◆宝くじ人気は結構あるのだと思い知らされた。2日付の小欄で「宝くじは買ってもあたらない」と書いたところ、「知人の知り合いの従妹が当たったという話を風の噂で耳にした」という類のご意見を複数頂戴した。「確率はゼロではないのだから当たるのだ」「買っても当たらないなどと言うな」「庶民の夢と楽しみを壊す気か」とお怒りのご様子だった。
◆おっしゃる通り、「確率はゼロではないのだから」当選は出る。ただその確率が気の遠くなるような小ささなのである。ジャンボ宝くじで1等が当たる確率は1000万分の1。アメリカの国家運輸安全委員会の行った調査によると、飛行機に乗って死亡事故に遭う確率は0.0009%であるという。つまり約11万分の1。それは1年365日、毎日飛行機に乗ることを300年間続けて1回起きる確率だ。ジャンボ宝くじで1等が当たる確率は飛行機事故で死亡する確率のさらに100分の1である。
◆ほとんどゼロに近い確率に振り回されるのは馬鹿げている。振り回されなくても、おカネを賭けるのはもったいない。頂いたご意見のなかには「たとえ当たらなくても自治体の収入になるならよいではないか」というのもあった。税金と同じ発想である。消費税が上がることには大反対するのに、宝くじを通じて税金を納めるのは構わないというひとがいる。
◆「宝くじは税金とよく似ているが、消費税や所得税などとちがって国民全員に課税されるわけではない。宝くじを通じて『税金』を納めているのは、確率を正しく計算できないひとだけだ。そのため経済学では、宝くじは『愚か者に課せられた税金』と呼ばれている」 (橘玲『臆病者のための億万長者入門』)
◆宝くじの確率の例えで面白いものはないかと調べていたら「AKB48のメンバーに選ばれる確率との比較」というのがあった。48人を日本の12~23才の女性人口約70万人で割ると0.007%弱。宝くじで1等が当たるよりAKBのメンバーになる方が700倍ほど確率が高い。じゃあ、あなたもAKBのメンバーになれるか?宝くじ売り場のおばさんは買うひとを選ばずに売ってくれるが、AKBになるには選ばれる必要がある。以下のものを「持っている」ひとだけが選ばれるのである。1に端麗な容姿、2に歌唱力、そして3に「宝くじの1等に当たるような幸運」である。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆