先週土曜日の新聞(日経)に「欧州の銀行 金担保に外貨調達」という記事がありました。ご覧になった方も多いことでしょう。

内容は、「中央銀行の中央銀行」たる国際決済銀行(BIS)が金を担保に欧州(資金繰り難の南欧)の銀行に融資していた、というものです。発覚したのは、BISの年次報告書(163ページ)の「注記」を金市場関係者が見つけたことによるそうですが、興味のある方は実際のものをご覧ください。
http://www.bis.org/publ/arpdf/ar2010e8.pdf

「金を担保に融資」ということですが、その手法として「Gold Swap」(金のスワップ)という取引が行われたということです。

スワップという言葉を聞くと、FX取引の受払金利であるスワップ・ポイントを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、スワップは、もともと「交換」という意味で、スワップ取引には金利スワップ(同一通貨間の異なる金利の交換)、通貨スワップ(異種通貨間の金利と元本の交換)をはじめとするたくさんの種類があります。

今回のBISにおける「ゴールド・スワップ」取引は「金と他通貨との交換取引」ということです。交換取引は満期になれば元に戻す契約ですから、金を差し出し、外貨を受けとった場合、満期時には金を受け取り、外貨を返すというオペレーションが行われます。そのため、金を担保に外貨を借りたという表現も正しいと言えますね。

海外のニュース記事によると、今回のゴールド・スワップでは、金と交換された通貨としては主として米ドル、その契約期間は12カ月未満だということです。この取引が発覚した後、「もし借り手が返済できなければ、担保の金塊は市場で売却される可能性が強い」と金の売り材料になったということです。ただ実際には金は市中に売却されたわけではありませんし、仮に契約満期になって実際にデフォルトが起こっても、BIS が即刻、金を市中へ放出をするとも考えにくいと思われます。金市場参加者によるネタ探しとネタの過大評価のような気もします・・・。

それ以上に個人的に関心があるのは、(ニュースが本当だとすれば)交換通貨が米ドルだということ。取引先が欧州の民間銀行ということであれば、資金調達に米ドルの為替リスクも取ったことになります。取引した通貨(米ドル)が自国通貨(ユーロ)より一段と強くなれば返済時の負担が大きくなることを意味します。契約期間は12カ月未満ということですが、来年の前半には米国が出口戦略を取ることを期待する声も高く、そうすれば米ドル高になる可能性も高まります。

ここ数週間は欧州の信用不安に対する市場の過剰反応がやや落ち着いてきたように見受けられますが、こうした取引の契約満期時前後には再び不安要素として市場の話題の中心に登場してくるかもしれませんね。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員