バフェットがオクシデンタル株の買い増しに動く

米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイがエネルギー株への投資を果敢に行っている。この度、米石油・ガス大手オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の株式を約960万株追加取得したことがSECへの提出文書で明らかになった。

バークシャーがSECに提出した文書によると、6月17日と6月22日の2日間をかけて、955万1454株を約5億2900万ドルで取得した。今回の買い増しにより、バークシャーが保有するオクシデンタル株は約1億5270万株となり、保有比率は16.3%に高まった。6月24日の終値(60.44ドル)で約92億万ドルに相当する。

バークシャーはオクシデンタルの筆頭株主であるが、さらにオクシデンタル株8390万株を購入するオプションも保有しており、これを行使すれば保有比率は25%を超えることになる。

6月24日付ヤフーファイナンスの記事「Here’s why Warren Buffett bought all the Occidental Petroleum shares he could, even with oil prices well above $100(原油価格が100ドルをはるかに超えているにもかかわらず、ウォーレン・バフェットがオクシデンタル・ペトロリアム株を買い占めている理由)」によると、バフェット氏がオクシデンタル株の追加取得を加速し始めたのは2月下旬のことだという。

きっかけになったのはこの時期に行われたオクシデンタルのビッキー・ホルブCEOによるアナリスト向けのプレゼンテーションだった。ホルブCEOが表明した負債の返済計画、自社株買いと配当金支払い計画にバフェット氏は感銘を受けたとのことだ。CNBCのインタビューでバフェット氏はホルブCEOについて、「彼女は正しい方法で会社を経営している。我々は月曜日に買い始め、買えるだけ買った」と述べた。

オクシデンタルの2021年度の業績は前期から大幅に改善している。2月24日に開催された取締役会においては、30億ドルの自社株買いプログラムも発表された。原油価格の上昇に伴い、今期はさらに業績が拡大することが見込まれる。

【図表1】オクシデンタル・ペトロリアムの売上高と純利益
出所:筆者作成

オクシデンタルのキャッシュフローマトリックスを見ておこう。

バフェット氏が投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わる。同氏が買収する企業はキャッシュを安定的に生み出す企業だ。オクシデンタルは2019年にアナダルコ買収に伴う投資キャッシュフローがかさんだが、それを除いた年度は安定期にプロットされている。

【図表2】オクシデンタル・ペトロリアムのキャッシュフローマトリックス(2017年~2021年)
出所:筆者作成

コモディティの強気相場は続くのか

市場で取引されるものの全ては直線的に動くものではない。直近ではFRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締めによって景気後退入りとなるリスクが指摘されている。このため、原油から小麦、天然ガスから銅に至るまで、コモディティ市況はいったんピークをつけたような形となっている。景気後退への懸念を背景とした利益確定が続けば、今後2~3カ月はさらに下降する可能性がある。

一方で、原油市場の強気はまだ続くとの見方を示している人物がいる。欧米最大の石油・ガス企業エクソン・モービル(XOM)のダレン・ウッズCEOだ。ウッズCEOは、需要に対応する前に生産を削減して排出量を減らそうとする圧力によって、世界はエネルギー需要を満たすのに苦労することになったと述べ、化石燃料生産への投資が再開されるとの予想を示した。

6月28日付のフィナンシャル・タイムズ紙の記事「ExxonMobil chief predicts continuing surge in oil markets (エクソン・モービル最高経営責任者、石油市場の高騰継続を予測)」の一部を筆者が簡約し、和訳したものをご紹介していこう。

ブリュッセルで開催されたジャーマン・マーシャル・ファンド主催の会議で、フィナンシャル・タイムズ紙の取材に応じたウッズCEOは、「人々のニーズを確実に、かつ手頃な価格で満たそうとするなら、かなり強固な代替案が必要であることを認識していなかった。原油価格は生産への再投資を促すまで上昇し続けるだろう」と述べた。

欧州のライバル企業であるBP(BP)やシェル(SHEL)がCO2排出量の削減のために石油やガスの生産を長期的に減らすことに対して積極的なコミットメントを示したのとは異なり、エクソンは生産計画削減を求める圧力に抵抗し、米国、ブラジル等において大規模な石油投資を計画している。

ウッズCEOは、「石油やガスの生産と成長を、最も責任感の強い企業から、より透明性が低く、責任感の弱い企業へと追いやることになる」と語った。

とは言え、そのエクソンでさえ、石油・ガス開発への年間設備投資計画については、パンデミック前より引き下げている。2019年には年間300億ドル以上を投じる計画であったのに対し、現在は2027年まで年間200億ドルから250億ドルを投じる予定だ。

ウッズCEOは世界の石油・ガス新規設備投資の「パイプライン」は「過去に比べて細くなっている」とし、現在、価格が上昇局面にあるものの、長期的な需給バランスに対しては懸念を持っていることを示した。「これらは数十億ドル規模の投資であり、長い時間軸を持つものだ。「移行に伴う不確実性をどう考えるか。そのバランスを取るのが難しい」と述べた。

バフェットの次の狙いはオクシデンタルの完全買収か

オクシデンタルは米国の大手石油会社の1つで、米国において多くの資産を保有している。2019年のアナダルコ買収によって業績は一時、落ち込むところもあったが、一連の投資を通じてバフェット氏は米国における優れた資産を手に入れたことになる。

原油価格の上昇により、エネルギーセクターはS&P500の中でも他のセクターを大幅にアウトパフォームしている。なかでもオクシデンタルのパフォーマンスはシェブロンやエクソンを上回っており、株価は年初来のパフォーマンスでほぼ2倍になっている。

【図表3】オクシデンタル、シェブロン、エクソンの年初来の株価上昇率
出所:筆者作成

バフェット氏は2022年に入り、投資を拡大しており、1~3月には石油大手シェブロン株の買い増しを含め、株式に511億ドルを投じた。バークシャーによると、同社はシェブロンの約260億ドルの株式を保有しており、これは、アップル(AAPL)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、アメリカン・エキスプレス(AXP)の株式に次ぐ地位となっている。

バークシャーの上場企業への投資ばかりが注目されるが、実はバークシャーは傘下にパシフィックコープやミッド・アメリカン・エナジー等の電力会社、石油や天然ガスのパイプライン、再生可能エネルギーの企業を数社所有しており、石油・エネルギー事業は、バークシャーの事業全体の中で重要な位置を占めている。

バフェット氏は、オクシデンタル社の信用状況が改善されれば、同社を買収する可能性もあるだろう。

再生可能エネルギーが将来的に普及する一方で、最近のサプライチェーンの混乱やガス価格の高騰は、より環境に優しい送電網への移行が進む中で化石燃料がいかに重要であるかを投資家に思い知らせるものとなっている。ここ最近のバフェット氏の動きは石油ブームがすぐには終わらないことを示しているのかもしれない。

(※)このレポートを書いた後に、バフェット氏がさらにオクシデンタル株を買い増したというニュースが飛び込んできた。7月4日付ロイター記事「バークシャー、オクシデンタル株買い増しで保有比率17.4%に」によると「(7月1日) 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは、米石油・ガス大手オクシデンタル・ペトロリアムの株式を新たに990万株購入し、保有比率を17.4%に高めた」とのことだ。

石原順の注目5銘柄

オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
出所:トレードステーション
シェブロン(CVX)
出所:トレードステーション
エクソン・モービル(XOM)
出所:トレードステーション
バンク・オブ・アメリカ(BAC)
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス(AXP)
出所:トレードステーション