欧米金融不安の発生をボトムに、株式市場は順調に回復してきました。日経平均は過去1年強も続いているボックス圏相場の上限にヒットし、ようやく上放れるかというところに至っています。
景気動向はまだ楽観できる状況にはありませんが、まずは金利上昇懸念の一旦後退、活動水準の回復、インバウンド増、賃上げ浸透によるインフレ圧力の緩和などを好感した動きと言えるでしょう。これからは観光シーズンも本格化してきます。引き続き、相場動向には楽観的なスタンスで臨みたいと考えています。
東証がPBR1倍割れの銘柄に改善要請、市場の魅力向上に向けた改革へ
さて、今回は最近俄かに注目されるようになった「PBR(株価純資産倍率)」をテーマに採り上げてみたいと思います。以前のコラム『暫定プライム銘柄の見通しと注意点』でも採り上げましたが、今回のコラムは東証による市場改革第2弾という位置付けになります。
2023年1月、東証は「市場区分見直しに関するフォローアップ会議」においてPBR1倍割れの銘柄に対し、改善に向けた取組みを要請する方針を明らかにしました。暫定プライム銘柄の決着方針が固まったことに続き、今後は企業価値を毀損している企業への圧力を強め、東証をより魅力的で投資マネーの集まる市場に変えていこうという試みだと受け止めています。
これまで東証は上場審査こそ厳しいものの、一旦上場してしまえば、「静かな市場管理者」として受け止められてきた印象があります。しかし、東証はその姿勢を改め、市場の魅力向上(=成長資金の増大と有効配分の実行)に向けて攻めの姿勢を鮮明にしてきたのです。
上場はゴールではなく、企業価値拡大への不断の努力が課せられるものであるというスタンスです。この変化に上場企業サイドではやや混乱が生じてはいるものの、投資家からは概ねポジティブに受け止められていると考えます。
投資家が理解しておきたいPBRとは
東証がやり玉に挙げたPBRは、時価総額(=株価)が純資産の何倍に当たるかを示す指標です。PBR1倍割れとは市場の評価が純資産を割り込んでいることに他ならず、よく教科書では「会社を継続するよりも解散した方が価値ある水準」とも指摘されています。昨今はこういった見方よりも、資本コストを基準に捉えるのが一般的でしょう。
投資家はリスクを負って資金を投じる以上、一定水準以上の利益計上を期待するものです。経営陣はこの期待に応える必要があり(これが「資本コスト」という概念です)、投資家がそのまま当該企業に投資を続けたいと思うかどうかの分水嶺がPBR1倍という考え方です。
PBR1倍割れが企業価値を毀損しているとよく指摘されるのは、投資家の求める(資本コスト以上の)リターンを生み出せておらず、投資家は機会損失を被っているためです。その結果、投資家がより効率の良い企業へ資金を移動させ始めると、当該企業は資金繰りや信用において大きな制約を受けることにもなりかねません。企業としても事態を真摯に受け止めるべき現象なのです。ちなみに、この投資家の求めるリターン(≒資本コスト)のメドとして、ROE8%が喧伝されています。
東証上場企業の約6割がPBR1倍割れ、ROEの引き上げやIR強化が課題に
現在、東証上場企業のおよそ6割がPBR1倍割れという惨状にあります。これはそもそもROEが低水準(=資本コスト未満の収益力)にあるために当然の結果とも言えますが、十分なROEを計上しているにも関わらず、株式市場での認知度不足から低水準で放置されている企業も少なからずあります。そういった企業に対して、ROEの引き上げやIR強化による知名度向上を迫ろうというのが東証の思惑と言えるでしょう。
実際、東証がPBR1倍割れ状態の改善に本気だという認識が広がって以降、株式市場においてもそういったアクションを始めた企業を物色するケースが増えてきました。現在はまだ思惑の域を大きく出ない状況ですが、ROEの継続的改善、真摯で真っ当なIRの実施などは当該企業の株価水準引き上げに資する変化であることは間違いありません。これらは今後の息の長いテーマになっていくと考えられるでしょう。
注目すべきPBR1倍割れ企業を見極める視点
では、数多あるPBR1倍割れ企業の中では、どういった企業に注目すべきでしょうか。まず注目できるのは、ROEがこれまで継続的に8%以上にある企業群です。それでもPBR1倍割れというのは何らかの理由がある可能性も否めませんが、多くはIRなど株主向けの発信に消極的であったツケが回ってきている公算が大きいと考えます。
特にプライム企業では昨今の東証の姿勢の変化はしっかりと伝わっているはずであり、IRの強化などによる対応策を講じてくる可能性は高いと考えます。
また、無借金の企業群も要注目です。ROEの引上げには、収益力の強化のみでなく、純資産の圧縮も有効な手段です。そのためには配当などを増やす必要があるのですが、それによってキャッシュアウトが嵩むと日々の運転資金に支障が出てしまいかねません。配当増(=純資産圧縮)は手元流動性が潤沢な企業こそが打ち出せるPBR改善策でもあるのです。
これらの企業群は、証券会社のスクリーニング機能から簡単にリストアップできます。是非、そういった視点で銘柄群を眺めてみてください。投資したいと思える企業がそこにあるかもしれません。