◆インテリが作ってヤクザが売る。新聞のことである。強引で悪質な新聞の購読勧誘を巡る批判が後を絶たない、それでも某大手新聞のトップは、その温床である戸別配達制度が日本の新聞を支えていると自画自賛する。戸別配達は世界に例を見ない日本独自の制度である。それは日本の「新聞」を支えているのではない。日本の「新聞社」の経営を支えているのである。
◆先週15日から新聞週間だ。昨日は新聞広告の日、日曜日は新聞配達・新聞少年の日で、それぞれ記念行事が開催された。そのほか期間中には識者の講演やパネルディスカッションなど様々な催しがおこなわれた。しかし、ほとんど「身内の寄合」の域を出ない。朝日新聞の報道姿勢を巡ってこれだけ世間の耳目を集めるなか、新聞業界自ら、「新聞への信頼回復」に与するメッセージのひとつも発しない。それで「新聞週間」とは悪ふざけとしか思えない。
◆急速に進むデジタル化、電子版の普及が意味するのは、紙の新聞を配る戸別配達の消滅である。それはすなわち新聞社にとって安定収入源の流動化である。紙の新聞離れ、ならまだよい。新聞そのものから読者が離れている。誰も朝日を笑えない。五十歩百歩だろう。女性閣僚の辞任のタイミングでGPIFの株式組み入れ比率の引き上げが報道される。思わず眉を顰めたくなる。
◆司法、立法、行政の「三権」を監視・牽制する意味でメディアは「第四の権力」と言われた。それが昨今の記者クラブの体質に表されているように、すっかり自ら既得権益の側にまわった感がある。ヴィスコンティ監督の映画『山猫』でアラン・ドロンは「変らずに生きてゆくためには、自分が変らねばならない」という台詞を吐く。新聞を取り巻く環境が激変するこの時代に、新聞自ら変わり、変わるべきでないものを維持する気概はあるのだろうか。新聞週間は今日で終る。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆