確定拠出年金の元本割れ続出というニュースはご記憶に新しいと思います。3月末時点で加入者の63%が元本割れ、年利回りは4人に1人が10%以上のマイナスになっているというものです。
困ったことになったと頭を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。実際、将来受け取る大切な年金の元本割れというのはゆゆしき事態です。ですが、こうしたニュースの見出しは時として誤解を招くことがあります。

確定拠出年金、通称日本版401K(もしくはDC)は加入者自身が運用する年金です。運用商品は加入年金によって用意している商品が異なりますが、通常は各種投資信託、保険、預金といったラインナップになります。これらの商品群から加入者が自身の判断で運用商品とその比率を決定、つまり年金運用のポートフォリオを作成して運用していきます。

確定拠出年金については以前にも書いていますので、ご参照ください。
>第44回 確定拠出年金制度
http://lounge.monex.co.jp/column/money/2007/04/16.html
>第47回 企業型確定拠出年金の現状
http://lounge.monex.co.jp/column/money/2007/05/14.html

運用商品群における投資信託には国内株式型、外国株式型、バランス型などバラエティに富んだ種類があるのが一般的です。株式運用タイプの投資信託をポートフォリオに加えている場合、当然のことながら、株式市場の相場に運用成績は左右されることになります。
ご存じのとおり、昨年秋のリーマン・ショック以降、世界中の株式市場が同時下落しました。少しずつ回復基調にのっている市場もありますが、全体としてまだまだ低調にあります。つまりは元本割れになっているケースが非常に多いということです。
また、対円(ドル円、クロス円)の為替レートについても、昨年の秋に急落してから、現在は底を打って回復段階にあると見えるものも多いですが、こちらもまだまだ総じて円高気味にあります。
海外株式型および海外債券型の投資信託で為替のヘッジをしていないタイプであれば、当然為替相場の影響も受け、購入時より円高に推移していれば、それだけ保有資産は目減り(為替差損)することになります。
以上のような市場状況を鑑みれば運用商品の評価において、元本割れが続出していることは加入者本人の運用の腕前や制度の問題というわけではないことがわかります。ちなみに百戦錬磨のプロの投資家でも昨年来の相場の大下落で勝っている人は一握りです。

さてここで、以下の点を確認してみましょう。
元本割れとなった時点で評価がマイナスになっている投資信託を売却し、他の投資信託に乗り換えているでしょうか?定年退職等の理由で現金で引き出すために運用を終了しているでしょうか?
以上どちらか、もしくは両方に「はい」という方は元本割れを実現損としたことになります。それ以外の方は現在の元本割れというのはあくまで評価損なのです。もちろん定年を間近に控えていらっしゃる場合は、評価においての元本割れが年金の目減りの可能性に直結することは事実です。
年齢の若い方にとっては、まだまだ今後のことはわかりません。現在評価損が出ていることは、気持ちの良いものではありませんし、元に戻るという保証はありませんが、受け取る年金自体の目減りが確定したわけではないのです。
通常の運用同様、早めに損切りをして有望な商品に乗り換える、しばらく様子を見る、など加入者の方の判断次第ではありますが、ニュースの見出しだけで将来を悲観しないようにしましょう。
なお、自動で積立てられる確定拠出年金はついついほっておいてしまう方も多いようです。年に一度はご自分の運用内容の確認はするようにしてくださいね。

廣澤 知子
マネックス証券 シニア・フィナンシャル・アドバイザー