イノベーション関連銘柄に対する考え方

岡元:バリュー株投資の場合、テスラ(TSLA)のような新しいイノベーションを持つ企業は、株価の評価が高いので、なかなか投資できないでしょう。では、このような企業は投資対象から外れるのでしょうか。

ガベリ氏:テスラのように、過去100年間で最もクリエイティブな天才の1人とも言える経営者の銘柄を手に入れることができるとしたら、どうでしょうか。同社のイーロン・マスクCEOはとても素晴らしい経営者だと思います。ただ、私が注目するのは、実際に同社の車が何台販売されるのかという点です。同社のカリフォルニア、テキサス、中国、ドイツ、すべての工場で何台作れるのか、バッテリーの価格はどれくらい引き下がるのかということです。さらに問題は、同社株が5000億ドルの価値で売られていることで、結果として誰もその会社(株式)を買収できないのです。

次の疑問点は本業以外で、彼が何をするかということです。スペースリンク、スターリンク、そしてスペースX。彼は、素晴らしいエンジニアであり、素晴らしい頭脳を持っています。そういう人には拍手を送らなければならないし、マスク氏には成功してほしいと思っています。ジャック・マー氏や孫正義さんも同様です。

私たちは適切な価格で株式を購入でき、良い経営陣、良い製品があるなら投資します。しかし、その製品に対するニーズのあることが(必須)条件なのです。

現在、米国では住宅が不足し、世界では水不足が起きています。食料も不足しています。そこで、農業に目を向けてみると、イタリアや日本では人口減少に伴い、農家は減少傾向となっています。そのため農家をサポートする農業機械が必要とされるでしょう。つまり、ディア(DE)のような企業が注目されます。私たちは40~50年間同社の株式を保有しており、会社訪問して同社の技術進歩の変遷を確認しています。

米国株、農業機械関連の注目銘柄

岡元:農業機械分野で注目されている企業はありますか。

ガベリ氏:欧州に拠点があるCNHインダストリアル(CNHI)という企業にも注目しています。私が注目した当初は、米国に本社を置く企業でした。同社の発行済株式は13億株です。株価は15ドル程ですから、時価総額は(13億株×15=)200億ドルです。バランスシートも素晴らしい企業です。

同社は新経営陣が事業を担っています。傘下に欧米自動車大手ステランティスやフィアットもあります。今年の利益は1株当り1.5ドルが見込めると予想しています。私は、同社の株価は今後3年間で15ドルから22ドルまで上昇すると思っています。

他に同分野では、アグコ(AGCO)にも注目しています。株価は少し割高ですが。

米国のインフラ投資、恩恵が期待できる銘柄は

ガベリ氏:今後の3年間という時間軸で重要なのは、米国では昨年成立した「インフレ抑制法」に基づいてインフラ設備のための国費が投入されます。もう1つ、「インフラ投資と雇用法」(IIJA)により、耐久性に懸念のある橋や道路、そして周辺の様々な分野に資金が投入されるでしょう。つまり、今後3~4年間に、これらの関連企業は利益を享受できるという見立てです。

岡元:具体的に、米国で橋や道路などが強化されることで恩恵を受けるのは、どのような企業でしょうか。

ガベリ氏:例えば、クレーンを持っている企業などが挙げられます。仮に私が建設業者であれば、建機をレンタルで済ませたいと考えるでしょう。そういった観点で見ると、設備レンタル事業を展開しているユナイテッド・レンタルズ(URI)という企業が浮かびます。米国でのレンタルビジネスの市場規模は、約650億ドルです。

一方でこういった建機レンタル企業は、テレックス(TEX)やマニトウォック(MTW)のような企業から建機を購入しています。そして、構造物には鉄鋼やセメントも必要です。セメント関連の企業数は少ない状況です。またセメント事業は、生産過程において環境汚染の懸念もあります。そのため、すでに設備投資が済んで生産体制の整っている企業を探さなければなりません。次に、セメント生産には石や砂利が必要です。さらに、石炭鉱山。セメントの生産場所から100マイル以内に砂利の採掘場が必要になります。これがインフラ整備におけるエコシステムです。

「垂直農業」「精密農業」が今後重要なテーマに

岡元:米国で注目している長期投資テーマがあれば教えてください。

ガベリ氏:ここ20年間で世界全体の人口の高齢化が進んでいます。年を取るとメガネや補聴器、場合によっては人口肩関節などが必要になります。そこで、私たちは人間の体のパーツに注目しています。脊椎や膝のパーツはどの企業が製造しているのか。ロボットで代替できるなら、どこの企業がそれを作るか。また、医師が不足している場合、高齢者はどこに行けば診療を受けられるのか。そういったことは私たちが長年にわたって検討してきたテーマの1つです。

その他にも、未来の農業を担うのは誰なのか、その農業のエコシステムの中で私たちはどう投資活動を進めていくべきか。経済、社会、気候変動、食料不足に対して、どのように対応していくべきか。そのような命題の中で、垂直農業や精密農業は、精密医療、精密自動車といった概念と同様に、世界にとって非常に重要なテーマになっていくと思います。

長期的に投資を継続する醍醐味

岡元:投資家として成功するためのアドバイスをお願いします。

ガベリ氏:投資は毎日リターンを得るために行うゲームではありません。企業の株式を買いたいから事業に投資するのです。日本には素晴らしいビジネスがあります。米国にも偉大な経営者による素晴らしいビジネスがあります。そういった企業に投資をして、一定期間株式を保有することです。株価は変動しますが、毎日それを見て一喜一憂してはいけません。

余裕資金があれば、株式をポートフォリオに組み入れることから考えてみましょう。リターンが年率2%、4%、6%、8%とすると、いくらになるでしょうか。10年、20年と長期にわたって投資を続けることで、その複利効果は大きなものになると思います。

マーケットが調整している期間というのは、長期的な投資をスタートする上でよい機会だと思います。どんなセクターを買えばいいのか、どのように学べばいいのか、ご自身で考えることが大事です。

岡元:米国経済と米国株式市場の長期的な見通しについて、どのようにお考えでしょうか。

ガベリ氏:今から100年前に、さかのぼってみてください。100年の間に、米国はまず、税金を導入しました。そして、20年代の大活況、30年代の世界恐慌、世界大戦、インフレがありました。当時、もしインデックスファンドを買って保有していたら、おそらく年率8~10%のリターンを得られたことでしょう。

私が1966年にキャリアをスタートしたとき、NYダウは1,000ドル程度の水準でした。今日は33,000ドル程度です。その間、世界では色々なことが起きました。それにも関わらず平均で年間8、9%のリターンが得られたことになります。

私は今後45年間で6~8%のリターンが得られると思いますので、NYダウでみたマーケットは100万ドルになるでしょう。その頃には、もう皆さん歳をとっているかもしれません。基本的には、自分を見つめ直し、個人投資家として、次世代のために何ができるかを考える必要があるでしょう。年齢を重ねた時に、どれだけ経済的な柔軟性を持ちたいのか…など。

しかし、私が言いたいのは、皆さんが財産を残せば次世代は、そのことに感謝するだろうということです。今後3、4年間は、金融緩和・財政出動からの金融政策転換によって少しずつ調整していくことになるでしょう。しかし、3、4年程度の調整後の45年間で、6~8%のリターンを得られるようになると思います。2、3年後にはインフレ率が下がってくるでしょう。

岡元:長期的に投資を続けることはとても重要ですね。本日はどうもありがとうございました。

>> >>【前編】バリュー株、銘柄選びの手法

※本記事は2023年3月8日に実施されたインタビューを後日、編集・記事化したものです。