日本のGW中に再燃したPIIGS問題は世界の株式市場を急落させ、投資家
はリスク回避を行ってきていましたが、支援策の決定によって、欧州不安は残るものの、他のリスク商品に及んでいた過剰な不安感はひとまず落ち着きを取り戻しつつあります。

そんな中で中国株式市場はぱっとしない動きが続いていますね。
リーマンショック後からの中国株の回復は世界の他の株式市場に先行したものの、今回の欧州不安発の世界株式急落の動きの中では取り残されている感もあります。

市場で中国に関するテーマといえば、「中国の金融引き締め」(中国元の切り上げや利上げ)です。中国株がぱっとしない中でもニュースになるほどです。日々目にするニュースの中では、当然のように中国元の状況や中国株式についての記事がありますが、基本事項を簡単に確認してみましょう。

まず中国元そのものは自由に売買できる、いわゆるハードカレンシー(国際通貨)ではありません。中国政府による規制の下、国内市場(オンショア市場)のみの取引です。
そのため中国株式もいくつかある株式市場のうち、海外の投資家が売買に参加できる市場は一般には、香港市場、本土では米ドルもしくは香港ドルによって売買できるB株市場に限られます。A株市場は中国元による取引のため、国内もしくは資格を得た海外の機関投資家(QFII)のみが売買できる市場です。もちろん国際的に自由に売買できる中国元建ての債券市場はありません。
こうした制限のある市場の動きについて世界中が注目するのは、中国の経済発展の世界における存在感の大きさです。
中国は安価に大量の商品を世界に輸出しています。為替レートがその状況を反映しない低いレートに固定されているため商品に輸出競争力があるわけで、相応に通貨が強くなるべき=通貨の切り上げをすべきというのが貿易相手国、特に米国の主張です。
また、中国都市部の不動産価格の急騰、「不動産バブル」も指摘されており、インフレ懸念が大きくなってきていることから早期の利上げの可能性も指摘され続けています。

中国元の切り上げの期待感が市場に強まると、前述の通り、中国元は国際流通通貨ではないため、オフショア市場での中国元のNDF(ノン・デリバリー・フォワード=決済の伴わない先物)が上昇したり、「近い通貨」と見られる通貨、ハードカレンシーでは円の上昇などが考えられます。中国元高になれば当然中国国内の輸出産業にはマイナスの影響がありますし、中国に工場がある日本の産業にも多大な影響があるでしょう。
利上げとなると、同様に中国株式市場にとっては冷や水になることが想定され、不動産バブルの崩壊へのきっかけともなりかねません。
ここで中国経済が大きく崩れると、確実に世界経済に大きなダメージを与えることにつながります。

いずれにしても、中国当局はかなり慎重な対応をすると考えられていますし、特に現状の株式市場のような状況にあるだけに実際の実施タイミングはまだ先になるのではないでしょうか。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員