為替市場は最も痛い方に動く。これは私がある有名なヘッジファンドマネージャーから得た洞察です。この方は1992年9月にイギリスがERM(欧州為替相場メカニズム)からの脱退を余儀なくされると予測し、ポンド売りを仕掛けてイングランド銀行を負かしたのです。アウチッ、あいたっ!

日本は現在、そのペインポイントに近づいています。現在の水準である1米ドル146円付近から155〜160円に向かうパラボリック・オーバーシュートの可能性はまだあるものの、リスクのバランスは今や非対称ではないかと思います。なぜでしょうか。それは世界と日本、双方の企業の経営陣が日本への投資を始めているからです。

日本が安いことを示すのは簡単です。ビッグマックの値段が東京では450円(3.10米ドル)であるのに対し、ロサンゼルスでは5.89米ドルです。現在の為替レートでは、同じ金額でも2倍近い価格差があることになります。

日本の平均年収は現在のレートで約450万円(31,000米ドル)まで減少しています。約76,000米ドルというアメリカの平均年収の半分以下です。東京を訪れたアメリカの友人は、日本は全てがこんなにも安いのかと、みな信じられない様子です。

ベルリンまたはニューヨーク、パリにいる外国人にとって有名なInstagramのサイトの1つが「日本の安い家」です。そう、日本の家は信じられないほどお得なのです。そのため、ウォーレン・バフェットだけでなく、今世界中が日本に投資しています。しかし真の問題は、いつ日本人が自分たちの未来を買い始めるのかということです。

ゆっくりと、しかし確実に、ロボットメーカーの安川電機や化粧品グループの資生堂、グローバルテックリーダーのGoogleなどの主要な企業が最近、重要な日本に対する内部投資計画を発表しています。これは始まりに過ぎません。

最も重要なのは、円安とコストプッシュインフレが、「ゾンビ企業が多すぎる」という日本の最大の構造的問題に襲いかかり始めたことです。

日本企業の約10分の1が、3年連続で債務の返済費用を直近の利益から捻出できていません。岸田首相の約束した新しい資本主義が、本当の意味を持つ可能性があるのがここになります。彼は日本のゾンビ企業に金輪際さよならと告げる権力を持っています。円安によるコストプッシュインフレは、延び延びになっていた倒産の増加を引き起こしています。つまり、それは資本主義の復活を示しています。良い製品を持つ優良企業は価格決定力を持ち、時代遅れの製品や流通を持つ不良企業は価格を上げることができません。

1990年代初頭のバブル経済の終わり以来、日本は資産デフレや技術革新による混乱、資本コストの上昇、業界に革命をもたらすような新商品や新たなサービスの登場などによる圧力から、地元企業を保護するためにほぼ無償で資本を提供してきました。日本のゾンビ企業の約80%は、パンデミック支援制度の下でさらに負債を背負い込んでいます。日銀の植田総裁が金利を引き上げる以上に、新型コロナの支援終了が産業再編を迫るでしょう。そのような企業は、産業、マクロ経済のパフォーマンス、生産性、財務リターンを押し下げます。円高によって真のビジネスコストが押し下げられたため、彼らはあまりにも長い間守られてきました。

これが円と何の関係があるのか?もしこのまま世界的な対日投資が活発化すれば、これは潜在的な通貨の需要源の1つとなるかもしれません。しかし、最終的には日本の投資家が日本円の運命を握ることになります。なにしろ日本は世界最大の債権国ですから。

過去数十年間、日本の投資家は自国の市場への投資を怠ってきました。それが変わるのは、国内企業が信頼性のあるビジネス戦略を提示した場合だけです。明らかに、国内の投資家は現在の日本企業が顧客に提供する価値を信じていません。日本の企業の半数が、自社の資産の簿価を下回る取引を行っているのはそのためであり、投資家は、これらの資産が過小評価され、十分に活用されていないと考えています。

通貨安は、日本の最も貴重な資源である人的資本をめぐる競争激化の引き金となっています。現在の為替レートでも、すでに人材の流出が始まっています。

看護師たちは、低賃金で将来性の低くなってしまったこの職業に就くことにますます消極的になり、エンジニアたちは、グローバル企業によるローカル化によって引き抜かれるか、海外移住などにより離れていっています。この加速する人材流出のリスクが日本にとっての最大の苦悩の始まりです。円が弱くなればなるほど、日本のトップ人材が離れる可能性が高まります。これでは企業の経営層は戦略を根本的に見直さざるを得なくなるでしょう。

例えば、日本で最も大きな労働組合のある企業の1つであるNTTの新しい最高責任者は、戦後の時代の年功序列文化と根本的な決別をし、成果報酬制度を導入しています。もしこのような変化が起きるのであれば、円安はただ終わるだけではありません。日本の投資家が国内経済や企業セクターに本当の可能性を見出すことで、あっという間に円高に反転する可能性があります。

外国からの投資と組み合わせれば、これは未来の発展にとって信じられないほどの力となるかもしれません。世界中が日本のエンジニア、看護師、営業マネージャー、そしてもちろん日本の企業を買いたいと思っている、そんな未来が来るかもしれません。これは大きな「もしも」ですが、楽観主義にチャンスを与えてみましょう。いずれにせよ、今新たな対日投資の波が始まりました。世界は日本に強気だ!