市場は人が参加して動かしているものである限り、人の「思惑」「心理」は変動要因の中でも大きな位置を占めています。
同じようなニュースがあったとしても、関心をもっている人がどれだけ多いかによってマーケットの動きは異なるからです。市場参加者がその時何に一番興味をもって見ているか、その時々「市場のテーマ」が異なるということですね。外国為替市場を例に見てみましょう。

今朝、財務省が1月の国際収支速報を発表しました。
経常収支の黒字、貿易収支も黒字(いずれも前年同月は赤字)でした。

経常収支というのは、国際収支の中で「モノ・サービスや所得のやり取りを記録する収支」のことです。国際収支には他に「金融取引や資本移転などを記録する資本収支」「外貨準備増減」があり、大きく3つに分けられています。貿易収支は経常収支の中の一つで、輸出額から輸入額を引いたものです。貿易収支にサービス収支を加えたものが「貿易・サービス収支」、これに所得収支、経常移転収支を加えたものが経常収支となります。

経常収支 ――貿易・サービス収支
      -所得収支※1
      -経常移転収支※2

※1 所得収支 =外国から得た利子・配当や賃金などと、外国へ支払ったそ れらなどの差額

※2 経常移転収支 =政府間の無償資金援助、国際機関への拠出金など対価 を伴わないもののやり取りの差額

よく耳にする言葉ですが、経済を勉強する機会がないとなかなか詳細は知らないことが多いですよね。

さて、その貿易収支が黒字ということですが、今朝がたの為替市場においてはそれほど大きな反応はありませんでした。
教科書的にいえば、貿易収支が黒字ということは輸出超過ということですから日本の企業は外貨をより稼いでいることになり、その外貨を円に替えるため円買いが進み円高になるという図式があります。

貿易黒字の増加は円高要因の一つとなるわけですが、それ以上に、この貿易収支が市場の主役として参加者を右往左往させていたこともあります。
90年代に大きく円高に進んだ頃、(95年には一時80円を割っています)日米間の貿易摩擦問題はまさに市場のテーマでした。米国からの圧力があるわけですから、教科書的な意味合い以上にドル円で円高が加速するという状況にあったのです。

最近の外国為替市場においては、下記が主なテーマと言えるでしょう。

●ギリシャをはじめPIIGSの財政問題(ユーロの行く末)

●米国の経済回復、出口戦略のタイミング(米国の金融規制法案)

特に先週は米国の経済状況を見る上で重要な指標である「雇用統計」に注目が集まっていたことはご存じの方も多いことでしょう。

「為替変動要因」の代表的なものであれば何でも市場が動くというのではなく、あくまで旬なテーマは何か、何に市場参加者は注目をしているのかを知ることが相場を見る上では大切だということですね。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー