マーケットが更に下落している要因とは
先週のS&P500は2.11%下落、ナスダック100は2.22%下げて終わりました。S&P500は7月28日に4,607ポイントで過去1年間の高値をつけてから5.2%下落、3週連続での下げとなっています。高値からの下げ幅は5.2%となっています。8月に入ってからは、フィッチの米国長期債の格下げ、加えてムーディーズが米銀行を格下げしました。また、第2四半期の業績発表は恐れられていたほど悪くなく、この時点で株価を動かすニュースは出尽くしたという感じでした。
前回のレポート「【米国株】債券市場はインフレ低下に懐疑的か、今週は小売りの決算に要注目」でも書いている通り、この季節の米国株は1年間でパフォーマンスが悪い時期にも入っています。
では、現在マーケットがさらに下がっている理由が何かと考えると、金利の上昇です。7月末に3.9588%であった米10年債利回りですが、先週木曜日には過去1年間で最も高い4.2741%をつけ、金曜日には4.2546%で引けました。米10年債利回りは昨年10月21日の高値である4.3354%を試す勢いがあります。
では、このところの債券利回りの上昇の原因は何でしょうか?
フィッチの長期債の格下げはその大きな要因となっています。経済データの改善に加え、8月の流動性の低さや、大量の供給の発表も金利の上昇に関係していると考えられます。
また、8月17日に発表された7月のFOMCの議事録のニュースヘッドラインには、『インフレは、アップサイドリスクがあり、もっと利上げが必要となる可能性がある』と書かれていました。しかし、FOMCのメンバーの中には、景気のダウンサイドを予想する見方を取る人もいたり、金利は据え置きだとみている人もいます。ここまでの引き締めにより、消費をスローダウンさせる、景気も徐々にスローダウンしているという見方もありました。
ですから、この議事録の中には、ネガティブもポジティブも両方の見方がある、リスクは両サイドだという内容となっています。これはあくまでも7月時点で話されたことであり、その後インフレの低下を示唆するCPIなどの経済指標が出ています。そう考えると10年債利回りはここから上がるというより、下がる、または少なくともここから大きく上がらないと考えても良いのではないかと思うのです。
ジャクソンホールでのパウエル議長の発言が今後の金利の方向性を決定する
いずれにしても、この金利の今後の方向性を決定するのは今週(24日~26日)のジャクソンホールでしょう。声明では、利下げの可能性をコメントすることは考えにくいでしょう。「今後も利上げを継続するにあたって、引き続きデータを確認して方針を決めていく」というようなコメントであれば、マーケットにとってはこれまでと変わらずニュートラルであるということです。「現時点で利上げは視野になく、現状維持である」というような利上げを示唆しない内容のコメントであれば、マーケットはポジティブに反応しても良いのではないかと思います。
2022年のジャクソンホールの際は、その1週間前にS&P500は4,325ポイントでピークをつけ、その後8週間かけて800ポイント下落しました。パウエル議長が、「利上げの終わりからまだまだ遠い」とジャクソンホールで発言したことが株価の下落を導いたのです。議長の1年前の発言後、これまでに米国では7回の利上げが実施され、その上げ幅は300bp(3%)となっています。このように現在の環境は1年前と全く違いますから、今回のメッセージの内容は前回とは異なってくるでしょうし、その後株価が同じように大きく下がることは考えにくいでしょう。
エヌビディア[NVDA]、決算発表前に目標株価の引き上げが相次ぐ
今週はもう一つマーケットを動かす可能性の高い発表があります。米国時間23日水曜日の引け後に、現在マーケットが最も注目しているエヌビディア[NVDA]の決算発表が予定されています。NVDAの株価は今年に入りこれまでほぼ3倍になっており、「荒野の七人(アップル[AAPL]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、エヌビディア[NVDA]、テスラ[TSLA]、メタ[META])」銘柄の中でも最も上昇しており、今年の生成AIのテーマの中核的な銘柄です。
このようなエヌビディアについて、決算発表が行われる前にウォール街のアナリストによる目標株価の引き上げが相次いだのは興味深いことです。少なくとも5社のアナリストがエヌビディア株(18日(金)の引値は432.99ドル)の目標株価をこれまでの420ドルから600ドルのレンジだったのを、500ドル(潜在上昇率15%)から最大では800ドル(潜在上昇率85%)まで引き上げているのです。通常は業績発表が行われ、その内容を確認した後に、業績見通しや、目標株価の引き上げが行われるのですが、今回の決算発表前の一連の目標株価引き上げのラッシュはある意味異常なことなのです。
既にエヌビディアの業績発表に対する市場の期待が高いにもかかわらず、さらにハードルが上がってきた期待感、果たしてここまで高まってきた事前予想を超えてくるのか、それとも世間の期待に応えられるのか。
目先のマーケットの方向性を決定するのは、このエヌビディアの決算発表、そして、その後のジャクソンホールの結果となります。エヌビディアの決算発表についての私の予想ですか?様々なデータポイントを見てみると、ひょっとすると、マーケットの期待を超える発表を行い、市場を驚かすのではないかなと思っています。
8月28日の 岡元兵八郎の米国株マスターへの道は、都合により休載となります。ご了承の程よろしくお願いいたします。