先週の動き:鈍化続く米インフレを映し、ニューヨーク金先物価格は1,900ドル台を突破、一方で国内金価格は円高要因により下落

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、通常取引終値(清算値)ベースで1,900ドル台乗せとなった。1月13日の終値は前日比22.90ドル高の1,921.70ドルと2022年4月22日以来約8ヶ月ぶりに1,900ドルの節目を回復した。

週間ベースでは52ドル、2.8%水準を切り上げ、4週連続の上昇となった。週後半に向けて、水準を切り上げながら相場は進行した。1月12日の取引時間中に一時1,900ドルを突破。翌1月13日には高値警戒感が台頭する中で売り物を消化し、終値ベース1,900ドル超で終了した。

市場の最大関心事は1月12日に発表された、2022年12月の米消費者物価指数(CPI)に絞られていた。結果は前月比で2020年5月以降初めて下落に転じるなど、上昇率が6ヶ月連続で鈍化した。

前年同月比では6.5%上昇と2021年10月以降で最も低い伸びとなったことが判明し、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めペースの緩和期待から、為替市場では米ドルが軟化、米長期金利も低下し、NY金にはファンドの買いが集まった。

焦点となったのは、1月13日の1,900ドルを巡る攻防戦だった。この日のNY金は、NY時間外のアジアからロンドンの時間帯を通し、節目の1,900ドルをはさみ、売り買い交錯状態となった。

年始から9営業日で100ドル近い上昇に、金市場を刺激する特段のイベント(手掛かり材料)があったわけでない。経済ファンダメンタルズの変化による、為替市場での米ドル安転換や米長期金利の低下などを映し、先物市場でのファンドの売り建ての買戻し(ショート・カバー)、さらに新規買い増加で相場は押し上げられてきた。それだけに高値警戒感が付きまとう。

先週末1月13日に発表された米商品先物取引委員会(CFTC)のデータからは新規買い(ロング)の増加とともに、ショートの積み増しも認められている。1月13日のロンドンの時間帯に一時1,910ドル超まで買われた後、売り優勢に転じ、NY早朝には1,900ドル割れまで押し戻された。

ただし、その1,900ドルを巡る攻防もNY時間に入り、買い優勢の流れに転じたのは、足元の相場が上昇トレンドに乗っている証と言えそうだ。

NYの通常取引時間に入って以降は、切り返しに転じ、そのまま1,920ドル台を突破。そこで一旦売りを消化し、午後に入り再び騰勢を強め1,925.30ドルまで買われた。これが、この日の高値となり、終盤も水準を維持し、通常取引終了となった。その後の時間外取引も1,920ドル台を維持して推移し、1,923.00ドルで3連休を控えた週末の取引を終了した。

先週のコラムでは想定レンジを1,860~1,900ドルとし、「1,900ドル超にトライ」としたが、想定以上のモメンタム(勢い)が発生し、想定レンジを上振れた。レンジは、1,869.30~1,925.30ドルとなった。

その一方、国内金価格は、為替要因からNY金とは逆に週末にかけて水準を切り下げた。一旦はNY金の高値追いを映す形で、1月11日の夜間取引にて8,015円まで買われたものの、週末にかけて急激な米ドル/円の下落(円急伸)を受け、NY金の上昇分を相殺する下げに見舞われることになった。

1月12日に日銀が今週の政策決定会合で大規模な金融緩和策に伴う副作用を点検し、必要な場合は追加の政策修正を行うと、読売新聞が報じたことをきっかけに米ドル/円相場が大きく変動。1月12日だけで一時128.89円までドルは売られ、終値ベースでも3円以上の円高となった。

さらに1月13日にも、一時127.48円とドル安は続き、127.86円で終了。国内金価格は水準を切り下げ、1月13日の日中取引は、前日比97円安の7,853円で終了した。週足では52円、0.7%安となった。レンジは7,851~8,015円と、ほぼ先週のコラムで解説した想定レンジ7,850~8,000円に沿うことになった。

NY金の強気を示すゴールデン・クロスの出現

NY金については、テクニカル的にも見どころが生まれている。1月13日時点で200日移動平均線(1,786.74ドル)を50日移動平均線(1,789.94ドル)が下から上抜き、いわゆるゴールデン・クロスといって強気のシグナルと捉える古典的なテクニカル指標が出現している。

前回のゴールデン・クロスは2022年2月11日のことで、当時はその後1,900ドル超えとなった経緯がある。また、そこからロシアのウクライナ侵攻というサプライズ(地政学要因)が加わったことで2,000ドルを突破した経緯がある。このまま短期線が長期線を上回り続けるかは状況次第だが、トレンドは変わっていることを思わせる指標と言える。

米国議会の「決められない政治」再来か。その可能性が金市場に与える影響とは

先週は金市場の関心事でもある、米国財政を巡るニュースもあった。1月13日イエレン米財務長官は、米国財政が1月19日に31兆4000億ドル(正確には31兆3810億ドル)の法定債務上限に達する可能性が高く、財務省は特別な資金管理措置に着手せざるを得なくなると発表した。

米国は連邦債務の上限を法律で決めており、国債発行など、これを超える債務の増加はできない決まりとなっている。

累積債務は2022年10月時点で31兆ドル突破しており、財政赤字の拡大が続く中で、上限接近は時間の問題だった。つまり唐突に発表された印象を受けるが、これは想定内のことである。

実際に当コラムでも2022年12月26日に「2023年、金(ゴールド)相場の見通し」と題し、NY金の過去最高値更新見通しを解説した際に、その押し上げ要因として、この問題を指摘した経緯がある。

今後、国債の利払いなどが滞ると米国債の債務不履行(デフォルト)など、国際的な金融事故の発生となり得るが、財務省が回避のため、やり繰りを算段することになる。

具体的には、公務員退職・障害者基金などの償還や新規投資を止めて支払いに融通することになる。しかし、言うまでもなく限度はあり、早急に債務上限の引き上げ、あるいは法律の執行停止を議会で決める必要がある。

ところが、2022年の中間選挙の結果、新議会は上下両院で支配政党が異なる、ねじれ状態で、共和党主導の下院に至っては、新議長選出が難航する異例の事態となるなど、今後の議会運営が懸念されている。

連邦債務上限問題に関しては、デフォルト寸前まで事態が悪化した2011年8月に「決められない政治」を理由に格付け会社現S&Pグローバルが米国債の1ランク格下げ発表し、その後11営業日でNY金は240ドル上昇し、1,900ドルを突破した当時の過去最高値を更新した経緯がある。

そのきっかけが、米国議会運営が難航した上での「決められない政治」だった。当時は政治に関連する発言を回避する傾向の強い米連邦準備制度理事会(FRB)も、議会運営に懸念を表明するほどだった。

今週の見通し:12月米PPIや小売売上高、FRB高官の発言に注目。NY金は1,910~1,960ドル、国内金価格は7,730~8,070円を想定

今週も発表される経済指標を通し、FRBの金融引き締めペースの減速の可能性を探る展開となりそうだ。

インフレ関連では、CPIとともに注目指標となっている1月18日発表の12月米生産者物価指数(PPI)に注目したい。また、同じ日に発表される12月米小売売上高も注目指標となる。

CPIに続き、PPIでもインフレピーク見通しが確認されれば、米ドル安米長期金利低下から、NY金の押し上げ手掛かりとなりそうだ。また、小売売上高は11月に続き、2ヶ月連続のマイナスで成長鈍化が予想されており、FRBによるこれまでの歴史的な引き締め策の影響が意識されると、利上げ長期化観測がさらに後退する可能性がある。

今週はFRB高官の講演など、発言も連日予定されており、硬軟双方向で市場に影響を与える可能性がある。

また、国内金価格を見通す上では、1月17~18日の両日の予定で開催される日銀の金融政策決定会合も目が離せない。今回については、大きな政策変更はないとみられるものの、黒田総裁の記者会見の発言を巡り、為替相場の反応に要注意となる。

以上を踏まえ、レンジはNY金が節目の1,950ドル突破を見込む1,910~1,960ドル、国内金価格については、レンジは広く7,730~8,070円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券