みなさん、こんにちは。先週末に衝撃的なニュースが飛び込んできました。リーマンショック後では最大となる米国のシリコンバレー銀行の破綻が報じられたのです。年初のコラムで金利を採り上げた際に懸念した通り、資産評価の下落が破綻への引き金を引いた格好です。

それを受け、日本の株式市場も金利上昇の悪影響リスクを再度織り込む展開がしばらく続くものと予想します。とはいえ、それまで日経平均株価はじりじりと水準を引きあげてきました。株価引上げ材料は乏しいものの、東証の改革姿勢が株価引上げにかなり寄与していた可能性があります。

そこで今回は、「株式分割」をテーマに採り上げ、それを通して東証の姿勢の変化についてまとめてみたいと思います。

2023年は株式分割企業が増加

株式分割については、任天堂(7974)の株式分割発表を機に、1度テーマとして8月3日付のコラムで採り上げています。そこでは株式分割は理論的には中立ながら、株式市場からは概ね好材料と受け止められていること、2022年は例年に比べて株式分割実施企業はあまり多くないだろうこと、しかし、今後は株式分割が増えるシナリオが描けること、に言及しました。

結局のところ、2022年の株式分割実施企業は私が調べたところ約100社と、同コラムで予想した通りの結果に落ち着いています。そして、2023年に入ってからの株式分割実施企業はこちらも予想通りで、急増することとなりました。

具体的には、2022年1-3月の株式分割実施企業が20社強にとどまっていたのに対し、2023年は同期間で既に40社を超える企業が分割を実施済、あるいは実施計画にあるとしています。

株式分割をする企業が増加している背景

株式分割が急加速してきた背景には、個人投資家育成に向けての東証の強い姿勢があると私は考えています。

東証は2022年春の市場区分変更を皮切りに、株式市場としての魅力度向上やそれに伴う投資資金の流入を促す姿勢を明確にしてきました。東証はこれらこそが長く低迷の続く日本経済の立て直しや基盤強化に対し、株式市場面から貢献できる施策という認識にあるのでしょう。

「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズはもう数十年前から唱えられてきたものではありますが、ようやく(本当にようやく)東証自らがそれらの実現に向けて「攻めの展開」に出たと受け止めています。

実際、少子高齢化や年金制度の疲労が進む中、個人の資産形成は人生設計においてもはや待ったなしの状況となっています。投資資金の層の薄さが成長企業への資金配分機能を阻害し、結果として経済の活力を削いでいたのも感覚的に理解できます。岸田政権の掲げる資産所得倍増プランを追い風に、東証はこの状況にピリオドを打とうとしているのかもしれません。

東証が見せ始めた「闘う姿勢」、株式市場全体の底上げに繋がるか

東証のメッセージは明確です。投資単位を100万円以下に引下げて個人投資家に多くの投資選択肢を提供する、上場企業には企業価値拡大の追求を課し、投資魅力度の引上げを図る、というものです。

直近では暫定プライム企業に向けて厳しい方針を提示した他、PBR1倍割れ企業(=企業価値が毀損していると市場が認識している企業)に対しては相応の評価是正策の要求にも着手しました。

かつては企業個々の様々な事情を忖度し、融和的・予定調和的な対応がなされてきましたが、今回はそれら事情を理解しつつも、証券取引所として一定の水準を設けようとする姿勢が明らかです。これまでとは異なるアプローチであり、まさに「闘う姿勢」を見せ始めたと言えるのかもしれません。

東証の改革推進姿勢は、その副作用として上場廃止企業がある程度出てくることも容認しているようにも映ります。ただし、「株式取引」における種々の問題点はまだまだ山積みである以上、現状のアプローチは問題緩和へのとっかかりに過ぎないと考えるべきでしょう。私は東証のこのような「闘うスタンス」は今後もしばらくは継続すると予想しています。

この見立てが正しいとすると、最近株式分割を発表した企業においても追加的な分割がなされる可能性は高いのではと考えています。

値がさ株の代表格であったファーストリテイリング(9983)や東京エレクトロン(8035)も直近で株式分割を実施(発表)していますが、依然として投資単位は100万円を越える水準にあります。東証は分割実施を一旦は是とするでしょうが、まだ不足であるとの指摘を遅かれ早かれしてくるのではないかと想像するのです。

PBR1倍割れ企業に対しても現在は対策の要求という段階ですが、将来はより実効的な「指導」へアクセルを踏んでくる可能性が十分あると考えます。また、上場後の株価に関心を持たない「上場ゴール企業」や「資本コストとROEの関係への理解のない企業」など、明らかに問題のある企業へのテコ入れも次なる東証改革の俎上に乗ってくることでしょう。

そのような「東証の本気の改革」施策は当然、株式市場全体の底上げに繋がるはずです。実際、冒頭で触れた通り、ここ最近の株価の堅調を見る限り、このような改革は概ね市場からは好感をもって受け止められているように感じています。