなど景気刺激策は出てはいるのですが、景気の流れを押し返すような刺激策はまだ出ていない状況です。

一方で、中国人民銀行(中国の中央銀行)貨幣政策委員会の劉世錦委員は、米国との金利差が広がる中、中国が金融政策をさらに緩和する余地は限られているとの見方を明らかにしています。そして、成長軌道に戻るにはマクロ経済政策に頼らず、起業を奨励するなどの構造改革を追求すべきだと強調しています。

確かに、金融緩和を続けていると、ただでさえ対米ドルで下落が続いている人民元はさらに下がってしまいます(これは中国だけで無く、新興国共通の問題でもありますが)。つまり今後、金融政策はあまり期待できないということです。そして、引き続き欧米の機関投資家の中国株離れも目立つようになっています。

ここまでに書いてきたように不動産の経営不安が経済全体を蝕むリスクを懸念した動きです。以上を考えると中国株は政策待ちではあるのですが、状況を変えるぐらいの思い切った政策は出にくい状況であると言えそうです。株価は下落が続いており、業績の良い銘柄の株価水準は割安になってきています。ただ、大きな買い場を迎えるまでにはもう少し時間がかかる可能性が引き続き高いところだと思います。