通貨安阻止の介入強化策

日本の通貨当局の米ドル売り・円買い介入は、9月に2兆8千億円行われ、さらに10月もそれ以上の規模で行われているとの見方が浮上している(図表参照)。円高阻止の円売り介入に対して、今回のように円安阻止の円買い介入局面で注目されるのは、外貨売り介入の原資になる外貨の保有が有限のため、介入資金の枯渇などが懸念されるのではないかということだ。

【図表】米ドル/円の日足チャートと為替介入の観測(2022年9月~)
出所:マネックストレーダーFX

1973年の変動相場制度移行後、日本の通貨当局による外貨売り介入資金が枯渇したということは未だ確認されていない。ただ、外貨売り介入資金の強化策が検討されたということは、少なくとも一度あったようだ。1980年代前半、外貨建て債券発行で外貨資金の調達を検討したケースがこれに該当するだろう。この外貨建て債券は、当時の総理大臣の名前から、通称「中曽根ボンド」と呼ばれた。

当時の米ドル高・円安の始まりも今回と似ており、米国が本格的なインフレに陥ったことから、大幅利上げを継続し、それに連れる形で米ドル高・円安が広がった。それでも、1980年までの民主党カーター政権は、日米協調介入に出動するなど、行き過ぎた米ドル高・円安歯止めに協力的な態度をとった。状況が変化したのは、1981年から共和党レーガン政権に交代したことが大きかった。

レーガン政権は、米ドル高放置の不介入政策をとった。これは、「ビナイン・ネグレクト(優雅なる黙認)」と呼ばれた。こういった中で米ドル高・円安は長期化し、その中で日米の貿易不均衡が急拡大に向かった。

当時、日米政府間で、経済問題を協議する会議に日米円ドル委員会があった。この関係者の1人は、「米国側から対外不均衡拡大を止めるべく、円安を是正するために日本政府は外貨建て債券発行を検討するように要請があった」と、私に対して述べた。

その上で、そういった経緯があったので、その後立場が逆転し、1995年、止まらない米ドル安・円高が問題になった局面において、日本政府からは非公式ながら米ドル安を止めるべく、米政府は外貨建て債券発行に伴う外貨資金の調達、当時の米大統領の名前から、「クリントン・ボンド」発行の検討が要請されたという。

日本の外貨売り介入の原資となる外貨準備は、1兆米ドル以上あることから、外貨資金の枯渇懸念はまだまだ非現実的と考えられる。ただ、今回の円安局面に限らず、将来的に円防衛策が現実味を増した場合、外貨売り介入強化策としてまず注目されるのは、外貨建て債券発行策ということになるのではないだろうか。