米国の著名投資家ジョージ・ソロス氏が 6月21日にポーランドのテレビ局において「明らかに(危機の)最悪期はすでに過ぎ去った」と語ったと言います。
昨年のリーマン・ショック以降、世界の株式市場が連鎖的に急落し、世界中が悲観的な空気に包まれました。その際に連呼されたのが「100年に一度の危機」というフレーズです。
アラン・グリーンスパン前米連銀議長がリーマン・ショック後に信用収縮が起きた昨年10月に「100年に1度の信用の津波」と呼んだことに由来し、1929年に起こった世界恐慌を意識してできたフレーズです。

ところで今回の経済危機が本当に100年に一度の「恐慌」だったのでしょうか。
複雑に発達した金融商品やグローバル化した市場、情報伝達の速度、市場参加者の多様化、経済の成熟と国際協調の進歩を考えると世界恐慌時とは単純に比較はできませんよね。

世界恐慌は1929年に勃発し、そのまま第2次世界大戦に突入、アメリカでは1941年まで恐慌前の株価水準に戻らず、(日本のGDPは1934年に恐慌前の水準を回復)10年以上長きに渡り、一般市民の生活を直撃する形で続きました。その間戻り局面はあったものの、回復しきれず下落、という状況を繰り返していました。

今回の場合、世界各国は迅速、かつ協調的な大幅な金融緩和などの処置を行い、その効果か、この数ヶ月間のBRICsなどの新興国市場の反発力には目を見張るものがあります。日本株式市場もわずか3ヶ月ほどで4割もの回復をしています。実体はまだ伴っているとはいえない、と感じてはいる人が多いものの、景気回復への期待感は非常に強くなっているといえるでしょう。
当初、専門家の多くは早くても景気回復の芽は今年後半以降、というコメントを出していましたが、冒頭のソロス氏のコメントにあるように、前倒しに修正したコメントも増えてきています。それだけ予想以上に早く市場は活気を取り戻しつつあります。
そうした状況を背景に、市場ではすでに「100年に一度」というのは大げさすぎるのではないか、10年に一度程度の「不況」なのではないかという声も出てきています。

個人的にはそうした楽観的な捉え方は少々怖いように感じています。
現在のBRICsや日本の株価の回復の速さはその主な要因が「期待感」という実体がないものであること、大規模な金融緩和は長期金利の上昇(景気上昇サイクル時の「良い金利上昇」ではなく、財政悪化懸念からくる「悪い金利上昇」といえます)を招いていることという不安定な状況を考えると、手放しに「回復」と喜ぶのは危険なのではないでしょうか。
100年に一度とは言わないまでも、実体経済に大きな傷跡を残しつつある(この部分はまだ現在進行形であるともいえます)不況であることには違いありません。相場には必ず調整があり、今回のような急速な上昇には大きな調整の可能性も高いと思われます。あまりに楽観的になりすぎると、大きな調整の波に飲まれないともいえません。
数々の指標が指し示すように、本当に最悪期が過ぎ去ったかどうかは、もう少し注意深く様子を見て、慎重になる必要があるように思います。

廣澤 知子

マネックス証券 シニア・フィナンシャル・アドバイザー