みなさん、こんにちは。株式市場はじりじりと上値を追う展開となってきました。米金利の打ち止め感台頭により、最大の景気減速ファクターの1つが緩和/解消されるとの観測が広がってきたことがその背景にあります。
しかし、金融政策が実態経済に波及するにはある程度の時間が必要なうえ、そもそも現時点ではまだ「金利上昇が止まってきた」段階で、「金利が引き下げられた」という段階ではありません。株価は一息ついた状況と言えますが、まだ不透明要因は多いということを肝に銘じておくべきでしょう。
任天堂の株式分割
さて、今回は「株式分割」をテーマに採り上げてみましょう。2022年5月、値がさ株で有名な任天堂が1対10の株式分割を発表し、大きな話題となりました。
これにより、任天堂1単元(100株)の株式購入に係る資金は従来の10分の1になります。任天堂に投資をしようとした際に必要な資金は、これまでの数百万円規模から、今後(10月以降)はその10分の1で済むことになり、投資家、特に個人投資家にとってはまさに朗報となったのではないでしょうか。
投じる資金規模の大きさから投資を敬遠していた個人投資家において、任天堂株が一気に投資対象として浮上してくることは想像に難くないでしょう。
株式分割は買い材料である理由
なお、株式分割は時価総額にとって理論上は中立要因です。株式分割によって株数が変わるために見掛け上の株価は変化しますが、実質価値は不変であり、株価へのインパクトは本来ありません。
しかし、経験的には「株式分割は買い材料」と認識されています。これには2つの理由があると私は考えています。
1つ目は、前述の任天堂の例のように、単元株取得のハードルが下がることで、新たな投資家が入って来やすくなるため、という理由です。これは企業の本質的な価値(ファンダメンタルズ)とは関係なく、株式の需給面に着目した視点と言えるでしょう。
2つ目は、企業経営陣が先行きに自信を持っていると受け止められるため、という理由です。株式を分割すると株数が膨らむため、それだけ多くの株主から経営が監視されるということでもあります。
当然、業績不振となれば、より多くの株主から批判される可能性も否めません。分割によって株価水準が下がり、それに業績不振が加わると、場合によっては「ボロ株」と揶揄されるような超低位株に甘んじてしまうリスクも増します。
それにもかかわらず、株式分割に踏み切るということはそれだけの自信があるのだろう、というわけです。こちらは企業の成長性に着目した視点となります。いずれにしても、理論的には中立ながら、株式市場参加者からは概ね好材料と受け止められていると言えるでしょう。
2022年に株式分割へ踏み切る企業は減速傾向
そう考えると、任天堂のような例はあったとしても、2022年は株式分割に踏み切る企業はあまり多くないのかもしれません。世界的な景気減速懸念の台頭を背景に、企業業績も当初の期待を上回ってくる可能性が徐々に後退してきているように見られるためです。
このような事業環境下では、先行きの見通しに自信を持って臨める企業は決して多くないだろうと想像できるのです。実際、2022年初めから9月までに株式分割を実施する企業数は60社未満で、これは過去5年と比較して最も少ないペースにあります(過去は同期間に90~190社が実施)。
年間では2017、2018年度は210社を超える企業が株式分割を発表していたのに対し、2022年は果たして100社に到達するのかどうかも微妙というところでしょう。好材料たる株式分割は、現状ではあまり期待できる状況にはないと考えておきたいところです。
株式分割が増える2つの要因
しかし、私は次の2つのケースについて株式分割が今後増えてくる可能性も十分あると考えています。まずは、値がさ株です。任天堂は好例ですが、値がさ株では1単元に相当する株式(100株)の購入に要する資金負担はどうしても大きくなります。
米国は1株から売買が可能で、その気軽さが投資人口の厚みに繋がっていることを考えれば、貯蓄から投資を促進するという岸田政権が最低単位の売買金額の引下げ(つまり、株式分割)に向けて旗を振るという可能性は小さくないでしょう。最低単位の売買金額が100万円を大きく上回る企業群はその必然性が今後高まってくるのではと予想します。
もう1つのケースは、プライム市場経過措置にある企業群です。特に、時価総額や流通時価総額がプライム基準に達していない企業では、株式分割によって(期待値を上げて)株価水準を引上げ、取引株数を増やすことで基準の達成を急ぐケースも出てくるのではと想像します。
これは本質的な企業価値の拡大とはやや趣きが異なるアプローチですが、基準のクリアをゴールとすればそれもまたある意味合理的な方法なのかもしれません。こういった視点で株式分割の候補銘柄に注目してみるのもまた、投資の面白さと位置付けます。