オンライン旅行会社(OTA)とは実店舗を持たず、ネット上で宿泊や航空券の予約を受け付けて完了させる事業者のことです。世界の旅行業界は新型コロナウイルス流行を受けて凍りつきましたが、行動制限の緩和とともに徐々に回復し、コロナ前の業績を上回るOTAも増えています。今回は米国市場に上場する大手のOTAをご紹介します。
エクスペディア・グループ[EXPE]、オンライン旅行予約の先駆者
エクスペディア・グループ[EXPE]はオンライン旅行予約サービスの先駆者の一角で、1996年にウェブサイトを立ち上げて事業を始めました。ホテルやフライト、ツアーなどのオンライン予約プラットフォーム「エクスペディア・ドットコム」を軸にホテル・宿泊施設に特化した「ホテルズ・ドットコム」や民泊仲介の「バーボ」などを展開し、取り扱う宿泊施設はグループ全体で300万件を超えています(2023年12月末時点)。
傘下のブランドにはホテルやフライト、レンタカーなどの予約プラットフォームの「オービッツ」や「トラベロシティ」、オーストラリア拠点のオンライン旅行予約サービス「ウォティフ・グループ」、ディスカウント価格で宿泊や航空券を予約できる「チープチケッツ」、レンタカー仲介の「カーレンタル・ドットコム」などがあります。
エクスペディア・グループはこうしたブランドを買収で傘下に収めました。このほかにもホテルの比較サイト「トリバゴ」を運営するトリバゴ[TRVG]には2013年に出資し、発行済み株式の61.6%を取得しました。2023年末時点の出資比率は60%です。
主な収益手段はマーチャントモデル、エージェンシーモデル、広告モデルの3種類です。マーチャントモデルは、宿泊施設や航空チケットなどを仕入れ、利益を乗せて販売する形態のビジネスです。サプライヤーとの契約に基づき在庫を抱えるリスクは負いませんが、エクスペディア・グループが利用者から代金を受け取り、サプライヤーに仕入れ代金を支払うモデルです。主に宿泊予約で取り入れています。
エージェンシーモデルは文字通り代理業務で、宿泊や航空チケット予約をオンラインで仲介し、サプライヤーや利用者から手数料を受け取るビジネスモデルです。主に航空チケットで取り入れています。
広告モデルでは、グループが持つプラットフォームなどに広告掲載を受け付け、広告収入を得ます。また、ホテル比較サイトの「トリバゴ」から他社のサイトに入る際に生じるリファラル収入も広告収入にカウントされています。
2024年7-9月期決算の売上高に占める割合はマーチャントモデルが69.1%、エージェンシーモデルが23.5%、広告モデルが7.4%でした。取扱商品別では宿泊が81.7%を占め、航空チケットは2.6%にとどまっています。
トリップアドバイザー[TRIP]、旅行の口コミサイトで世界最大級
トリップアドバイザー[TRIP]は、ホテルや航空券の価格比較プラットフォーム「トリップアドバイザー」を運営しています。40を超える国・地域で展開し、プラットフォームで使う言語は20以上。旅行の口コミサイトとしても世界最大級です。このほかにツアーやアクティビティのオンライン予約プラットフォーム「ビアター」や欧州11ヶ国を対象とするレストランの予約プラットフォーム「ザフォーク」を運営しています。
「トリップアドバイザー」は集客力を武器に広告で収益を得るビジネスモデルで、オンライン旅行会社やホテルが主要顧客です。価格比較プラットフォームにオンライン旅行会社やホテルのサイトのリンクを掲載し、リンクをクリックするごとに広告料金が発生するクリック課金型が中心です。また、実際に予約が成立した場合に適用する顧客獲得単価(CPA)型広告も取り入れています。
広告が1000回表示されるごとに広告費用が発生するインプレッション単価(CPM)という仕組みを使ったディスプレー広告でも収入を得ています。ホテルや航空会社、クルーズの運航会社などが主な広告主です。
一方、「ビアター」と「ザフォーク」というプラットフォームでは予約成立で生じる手数料が主な収益源です。「ビアター」は2023年末時点で35万を超えるツアーやアクティビティーを取り扱い、「ザフォーク」は5万5000件のレストランを対象に予約サービスを提供しています。
ブッキング・ホールディングス[BKNG]、220ヶ国・地域の宿泊施設を仲介
ブッキング・ホールディングス[BKNG]は宿泊や航空券などのオンライン予約サービスを手掛けています。主力プラットフォームの「ブッキング・ドットコム」は220ヶ国・地域の約340万件の宿泊施設の予約を取り扱い、うちホテルが47万5000件、290万件が貸別荘やマンションなど。航空券やツアー、アクティビティーは世界1300都市で予約ができ、40ヶ国語以上で顧客サポートを提供しています。
プラットフォームは多様です。割引価格で宿泊予約や航空券を提供する「プライスライン」、アジア太平洋を中心にオンライン予約サービスを展開する「アゴダ」、旅行サイトを一括して検索して航空券やホテルなどの料金を比較できる「カヤック」、レンタカー予約の「レンタルカーズ・ドットコム」、レストラン予約の「オープンテーブル」を運営しています。
OTAで世界最大級の事業規模を誇っており、予約件数も膨大です。2024年7-9月期の総予約件数は前年同期比9.1%増の434億4700万件で、内訳はネット上で決済して代金を受け取るマーチャント型が27.3%増の283億6200万件に急拡大する半面、仲介手数料を得るエージェント型が14.0%減の150億8500万件に落ち込んでいます。マーチャント型への移行を進める経営方針が反映されました。
エアビーアンドビー[ABNB]、パリ五輪後に予約件数が増加
民泊仲介サイトを運営するエアービーアンドビー[ABNB]の旧社名はエアーベッド&ブレックファーストです。サンフランシスコでルームシェアをしていたブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏は家賃の支払いに窮し、苦肉の策としてアパートの空き部屋にエアーベッドを膨らませて有料で旅行者を泊めました。この経験が起業のアイデアとなり、社名にも反映されたといわれています。
宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐプラットフォーム「エアービーアンドビー」は2008年に誕生しました。2023年末には宿泊施設やアクティビティーを提供するホストの数が500万人を超えています。
2024年7-9月期決算は売上高が前年同期比9.9%増の37億3200万ドルと堅調でした。報道によると、パリ五輪終了後の8月中旬から予約件数が増え始めたそうです。ちなみにエアービーアンドビーは、トヨタ自動車(7203)やコカ・コーラ[KO]などと並び世界でも14社に限られる最上位スポンサーの「ワールドワイドオリンピックパートナー」の1社です。五輪期間中にブランドの露出が増えた効果であれば、莫大な広告料のほんの一部を回収できたと言えそうです。
トリップ・ドットコム・グループ[TCOM]、中国のOTA大手
トリップ・ドットコム・グループ[TCOM]はオンライン旅行予約サービスの大手で、中国を中心に事業を展開しています。中国では「携程(シートリップ)」や「チューナー・ドットコム」のプラットフォーム、海外では「トリップ・ドットコム」などを通じてサービスを提供しています。
宿泊施設や航空券などの予約をはじめ、パッケージツアーや企業向け出張手配も取り扱います。2024年7-9月期の売上高に占める割合は宿泊予約が42.8%、交通機関チケットが35.5%、パッケージツアーが9.8%、出張手配が4.1%などとなっています。
M&Aで業容を拡大しており、2015年にはナスダック市場に上場していた「チューナー・ドットコム」の運営会社を買収しました。2016年には格安航空券を一括に検索するプラットフォームで世界的な大手の「スカイスキャナー」を運営するスカイスキャナー・ホールディングスを傘下に収めています。
また、ナスダック市場に上場するインドのオンライン旅行会社、メイクマイトリップ[MMYT]にも出資しています。2024年3月末時点の出資比率は45.9%で、筆頭株主です。さらに中国の大手ホテルチェーンのファージュー・グループ(華住集団)[HTHT]に7.0%を出資しています。