ロシアがウクライナに侵攻して10日あまりになるが事態は膠着している。要因の分析は軍事問題の専門家に譲るが、ここまで時間がかかるのはロシアにとって想定外だったのではないか。ロシア自身も日に日に窮状が増している。ロシア・ウクライナ双方とも早期決着を望んでいるだろう。こうなると、ロシアによる一段の攻撃先鋭化もあれば、急転直下の停戦合意もある。イスラエルがロシアとウクライナの停戦交渉仲介を提案したという報道も伝わる。戦況の過激化でいったん大きく下値を探ってからアク抜けするか、このまま急反発となるか、シナリオは数パターンあるが、いずれにせよ、ボラティリティが高まる局面だ。波乱相場に備える必要がある。

ロシアによる一段の攻撃先鋭化があるとすれば核兵器の使用に突き進む恐れがある。TBSの番組で防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、「劣勢に立たされた場合に戦術核を先行使用して戦闘激化をしないようにするというエスカレーション抑止論は、かなり前からロシアにある」と述べている。比較的威力の低い核兵器を人口の希薄な地域に撃つことはあり得るだろう。そうなった場合、実際の被害はともかく、世界に与える衝撃は測り知れない。無論、市場にも激震が走るだろう。

考えたくないシナリオだが、備えは必要である。但し、その場合は早期決着へと向かうはずだ。シナリオとしてはウクライナが降伏してロシア側の要求を受け入れ停戦となるパターンもあれば、さすがに欧米も黙ってみているわけにはいかず派兵する可能性もある。米国ではウクライナに関与すべきではないという世論が大半を占めているが、核兵器の使用となれば話は別だろう。秋の中間選挙を前に、インフレ対策で苦心しているバイデン政権にとって、人気取りの意味でも参戦ポーズをとるかもしれない。

今はロシア・ウクライナ情勢に振り回される金融市場だが、実は投資環境は改善している。

まず経済が好調を維持していることだ。米国のISM製造業景況感指数は58.6と好不況の分かれ目である50を大幅に上回った。そしてコロナも終息に向かっている。ニューヨーク市は4日、新型コロナウイルスの感染者数の減少を受けて日常生活の規制をほぼ解除すると発表した。米疾病対策センター(CDC)は3日、国内の各地域で新型コロナウイルス感染状況が落ち着いてきたことで、屋内で一律にマスク着用を求める対象から人口の9割が外れたと発表した。

こうしたことから米国の労働市場の正常化がますます進むだろう。先週末発表された雇用統計は市場の予想を上回る強さだった。失業率は3.8%と、2020年2月以来の水準に改善した。非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比67万8000人増となり昨年7月以来の大幅な伸びを記録した。これにより非農業部門雇用者の総数は1億5000万人の大台を回復した。非農業部門雇用者数の過去最高はコロナ前につけた1億5250万人。既にその99%の水準に戻っている。これが意味することは、つまり、人出不足はほぼ解消されているということである。だから、実際に賃金の伸びも鈍ってきた。時間当たり平均賃金は31.58ドルと前年同月比では5.1%の上昇だが、前月の前年同月比5.7%上昇から見れば伸びが鈍化している。前月比では横ばいだ。インフレが懸念されるなか、賃金インフレにピークアウトの兆しが見え始めたのは朗報だ。

その意味では今週の物価指標が改めて注目される。9日に中国で2月の生産者物価指数(PPI)とCPI、10日に米国の2月CPIの発表がある。米国のCPIはさらに伸びが加速する予想となっているが果たしてどうか。市場の反応が注目される。

いまは有事でファンダメンタルズの改善という好材料が市場に無視されている。無理もないのだが、それゆえ万が一、波乱となって下値をつけにいく場面では、その後の急反発を見込んだ押し目買いはトライする価値があると思う。

今週末、3月11日は東日本大震災から11年。3・11のメジャーSQは当時も含めて今回が3度目だ。なんの意味もないが「3度目の正直」で上放れることを祈る。

上述の通り、ボラタイルな相場を予想、レンジは広めにとらざるを得ない。日経平均の今週の予想レンジは2万4500円~2万7000円とする。