◆殺人的な暑さである。ここまでの暑さは60年生きてきて経験したことがない。異常な高温は全世界的なもので、特に欧州が猛暑に襲われている。思い出すのはちょうど20年前、2003年のパリだ。その年、夏のバカンスでフランスを訪れたが、記録的な熱波が襲来していた。当時のフランスは、夏でもそれほど暑くなかったのでエアコンが普及していなかった。そのため熱中症で亡くなったひとがその年の夏は1万人を超えたという。
◆うろ覚えだが、シテ島の向かい辺りのセーヌ川河畔に人工のビーチができて、パリジャンたちが水着で寝そべっていた。その姿を見て「まさかセーヌ川では泳げまい」と思ったが、昔は泳げたそうである。1900年にパリで初の五輪が開催された時、水泳競技の会場はセーヌ川だった。当時は市民もセーヌ川で泳いでいたが、その後、水質が悪化し遊泳禁止となってしまったのだ。
◆来年パリで100年ぶりに開催される五輪を機に、セーヌ川を再び「泳げる川」としてよみがえらせる計画が進んでいる。水質浄化のための様々な施策、努力、工夫がなされている。先日、NHKのニュースが報じていた。パリ五輪が遺すレガシーはセーヌ川を泳げる川として取り戻すこと ‐ なんと素晴らしい取り組みだろう。それに比べて東京五輪のレガシーは何だったのだろう。何から何まで不祥事続き。挙句の果てが五輪の利権に絡む巨額の贈賄事件だ。
◆パリと言えば、サッカーのフランス・リーグ王者のパリ・サンジェルマン(PSG)が今年もジャパン・ツアーのため来日した。残念なニュースがある。セブンイレブンがPSGの観戦チケットが抽選で当たるとうたい実施したキャンペーンで、車いす使用者らの応募を拒んでいた。ウェブサイトに注意事項として「車椅子ご利用や介助が必要なお客様への対応は行っておりません」と掲載。当事者からの問い合わせに「応募しないでほしい」と回答していた。障がいを理由とした不当な差別的取り扱い以外のなにものでもない。親会社のセブン&アイの社是は「すべてのステークホルダーに信頼される、誠実な企業でありたい」というものだが聞いてあきれる。
◆車いすと言えば、テニスの全仏オープン車いすの部男子シングルスで17歳の小田凱人選手が史上最年少で優勝を果たした。小田選手はその後、史上最年少で車いすテニスの世界ランキング1位にのぼりつめ、ウィンブルドンでも優勝した。フランスは日本の車いすのアスリートに世界最高の栄誉を勝ち取る機会を提供し、オリンピックでは誰もが賞賛するであろうレガシーを残さんとしている。対して、我が国は口では「ダイバーシティ」といいながら障がいを持つ人への差別はなくならず、東京五輪で明らかになったように国家プロジェクトは様々な利権に翻弄されて結局何も遺せずに終わる。同じ酷暑に苦しむ日本とフランスだが、彼我の差を感じずにはいられない。