「PIGS」という言葉をご存じでしょうか。
ユーロ圏の、共通項のある国々を差して、最近(欧米においては2008年頃から)言われるようになった表現です。
直訳すれば「豚(複数)」。なんとも失礼な印象の名称ですよね。

その対象の国は欧州諸国の中でも金融市場において財務リスクが高いと言われている南欧のポルトガルとイタリア、ギリシャ、スペインの4カ国。その4カ国の頭文字をとるとPIGS(Portugal、Italy、Greece、Spain)になるというわけです。
ただしイタリアはこの中では貯蓄率と財政規律が相対的に高いことから、「I」はイタリアではなくアイルランド(Ireland)であると主張しています。ですが、アイルランドを入れて「PIIGS」であるという声もありますし、もっと拡大されてイギリス(Great Britain)を含めた「PIIGGS」という説もあります。

最近あらためてこの言葉が日本で注目されるようになったのは、ご存じのとおりギリシャにおける財務不安が急浮上したことにあります。
日本のニュースではドバイ・ショックに続き、ギリシャ単体を取り上げるケースが多かったと思いますが、以前から同様の財務赤字を指摘されてきた「PIGS」諸国も極めて大変な状況にあることに違いはありません。(切迫度はもちろんギリシャが一番なのですが...)

週末の新聞にもギリシャだけでなくポルトガルやスペインなどの欧州不安が世界の株安に連鎖している旨を報じていました。
国の財務不安=カントリーリスクの高まりにつながり、株式下落、通貨下落などはもちろんですが、最も端的に表れやすいのは債券(国債)市場での下落(金利の上昇)です。

ちなみに外国為替についていえば、ユーロは当然のことながら売られ基調ではあるものの、通貨ペアの相手が米ドル(ユーロドル)だと代替として米ドルを買い上がれないというジレンマや、消極的選択で相手を円(ユーロ円)として取引するしかなく、積極的にユーロを売り切れない事情もあります。そのため、この数週間でも何10%もの下落までには至っていません。(新興国であれば一気に何10%も下落することがあります)
またユーロは共同体による共通通貨であり、米ドルに次いで市場での巨大な取引ボリュームもあり、前述のとおり米ドルも冴えないとなると共同体参加国中の数カ国の事情だけで投げ売りは難しいのかもしれません。

そんな中で国債というのは、まさにその国そのものの信用を表す金融商品であり、その債務の不履行=ソブリンリスク・イベントとなりますので、こうした国に対する不安を見るときは最も分かりやすいと言えるでしょう。

この国の財務が大丈夫なのか? → 将来借金に対して利金や元金が支払えるのか? という発想から、国債を保有することのリスクが高まり、急激な売りとなります。
債券は価格が下がれば金利が上がる商品です。長期国債が大いに売られれば、長期金利が高騰することになります。
まさに前回お話した「悪い金利上昇」の代表ですね。
長期金利が上昇するとき、将来的な景気回復期待という「良い金利上昇」のどちらかをしっかり見極めるようにしましょう。

残念ながらPIGSの財務不安はまだ解消されていません。
世界経済の回復の足を引っ張るのか、PIGSを横目にそれでも世界経済は回復に向けて前進できるのか、しばらくは各市場の動きに目が離せないですね。
廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー