>> >>特別インタビュー【1】米国株のAI銘柄が注目される理由、「米中AI競争」における懸念とは?
自動車業界の常識を覆したテスラ
岡元:2016年にお会いした時、トーマスさんがご自身で所有のテスラ車に乗せてくださったのを覚えています。あの車は確かモデルXでしたね。
トーマス氏:はい。私にとって初めての電気自動車(EV)でした。私は初期の購入者の1人でしたので、テスラ社(TSLA)の様子を体感することができました。
岡元:長期的な投資先として、今でもテスラに魅力を感じていますか。この5年間でテスラの何が変わったと思いますか。
トーマス氏:どのような業界であっても、進化していく過程において、一定のSOP(標準作業手順書)があります。イノベーションがなければ、その作業手順に対して問題提起されることは、ほとんどありません。
テスラは自動車市場に登場すると同時に、従来の自動車業界の常識を大きく覆しました。それまで各自動車会社は販売店を通じて販売していました。しかし、テスラは直販です。多くの自動車会社が販売店にサービスを提供していたのに対し、テスラは自社でサービス部門を作りました。
テスラの優位性が維持可能な理由
トーマス氏:テスラは、メンテナンスが不要な電動のパワートレインを導入したので、既存の自動車会社とは大きく異なっていました。私がテスラに特に魅力を感じたのは、既存の自動車会社が変えようとすると困難なことを実行しているからです。既存の自動車会社にとって困難な理由は、バリューチェーンの中に多くの関係者がいて、彼らがやっていることを変えなければならないからです。それは今も変わりません。既存の自動車会社が内燃性エンジンの構造全体から離れるのはいまだに困難なのです。
5年前、テスラは数万台の車を販売していました。2021年は100万台近くになりそうです。今後24ヶ月以内には200万台以上を目標としています。
既存の自動車会社が、EVの開発に挑戦しているのは事実です。しかし残念なことに、彼らにとってEVの開発は非常にニッチな活動でした。現在、彼らは大きな変化を遂げていますが、イノベーションの面では何年も遅れています。
私たちは当面の間、テスラにはあまり有力な競争相手がいないだろうと考えています。また、テスラは自動車のコストを積極的に引き下げ、より多くの人が利用できるようにすることに成功しています。ですから私たちは引き続き、テスラ株は投資先として魅力的だと感じています。
岡元:テスラ株は、今後10年保有できる可能性のある株だと言って差し支えありませんか。
トーマス氏:テスラが築いてきた優位性が、近いうちに失われていくとは考えにくいですね。今のところ、既存の自動車会社がEVへの移行をどのように進めていくのかも見えていません。これまでに発売された自動車を見ても、性能面・価格面においてテスラとは比較になりません。既存の自動車会社はEVへのアプローチ方法を大きく変える必要があるでしょう。
すべてのEVメーカーが直面している最大の制約の1つは、バッテリーです。テスラは、2014年に、ネバダ州に世界最大のリチウム電池工場「ギガファクトリー」を建設するという、驚くべき投資をしました。当時のリチウム電池の世界生産量を2倍にするというものでした。これは携帯電話やノートパソコンに搭載されている単電池です。製造を計画していた車を作るためには、全体の生産量を2倍にする必要がありました。それが功を奏したのです。彼らは非常に低コストで信頼性の高いバッテリーを供給しています。
現在、既存の自動車会社の多くは、非常に安全なバッテリー供給が必要であるという認識を持ち始めたところですが、それは自動車全体の中の1つの要素に過ぎません。彼らがやるべきことはまだまだたくさんあります。
テスラは自動車の製造以外にも革新的な取り組みを行っています。最近では、完全な自動運転ソフトウェアのベータ版を発表し、月額199ドルで利用できるようにしました。YouTubeにベータ版を使用している人たちが動画を投稿しており、ソフトウェアは早くも改善されてきています。ユーザーの行動から現実世界に照らし合わせて、どのようにトレーニングするかを学習するアルゴリズムがあり、それが急速に向上しています。これにより、テスラと他の自動車会社との競争関係が変わるでしょう。
岡元:5年前にトーマスさんの車に乗せていただいた時、ハンズフリーで運転しているところを見せてくださいましたよね。その後、テスラ車の自動運転機能は飛躍的に向上しました。
トーマス氏:あれは自動運転ではなく、正確には運転をアシストするアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)でしたが、特に高速道路で渋滞している時などは、車がアシストしてくれると助かりますよね。
長期投資の対象として注目している銘柄は?
岡元:トーマスさんが運用しているファンドで、長期投資の対象として注目している銘柄を教えていただけますか。
トーマス氏:テスラは、ほぼ設立当初から私たちのポートフォリオの中で重要な投資先でした。私たちは特に同社が新工場を設立して生産能力が拡大するにつれ、さらなる上昇余地があると考えています。
過去の動きを見ると、テスラの株価を決定づける要因は、十分な車両を生産できるかどうかにあるようです。自動車の生産能力が拡大すると、段階的に機能が向上し、バリュエーションが上昇していました。例えばモデルYのような新しい製品ラインを導入するときや、新しい工場を設立するときなどです。これらはテスラの利益が向上する要因になると捉えられているようです。
AI技術を活用して急成長中のスクエア(SQ)
トーマス氏:長期的に注目している企業は他にもたくさんあります。例えば、スクエア(SQ)は、小規模ビジネスのための支払いを加盟店が行えるようにしたり、小規模ビジネス向けのローンを組めるようにしたりする、決済分野の企業です。また、ユーザーがデジタル決済できるアプリ「Cash App」も提供しています。このアプリは非常に大きな成長を遂げています。数年前に導入したばかりですが、粗利益の50%を占めるまでに成長しました。
スクエアは非常に革新的な決済志向の企業です。中小企業のユーザーに実に効果的なサービスを提供しており、彼らもAIを活用しています。以前は、加盟店が決済を受けようとすると、かなり長い時間をかけて申請手続きを行い、信用調査をしなければなりませんでした。スクエアでは、基本的にサインアップすれば5分以内に支払いを受け付けられます。誰かがスクエアの決済端末で不正な取引を行った場合、同社のアルゴリズムが迅速に不正を検知できることも一助となっています。これにより、同社は多くの中小企業を顧客として獲得し、ビジネスを差別化する手段としてAIを活用しています。
デジタル化の裏で多くの企業支えるトゥイリオ(TWLO)
トーマス氏:また、トゥイリオ(TWLO)というクラウドコミュニケーションプラットフォームの企業にも注目しています。メッセージングサービスのインフラを提供している企業です。例えばユーザーはフェデックスの荷物が自分宛に配送されると、「荷物を配達中です」や「荷物が家に配達されました」といったメッセージを受け取れます。人々と直接コミュニケーションをとり、最新情報を提供するアプリケーションが増えています。
ウーバーのメッセージにしても、ドライバーが今どの場所にいるかを知ることができます。トゥイリオはかつてウーバーにサービスを提供していましたが、ウーバーは自社でそのサービスを行なうためトゥイリオから離れました。トゥイリオが上場したばかりの頃はそのことが影響していましたが、今ではほとんどの企業がトゥイリオのサービスを利用し、各種アプリがユーザーに情報を伝えるためのメッセージングサービスやインフラとして同社に委託しています。このメッセージングサービスは、特にAIアプリケーションにとって非常に重要な領域です。
AIアプリケーションで企業が何をしたいのかというと、例えばサービスを提供する際にユーザーの同意を得たり、現在のサービス状況をユーザーに伝えたいのです。トゥイリオのインフラが、まさにそのような役割を果たしているのです。
コロナ禍でシェア拡大中のロク(ROKU)
トーマス氏:私たちが注目しているもう1つの企業は、コネクテッドTV(※)のOSを提供するロク(ROKU)です。同社はテレビの背面に接続して、よりインテリジェントなTVにするためのハードウェアも提供しています。これらの製品は、完全なコネクテッドTV環境を可能にします。(※コネクテッドTVとは、ストリーミング動画コンテンツの配信を容易にするTV、またはスマートTVに接続できるデバイスのこと)
この分野では、アマゾン(AMZN)、アップル(AAPL)、グーグル(GOOGL)など、多くの企業が競合していますが、ロクは米国内最大のプレーヤーとなり、シェアを拡大し続けています。特に革新的なのは、ビジネスチャンスをAVOD(広告型動画配信)にも広げたことです。
現在、皆さんが接している視聴サービスのほとんどは、ネットフリックスやディズニープラスのようなサブスクリプション型だと思いますが、最近では、ユーザーが動画の一部を無料で見たいと思うケースが増えています。そういった中で、ロクはその機会を大幅に増やしました。メディアサービス部門では、前年比100%以上の成長を遂げています。そしてさらにグローバルに事業展開し、コンテンツオーナーの収益化を促進する機会を提供しています。
岡元:ロクはここ数年で、株価が大幅に上昇していますが、今後にも期待されているのですね。
トーマス氏:コロナ禍の影響により、人々が自宅に留まって、より多くのオンデマンドのデジタルサービスを求めるという変化がもたらされました。それがロクの助けになっているのは確かです。
ここ数年で起こったことの1つは、消費者がストリーミングビデオサービスに移行したということです。18歳から35歳までの若年層は、ストリーミングサービスに費やす時間が増えており、その中にはオンデマンド要素が好まれています。彼らの多くはケーブルTVを解約し、ケーブルテレビ用チューナーも使用していません。
広告主はユーザーの動きの変化に適応できておらず、これまでのケーブルTV事業者との関係を継続していました。しかしコロナ禍をきっかけに、今まで逃していた顧客層にアプローチする方法を考える必要性に気づいたのです。コネクテッドTVの広告費の変曲点を目の当たりにして、顧客層へのアプローチを変え、前四半期には前年同期比でほぼ100%、またはそれ以上の成長を遂げた企業がいくつかあります。これは、従来のテレビ広告予算の多くがコネクテッドTV向けに移行したためです。
このような背景もあり、私たちは引き続きロクにも注目しています。
次回は、注目の小型銘柄や良い投資家になるためのアドバイスについてお届けします。
本インタビューは2021年8月26日に実施しました。