日米消費者物価基準の購買力平価といった米ドル/円の上限

米ドル高・円安が止まらず、先週は一気に114円も超えてきた。ただ、そういった中で少し気になるのは、購買力平価との関係だ。日米の購買力平価は、おもに最近にかけての米物価上昇率の急上昇を受けて、逆に急ピッチで米ドル安・円高へ変化、ちなみに日米消費者物価で計算した購買力平価は、7月末現在で112円程度まで下落してきた(図表参照)。

【図表】米ドル/円と購買力平価 (1973年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

日米消費者物価で計算した購買力平価は、1973年の変動相場が採用されて以降、基本的に米ドルの「超えられない壁」、上限となってきた。その意味では、114円まで米ドルが上昇した動きは、「超えられない壁」を大きく上回り始めたといった意味になる。

そんな「超えられない壁」、日米消費者物価基準の購買力平価に、近年において急接近したのが、2015年6月だった。ここで、当時の感覚からするととてもショッキングな出来事があった。当時はむしろ「円安誘導者」のイメージのあった黒田日銀総裁が、実質的な円安けん制発言を行い、これをきっかけに米ドル高・円安は、まさに当時の日米消費者物価基準の購買力平価、125円で終了となった。

この円安けん制発言は、主に円安のアジア経済への悪影響を懸念して、意図的に行われた可能性があった。行き過ぎた円安は、輸出競合先のアジア諸国に悪影響をもたらす。実際に、この頃を前後して、中国の主要な株価指数である上海総合指数は、「バブル破裂」と呼ばれる暴落に向かった。

当時、英FT紙など、海外の有力メディアの一部が「円安弊害論、円安がアジア経済に悪影響となっている」といった論調を展開し始めていた。黒田日銀総裁は、財務省の国際部門のトップである財務官経験者でもあったので、とりわけこのような海外発円安批判に過敏だった可能性はあるだろう。

そしてその円安は、当時の感覚としては、黒田総裁が主導した2度の金融緩和の結果との理解が基本だったことから、円安批判は自身を直撃しかねないとの判断が働いたとしてもおかしくないだろう。

上記について、少し整理してみよう。米ドル/円にとっては、1973年の変動相場移行後、日米消費者物価基準の購買力平価が基本的な上限となってきた。そして、米ドル/円が、そんな上限に接近するほどの米ドル高・円安は、アジア経済などに悪影響をもたらすリスクがあった。

最近の日米消費者物価基準の購買力平価は112円程度なので、米ドル/円が114円まで上昇してきたことは、これまでの実績を見ると「行き過ぎ圏」に入ってきた可能性がある。そして、そんな行き過ぎた米ドル高・円安は、アジア経済などにとって弊害になる懸念もありそうだ。

日米消費者物価基準の購買力平価前後まで米ドル高・円安になったということでは、上述のとおり今回は2015年6月以来だ。当時は、黒田日銀総裁の大胆な金融緩和が主導した円安との理解が基本だったのに対し、今回は米国の金融緩和政策転換に伴う米ドル高との理解が基本といった違いはあるだろう。

その意味では、消費者物価基準の購買力平価より米ドル高・円安が進んでも、それだけですぐに円安けん制となるわけではなく、アジア経済などへの弊害が目立ってくるかが目先の焦点になりそうだ。