投資初心者からの金融経済についての質問を企画部調査室などメガバンクに25年勤務経験のある経済学博士の宿輪純一先生に回答、解説をいただいています。

【質問】最近のドル高円安はなぜ発生したのですか?

回答・解説

ドル円為替相場(レート)は、2022年3月初めから4月末までの期間で一気に15円程度円安に動きました。5月に131円前半をつけて一服感を見せた後、6月に入り、更に最安値を更新しています。(6月7日10時30分現在132円70銭)これはこの約30年の最安値の水準です。為替相場の動きの要因は、主として「金利」です。

筆者は経済学、特に国際金融を学び40年。メガバンク勤務時代は、実際に世界のディーリングルームでの取引や経済・市場調査を経験し、現在は金融に関する書籍の執筆や大学等での講義のために研究を続けています。その長年の経験から分かったことは、為替相場の変動の要因の約7割は「金利によるもの」ということです。つまり、為替相場は「金利次第」であり、これが金融商品の為替相場取引の「特徴」と考えています。為替相場は2つの金融商品の比較(ドル円の場合、通貨ドルと通貨円)という仕組みのせいもあり、金利差こそが主因となります。今回の131円まで行った大相場は、まさに金利差によるもので、主役は日本と米国の中央銀行です。

そもそも金融政策の最も重要な目標は「物価の安定」です。それも先進国では数字まで決まっていて「2%」、どのような先進国でも「2%」なのです。日本の中央銀行「日本銀行」の総裁は財務省出身の黒田東彦氏です。日本の消費者物価上昇率は2.1%となり、目標値に達しました。しかし、黒田氏は、金融政策決定会合などでも、日本の経済はまだ脆く、利上げに耐えられないとして、超低金利を今後も当面維持することを表明しました。

一方、米国の中央銀行FRB(Federal Reserve Board※注1)は中央銀行として非常に珍しい目標を持っています。雇用の最大化と物価の安定の2つです。雇用の最大化は景気指標ですが、物価と景気の両方を目標に持つ唯一の中央銀行なのです。 米国の失業率は3月に発表された2月分から3%台の完全雇用の状態となっていて、物価の目標のみに集中できる環境です。また、5月に発表された4月の米国の消費者物価上昇率は8.3%と高い結果でした。そのため政策金利は3月(0.25%)、次の5月(0.5%)と引き上げられ、さらに6月も大きく利上げが予想されています。3月以降の利上げを見越して、ドル高円安相場が始まったと考えています。

米国失業率
出所:マネックス証券経済指標カレンダー
消費者物価指数(CPI)
出所:マネックス証券経済指標カレンダー

日米の金利、すなわち、金利差を見ると、米国金利の上昇で拡大が継続。日本の低金利もゆるぎなかった。とすれば、ドル高円安がある意味、公的に進められたも同然だったといえるでしょう。この米国の金利が高い状況が長く資金をひきつけ続けたことで円安ドル高が130円を越えて進みました。130円という数字に、特に意味はありません。

4月から、FRBの金利の強い引上げ、中国の景気悪化等により、ダウ平均株価など株式市場が下落を始めることになり、ドル高円安の流れは一旦一服しました。しかしその後6月入りしてから再度ドル高円安の流れを見せています。

ところで私は金融市場の講演会の時に、よく質問を受けることがあります。ブレイクトークとしてその際にいつも思うところを紹介しましょう。

一般の方は「円」を主語として「高い・安い」と話しをするのに対して専門家(プロ)の方は「ドル」を主語とすることが多いです。話がかみ合わないということがないように少し注意が必要です。また、よくある一般の方からの質問には「この相場はどこまで上がりますか」というものも多いです。これは、おそらく一般の方々は「上がったら売り、下がったら買い」というレンジ取引を行っていることの証左ではないかと推測しています。

 

※注1 Federal Reserve Bankではないので注意。FRB(Federal Reserve Board)は連邦準備理事会。米国の中央銀行制度の最高機関。日本でいうところの日銀にあたる。金融政策はあくまでも Federal Reserve Board の権限である。Federal Reserve Bankというと、ニューヨークやシカゴなどにあるそれぞれの連邦準備銀行のことである。米国に12ある。