米アップル[AAPL]は2023年9月12日、米カリフォルニア州の本社で新製品イベントを開催し、スマートフォン「iPhone」の新型モデルなどを発表した。充電端子を「USBタイプC」に全面移行したほか、シリーズ4機種すべてに4800万画素のカメラ機能を搭載した。加えて、上位機種にはチタン製の筐体(きょうたい)を採用。スマホ市場が低迷し、中国での利用制限など逆風が吹くなか、買い替え需要を促す。

全機種に4800万画素カメラ 上位機種にチタン筐体を採用

スマホの新型モデル「iPhone 15」シリーズは、画面サイズが6.1インチの「iPhone 15」、6.7インチの「15 Plus」と、それぞれの上位機種にあたる「15 Pro」「15 Pro Max」を市場投入する。

米国ではいずれも前モデルから価格を据え置いた(日本では5,000円~1万円値上げ)。一方で、最上位機種では128GBのストレージ容量を廃止し、最低価格を100ドル上げた。それぞれの価格は15が799ドル(日本は税込み12万4800円)から、15 Plusが899ドル(同13万9800円)から、Proが999ドル(同15万9800円)から、Pro Maxが1,199ドル(同18万9800円)からとなる。いずれも9月15日(日本時間では15日21時)から予約を開始し、9月22日に発売する。

筐体カラーは、15と15 Plusが「ブラック」「ブルー」「グリーン」「イエロー」「ピンク」の5色、ProとPro Maxが「ブラックチタニウム」「ホワイトチタニウム」「ブルーチタニウム」「ナチュラルチタニウム」の4色。これら全機種の充電端子を、従来の独自規格「ライトニング」からUSBタイプCに変更し、欧州連合(EU)の規制に対応した。

カメラ機能は、iPhone 14の上位機種に採用していた4,800万画素のイメージセンサーを全機種に搭載した。上位2機種は3カメラ構成で、メインカメラは24mm、28mm、35mm、の3つの焦点距離を切り替えられる。超広角カメラの焦点距離は13mm。望遠カメラの焦点距離はProが77mm、Pro Maxが120mm。Pro Maxは「iPhone史上最も長い焦点距離120mmで5倍の光学ズームを提供」(アップル)し、3Dセンサーシフト光学式手ぶれ補正(OIS)も備える。

【写真】iPhone-15-Pro
出所:米アップル

これら上位2機種には回路線幅が3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの新開発半導体「A17 Pro」を採用したほか、iPhoneとして初めて、フレームに軽くて頑丈なチタンを使った。これまでマナーモードの切り替えに使われていた側面スイッチを「アクションボタン」に変更した。カメラやフラッシュライト、ボイスメモ、集中モード、翻訳、拡大鏡の起動といった機能を割り当てられる。

iPhone 15シリーズは4機種とも新しいOS(オペレーティングシステム)「iOS 17」を搭載する。これに伴い、アップルは2023年9月19日に同OSの配布を始める。iOS 17は、2018年発売の「iPhone XS/XR」シリーズ以降、および2020年発売の「iPhone SE(第2世代)」以降の各モデルに対応する。

腕時計型端末「Apple Watch」とワイヤレスヘッドホン「AirPods Pro」の新モデルも発表

アップルは同日、腕時計型端末「Apple Watch」の新モデルと、ワイヤレスヘッドホンの上位機種「AirPods Pro」の新モデルを発表した。Apple Watchでは画面に触れず、2本の指を合わせるだけで簡単な操作ができる「ダブルタップ」機能を搭載する。「Apple Watch シリーズ9」の価格は399ドル(日本では税込5万9,800円)から、廉価版の「同SE」は249ドル(同3万4800円)から。冒険家やスポーツ選手などを対象とした「同Ultra 2」は799ドル(同12万8800円)。9月12日から注文を受け付け、9月22日に販売を開始する。

「AirPods Pro(第2世代)」では、前世代モデルと比べて最大2倍のアクティブノイズキャンセリング機能を搭載する。1回の充電で最大6時間の再生が可能となる。価格は249ドル(同3万9800円)。9月22日に発売する。

ロイター通信によると、今回の新製品発表後、同日の米株式市場でアップル株は1.7%下落した。このイベントでは目を見張るようなサプライズがなかったとロイターは報じている。

売上高の約5割占めるiPhone、「Pro戦略」で回復果たせるか

アップルが先ごろ開示した2023年4-6月期の売上高は、817億9700万ドル(約12兆600億円)で、前年同期から1%減少した。全売上高の約5割を占める主力iPhoneの売上高は同2%減した。

 

iPhone 15の市場投入が成長回復に寄与するのか、注目が集まっている。米調査会社IDCによると、2023年の世界スマホ出荷台数は、前年比4.7%減の11億5000万台と、過去10年で最低の水準になる見通し。経済見通しの悪化と依然続くインフレにより、需要が減退し、買い替えサイクルが長期化している。

一方、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、消費者をプレミアムモデルに移行させるというアップルの戦略は、近年の同社の業績に驚異的な成果をもたらしたと報じている。アップルはスマホ市場が減速し始めた4年前に、より高価なProモデルを導入した。このPro戦略は成功した。iPhoneの年間売上高は2022会計年度に2055億ドル(約30兆2900億円)となり、2019会計年度の1424億ドル(約21兆円)から44%増加した。

中国政府のiPhone利用制限がアップルのシェアに与える影響

ただ、最近は不穏な動きもある。WSJは2023年9月6日、中国政府が中央政府機関の職員に対し、iPhoneなど海外スマホの業務使用と職場への持ち込みを禁じると報じた。

米ブルームバーグ通信は9月7日、中国政府が禁止措置の対象を、国有企業や他の政府系機関にも広げる計画だと報じた。こうした報道を受け、9月7日の米株式市場で、アップルの株価は連日の大幅安となった。9月6~7日の2日間で7%近く下落し、時価総額は1940億ドル(約28兆5900億円)減少した。

折しも中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が新型スマホ「Mate 60 Pro」を発売したばかりだ。これにより中国市場におけるアップルの優位性が薄れるとの見方もある。2019年、当時のトランプ米政権はファーウェイを安全保障上の脅威とし、同社に対する禁輸措置を講じた。ファーウェイは半導体など重要部品の供給制約を受けてスマホの生産が減少した。

ファーウェイの中国におけるスマホシェアは20年半ばに29%あったが、2年後にわずか7%に低下。これに対し、アップルのシェアは9%から17%に上昇した。中国の高価格帯スマホ市場におけるアップルのシェアは22年までの3年間で51%から72%に上昇した。

一方、ファーウェイがこのほど発売した最新スマホは比較的高性能の半導体が搭載されている。同社は禁輸措置以降、半導体などの内製化を進めてきたとみられる。米銀大手JPモルガン・チェース[JPM]は、中国政府によるiPhone利用禁止措置によってアップルは同国でシェアを拡大することが難しくなると指摘する。米バンク・オブ・アメリカ[BAC]は、ファーウェイがアップルからシェアを奪った場合、アップルの1株利益が0.11~0.34ドル減少すると試算している。

1ドル=147.39円で換算