今回、GAMCOインベスターズの創設者であり、バリュー投資で有名なマリオ・ガベリ氏にインタビューを行いました。ガベリ氏は「米国で最も影響力のあるストックピッカー(優秀な銘柄選別者)の1人」と称され、業界で「スーパーマリオ」の愛称も持っています。ガベリ氏に、企業の評価方法や銘柄選びのポイント、米国株式市場の長期的な見通しなどをお聞きしました。

ベルリンの壁崩壊を機に投資先を世界に拡大

マリオ・J・ガベリ氏 GAMCO Investors, Inc.、LICT Corp.会長兼CEO、CFA協会認定証券アナリスト

岡元:以前、バロンズ誌があなたを世界一のストックピッカーに挙げていましたね。どのようなきっかけで株式投資に興味を持ち、偉大なストックピッカーになられたのでしょうか。

ガベリ氏:1950年代当時、私が12歳くらいの頃にゴルフ場でキャディのアルバイトを始めました。夕方4時半以降にプレーに来るのは、ニューヨーク証券取引所で働く「スペシャリスト」と呼ばれる人たちでした。私は、彼らがやってくる時間帯にまだ働いている数少ないキャディの1人で、プレーの間、彼らが株式市場について話しているのを聞いていました。

そして13歳の時に、アルバイトで稼いだお金でビーチクラフト、フィラデルフィア・アンド・レディング鉄道、ペプシコ(PEP)、AT&T(T)などの株式を買いました。

岡元:当時、キャディとしてどのぐらい稼いでいたか覚えていますか。

ガベリ氏:微々たる金額です。ゴルフバッグ1つにつき1.5ドル、2つで3ドル。それが2年後にはバッグ1つで3ドルになったのです。少しずつ貯金を増やし、株式を買うだけの資金を確保することができました。

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:どのように現在の投資スタイルを築かれたのですか。

ガベリ氏:私はニューヨークのコロンビア・ビジネス・スクールを卒業後、ローブ・ロアデス・アンド・カンパニーという会社にアナリストとして入社しました。そこで、自動車業界や農機業界、エンターテイメント業界を担当しました。1970年代には、自動車業界など非常に好調な業界から銘柄を選んでいました。

今でも自動車業界に注目しています。私たちは46年間にわたり、毎年ラスベガスで自動車部品業界のカンファレンスを開催し、ポンプ、バイブ、モーターなどから供給網(サプライチェーン)全体を見ています。生産工程における物流管理なども考慮しています。

私の投資歴で大きな転換点となったのは、(グローバル化が本格化する)1989年11月にベルリンの壁が崩壊したことです。この大きな変化をきっかけに、私たちは米国以外の企業にも投資するようになりました。ソニーのような日本企業も見ますし、知見のあるグローバルベースの企業や業界も深掘りして調査しています。それが、私たちの投資スタイルです。

プライベート・マーケット・バリューとキャタリスト分析を組み合わせた手法

岡元:御社では、プライベート・マーケット・バリュー(PMV)と、キャタリスト分析を組み合わせた手法を用いてらっしゃいますが、その手法についてご説明いただけますか。

ガベリ氏:私が起業した時、顧客向けの資産運用でビジネスを拡大しました。顧客に上場企業の株式を勧める際、顧客はいくらなら喜んで買うのかを考える必要がありました。そこで私は、ニューヨーク証券取引所で取引されている上場企業を非上場にするとしたら、買い手はいくらで上場企業を買うだろうか、と考えるようになったのです。それがいわゆるPMVです。

どのように判断しているのかというと、まず、顧客がインフレに直面した状況から考えます。1979年当時、米国債10年を14.875%の利回りで買うことができたのです。そんな高い利回りの国債を買わずに、上場企業の株式を買うとなると、顧客はどのような利回りを期待するでしょうか。それにはキャタリストが必要なのです。

政府が政策を変えたらどうなるでしょうか。創業者がいなくなったり、亡くなったりしたらどうなるでしょうか。誰かがある業界の見通しが有望だと考え、その業界の企業の全株式を買ってしまったらどうなるのでしょうか。つまり、2年後、3年後に顧客にリターンを還元できるような特定のキャタリストが重要だったのです。では、実際にそれが可能なのはどんな上場企業でしょうか。買うとしたらどんな価値があるのでしょうか。その価値が顕在化するのにどの程度時間がかかるでしょうか。

さて、ご質問の企業の価値を「どのように判断したのか」という点について解説します。当時、買い手はLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれていました。今はプライベート・エクイティと呼ばれています。プライベート・エクイティを仕掛ける投資会社は、いくら払えば、事業を所有できるのでしょうか。要は、彼らが投資家にどれだけリターンを約束したかが見えてきます。つまり、投資家に25%のリターンを約束したとして、その計算方法は何かということです。

例えば、設備投資負担が過度でない企業のキャッシュフローに注目し、EBITDAの8倍で買うとしましょう。5年後、7年後に8倍で売れるでしょうか。それが可能であれば、配当はいくら引き出せるのか、その後どうなるのか。つまり、5年先の金利を見通し、5年先のマーケットを理解する必要があります。

そこで、先ず借入れできる許容範囲の金額を検討します。合わせて税負担やキャッシュフローはどうなるかも考えます。そのような思考プロセスは、現在も活用しています。そうすると調整後EBITDAで12倍の企業に投資するのはとても難しいことになります。なぜその倍率を5~7年後も維持できると言い切れるでしょうか。

コロナ感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻がマーケットに影響を与えるような時代において、5年先の企業に対するPMVはどうなっているでしょうか。今やEBITDAは下がってきているので、より多くの選択肢を考察することができるようになりました。

岡元:キャタリストを見つけるのが一番難しいということでしょうか。

ガベリ氏:いいえ、一番難しいのは「フォートナイト」のようなゲームで遊んで育った人が、今の時代に目を向けることができるかどうかですね。「World of Warcraft」のようなゲームでは、なんでも即座にできてしまいますからね。そういった投資家の時間軸は翌日(1日)です。しかし、投資家の皆さんが考えなければいけないのは、3~5年先にどうなるかということなのです。

ある企業の株式を買うとしたら、その企業はインフレ期においてキャッシュフローを守る能力がどの程度あるのかを考えます。インフレが起きないなら、そのような環境下でどの程度の成長率で伸びていけるかも検討します。そういった根本的な問いを常に考えながら多くの企業を見ています。

バリュー投資、企業の評価方法

岡元:現在投資しているキャタリスト付きPMVの事例と、その評価方法を教えてください。

ガベリ氏:例えば、映画会社のパラマウント(バイアコムCBS)(PARA)があります。現在の発行済株式数は約6億5,000万株です。株価は仮に22ドルだとします。22ドルに6億5,000万ドルをかけると、130億ドルから140億ドルの株式価値となります。負債が120億ドルあります。同社を買うと、260億ドル払うことになります。それを企業価値と呼びます。その対価として何が得られるでしょうか。その会社です。

パラマウントは米国で人気のコンテンツを制作しています。米国西部とカウボーイ文化を描いたドラマシリーズ「イエローストーン」などが大人気です。他にも同社は膨大なコンテンツを蓄積しています。数年前、映画ビジネスにおいて同社はソニーとコンテンツの配信をめぐって提携しようとしました。そうしたことを契機にダイレクト・ストリーミングと呼ばれる消費者と直接つながるサービスが登場したのです。

今や、ネットフリックス(NFLX)、ウォルト・ディズニー(DIS)、ソニー(SONY)、コムキャスト(CMCSA)のような企業は、消費者獲得を目指し、コンテンツに資金をつぎ込んでいます。その資金によってコンテンツを制作しているのです。それを売る段階になると、消費者獲得のために赤字の状況になります。私は、その損失も2年後にはピークアウトすると思っています。そういったことを考慮してコンテンツ事業にどれだけの価値があるのか、などを検討します。結論から申し上げると、3年後のパラマウントの事業価値は株価で約60~80ドルに達すると見ています。

仮に1株60ドルとして、その時点の発行済株式数6億5,000万株、約400億ドルの株式価値、負債は100億ドル程度まで減少すると予想します。そこで、私は誰がパラマウントを買うことができるだろうかと考えます。ディズニーの時価総額は2000億ドルありますが、独禁法に抵触するので買えません。コムキャストの時価総額も2000億ドルあり、NBCユニバーサルの所有権だけでなく、ケーブルの配給業者でもあります。ソニーは買いたがらないでしょうが、一歩引いてみると、アップル(AAPL)やアマゾン(AMZN)があり得るかもしれません。

このビジネスに新規参入しようとしている企業があったら何をするでしょうか。その程度の評価額であったらたくさんの買い手を獲得することができると思います。なぜなら、コンテンツを保有しており、既に世界的に大きな存在感を顕示しているからです。私たちはこのような観点で企業を評価しています。

マリオ・ガベリ氏の銘柄選びのポイント

岡元:どのような銘柄を保有していますか。

ガベリ氏:保有している銘柄の1つとして、ジェニュイン・パーツ(GPC)が挙げられます。株価は170ドルほどです。発行済株式が1億4,000万株あるので、170ドルに1億4,000万株をかけると、同社の株式価値(238億ドル)が計算できます。同社のバランスシートは素晴らしいので、2024年には1株9ドル近く稼ぎ、いつ部品の値段が上がっても、価格転嫁できるのではないかと思います。私たちは、同社の出荷数量が変わらなくてもバッテリー、プレーキ、その他の製品の改善で2%程度の粗利改善が見込めると考えています。

配当もよく、60年前から毎年増配しており、バランスシートも良好です。気になるのは、株価が高すぎるのではないかというところですね。それでも今後10年間は、好調が期待できると思います。

第2の事業展開として、オーストラリアとニュージーランドに進出し、部品を販売しています。世界各地で車の部品を販売していますが、為替の関係で収益に少し波があります。そのため、今後については、通貨変動が緩やかであることを前提に考えなければなりません。

他に、テキストロン(TXT)も挙げられます。同社は全米に工場を保有し、経度測定器類を作り、航空機部門のセスナも傘下の企業の1つです。自家用機の需要は、世界的に見て非常に強いと思います。現状では、(米国で)飛行機を買えば、100%事業経費として計上できます。

同社の収益は好調で、傘下にヘリコプターを作っているベル・ヘリコプターもあります。ベル社のヘリコプターは民間航空用にも使用されています。同社は、民間航空関連銘柄と位置づけられます。しかも、経営がうまくいっており、株価もリーズナブルです。同社の株価は70ドル前後で推移しており、発行済株式が約2億500万株あります。自社株買い実施企業で、配当もあり、バランスシートも堅調です。このように私たちは優良経営かつバリューを持っている企業に注目しています。

>> >>【後編】「マリオ・ガベリ氏注目の長期投資テーマ、農業機械・インフラ投資関連銘柄」

※本記事は2023年3月8日に実施されたインタビューを後日、編集・記事化したものです。