モトリーフール米国本社、2023年8月6日 投稿記事より

主なポイント

・ビル・アックマン氏には投資を検討する際の8つの基準がある
・パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの超集中ポートフォリオに含まれる企業はわずか8社
・アルファベットはこの厳選銘柄に選ばれた唯一のAI関連銘柄

パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントが運用する集中度の高いポートフォリオにおいて、唯一価値があると評価されたAI銘柄

ビル・アックマン氏は、ヘッジファンドのパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの創設者であり、投資業界では著名な人物です。アックマン氏は大きな相場の変動を恐れず、構成銘柄がわずか8銘柄という、極めて集中度の高いポートフォリオを運用しています。

アックマン氏は、アクティビスト投資家としてよく知られており、投資先企業で数々の成功を収めています。中でも特に有名な業績の1つは、ショッピングモール運営会社で破綻寸前だったゼネラル・グロース・プロパティーズへの出資で、6000万ドルの投資を35億ドルにしました。2016年には、当時低迷していたファストカジュアルレストランのチポトレ・メキシカン・グリル[CMG]に多額の投資をし、それ以降、株価は3倍以上に上昇しています。

アックマン氏には長年にわたり、投資を成功させるために決して揺るがない8項目のチェックリストがあり、同氏はこれらの原則に基づいて投資先を吟味しています。2023年はとにかく人工知能(AI)の話題で盛り上がっていますが、アックマン氏に認められ、ポートフォリオに組入れられているAI銘柄は1つしかありません。

勝者はアルファベット[GOOGL]

パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの超集中ポートフォリオに含まれる唯一のAI関連銘柄は、アルファベット[GOOGL]です。アックマン氏は2023年第1四半期にアルファベットに投資しました。現在ではクラスC株を800万株超、クラスA株を200万株超保有しており、合計額は約13億ドルに上ります。

パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの投資家向け四半期説明会でアックマン氏は、実際のアルファベットの持ち分が米証券取引委員会(SEC)の提出書類に記載されているよりも「20~25%大きい」ことを明らかにしました。追加で取得した持ち分は先渡し契約によるものであり、SECの提出書類に記載する必要がないためです。

アックマン氏のチェックリストにアルファベットを当てはめ、同氏に選ばれた理由を見てみましょう。

1.シンプルで予測可能なビジネス

アルファベットの2023年第2四半期の売上高は746億ドルで、そのほとんどは検索事業とデジタル広告事業によるものです。検索事業は極めてシンプルで予測可能です。人々は今後も、情報を得るためにインターネット検索を実行し続け、グーグルはそれをデジタル広告収入に繋げるはずです。

ちなみに、アルファベットは以前から、検索結果の関連性を高め、広告のターゲットを絞り込むためにAIを活用しています。

2.フリーキャッシュフロー創出力

過去10年超で最悪の低迷期にあっても、アルファベットはキャッシュを生み続けています。第2四半期の営業キャッシュフローは287億ドルで、有形固定資産の購入費用69億ドルを差し引いても、218億ドルのフリーキャッシュフローを生み出しました。何よりも驚くのは、アルファベットの営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローがそれぞれ、売上高の38%と29%を占めることです。

3.支配的企業

優位性という点においてアルファベットに並ぶ企業はいません。検索分野では、グーグルは世界全体の検索市場で92%という圧倒的シェアを持つ絶対的な存在です。業界誌DIGIDAYがまとめたデータによると、検索が同社のアドテック事業の原動力となり、アドテックの分野でもアルファベットは、世界のオンライン広告収入の約30%を占める業界のリーダーです。

4. 高い参入障壁

一夜にして、大手検索プロバイダー、デジタル広告プロバイダー、あるいはクラウドインフラ・プロバイダーにはなれませんし、これらの分野に参入しようと試みることさえ、競合候補企業にとってはとてつもなくコストのかかる挑戦でしょう。検索を完璧にしたり、広告を効果的にターゲティングしたりするために何年もかけてAIアルゴリズムを開発し、また、数十ヶ所ものデータセンターをこれほど大規模に運営することを想像してみてください。さらに、アルファベットのそれぞれの主力事業には規模の経済が働いており、それも新規参入への高い障壁となっています。

5. 高い投下資本利益率(ROIC)

投下資本利益率(ROIC)は多くの成功している企業の特徴であり、経営陣が収益性の高い事業に投資する優れた目を持っていることを示します。ROICに具体的な目標値はありませんが、一般的なルールとして、資本コストを少なくとも2%ポイント上回ると良好とみなされ、10%ポイント以上上回れば盤石とみなされます。アルファベットの加重平均資本コスト(WACC)は8.8%、ROICは22%であることから、同社の投資は卓越したリターンを生み出していると言えます。

6.コントロールできない外的リスクへのエクスポージャーが限定的

パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントは、幅広いアプローチでポートフォリオの外的リスクを分析していますが、中でも重点の1つとして、優れた環境・社会・ガバナンス(ESG)慣行を実践しているかどうかというものがあります。具体的には、環境管理、人権の尊重、安全な労働条件、強力なガバナンス、ビジネスの誠実さなどです。

適切なESG慣行に関して優れた実績のある企業に焦点を当てることで、外的リスクを最小限に抑えることができます。言うまでもなく、アルファベットのESGやサステナビリティ慣行は、優れた事例として頻繁に取り上げられています。

7.資本アクセスがなくても生き残ることのできる、強固なバランスシート

最近の景気の落ち込みは、強力なバランスシートの必要性を示す典型的な事例であり、アルファベットのバランスシートは世界トップクラスです。第2四半期末時点で1,180億ドルの現金および有価証券を保有しており、長期債務およびオペレーティングリース債務は264億ドルです。その結果、ネットキャッシュは915億ドルを上回り、アルファベットはさまざまな状況に対応することが可能になっています。

8.優れた経営陣と優れたガバナンス

優れたガバナンスについては既に述べてきましたので、ここでは優れた経営陣に注目します。リーダーシップの基調を決めるのはトップであり、アルファベットのスンダル・ピチャイCEOは優れたリーダーとして広く認められています。

優れた経営陣を測る要素は主観的なものですが、一般的に従業員の意見は良い指標になります。口コミサイトGlassdoorのCEO評価で、ピチャイ氏は常にトップクラスにランクされています。現在の評価は、5つ星のうち3.9、従業員によるCEO支持率は72%、就職先としてアルファベットを友人に勧める割合は90%となっています。

追加の好材料

AIは、アックマン氏がアルファベット株を購入した最大の理由ではないかもしれませんが、同社のバリュエーションを見ると、少なくとも一因にはなっていると思われます。2023年第1四半期において、アルファベットの株価売上高倍率(PSR)は約3倍であり、同社史上最低に近いバリュエーションでした。これに上術した基準を併せて考えると、アルファベット株を買わない理由が見つからなかったのでしょう。

現在、アルファベットの株価は年初のような驚くほどの割安感はありませんが、2024年予想PSRは5倍未満であり、過去平均と比べると依然として割安です。ウォール街がこれに気付く前の今が、買い時かもしれません。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。アルファベットの幹部であるSuzanne Freyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Danny Venaは、アルファベット、チポトレ・メキシカン・グリルの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はアルファベット、チポトレ・メキシカン・グリルの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。