今回、アリアンツ・グローバル・インベスターズ社(以下、アリアンツGI)でリードポートフォリオ・マネージャーを務めるセバスチャン・トーマス氏にインタビューを行ないました。トーマス氏は米連邦制度準備理事会(FRB)や、他の運用会社などで勤務した後、2003年にアリアンツGIに入社。以降はテクノロジー関連株式の運用に携わり、大型・中型のソフトウェアおよびIT企業を担当。20年以上にわたる運用・調査経験をお持ちのトーマス氏に魅力的なAI関連銘柄や注目の小型株などをお聞きしました。

AI関連銘柄がS&P500をアウトパフォームする可能性

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:本日は弊社のセミナーにご出演いただき、ありがとうございます。最後にお話ししてから約5年は経っているのではないでしょうか。

トーマス氏:はい、約5年ぶりですね。またお目にかかれて嬉しいです。

岡元:まず最初に、私のツイッターのフォロワーの方から寄せられた質問をさせてください。
「私はS&P500インデックスファンドに投資しており、パフォーマンスにはとても満足しています。なぜ、人工知能をテーマにしたアクティブファンドへの投資を検討すべきなのか、また、トーマスさんが運用しているファンドについて教えてください」とのことです。

セバスチャン・トーマス
アリアンツ・グローバル・インベスターズ社 、CFA、リードポートフォリオ・マネージャー / テクノロジー・シニア・リサーチ・アナリスト

トーマス氏:S&P500は長年にわたって非常に成功したインデックスであると言えます。

しかし、S&P500の構成銘柄は、特にこの20年ほどの間でかなり変化しています。20年前のS&P500を考えてみてください。グーグル(GOOGL)もフェイスブック(FB)もありませんでした。アップル(AAPL)はたぶんマイナーな存在でしたし、エヌビディア(NVDA)のような企業もありませんでした。この急速なイノベーションの時期に、S&P500の構成が大きく変化したのです。

皆さんが今日、目にしているインデックス全体のパフォーマンスの一部は、このようなイノベーションの出現を表しています。S&P500の上位10銘柄を見ると、そのうち8銘柄はテクノロジー関連銘柄です。

その中でも特にAI(人工知能)が興味深い投資分野であり、S&P500指数を上回るパフォーマンスが期待できると思っています。その理由は、AIが今後のイノベーションの最大の源泉の1つであると考えているからです。

AIは、コンピュータ科学者が最初のコンピュータを開発したときからの夢のようなものです。彼らは人間のために働く機械を作りたいと考えていました。私たちはようやくそのビジョンに近づきつつあり、AIが大きな変化をもたらしてくれています。

そうしたことからも、今後、S&P500の構成がさらに大きく変化し、これらの革新的な企業が重要視されていくでしょう。

私たちのファンドのようにAIに特化した銘柄に投資する理由は、インデックスがこれらのイノベーションや価値創造を将来的に組み込んでいくであろうと見込まれるからです。また、AIに特化した銘柄の投資は、持続的にS&P500をアウトパフォームできると考えています。

AIによるイノベーションは、まだ氷山の一角

岡元:AIが私たちの日常生活をどのように変えているのか、具体的に教えていただけますか。 

トーマス氏:日々の変化という意味では、今回のパンデミックによって、世界中の人々は非常にトラウマになるようなショックを受けました。そのショックに対処するのに、AIが非常に大きな役割を果たしています。

コロナワクチンの開発などはその例です。パンデミックが発生してから1年後には実用可能なワクチンが完成しました。これまででしたら、このスピードで開発するのは不可能だったと思います。コンピュータがウイルスのゲノム構造を解析し、スパイクタンパク質を特定し、さらにそのスパイクタンパク質を標的とした治療法を考案したからこそ、これほど早く開発を実現できたのです。

ワクチンの開発の他にも、世界中の人々がお互いに連絡を取り合い、仕事を進めていくための手段がZoom(ZM)のようなものに移行していくという調整過程がありました。この「調整」を可能にしたのは、 Zoomのシステムの背後にある多くのアルゴリズムです。このアルゴリズムによって膨大な量の負荷をシームレスに処理できたのです。

サプライチェーンもAIを活かして再計画され、企業は顧客へのアプローチ方法を店舗でのサービスから、バーチャルでのアプローチへと「再調整」しなければなりませんでした。

この1年間で起こった驚異的な調整の数々は、もしAIとその背後にあるコンピューティング技術がなければ実現できなかったでしょう。 

今後もAIが私たちの生活に浸透していく分野が増えていくでしょう。それは、グーグルで検索したときに、より早く目的のものを見つけられるとか、SNS上のことだけではありません。アップル・ウォッチのように、心拍数や血圧を測定できるインテリジェントなトラッカーのようなものや人々のライフスタイルを向上させることができるものです。AIには膨大な量のイノベーションがあり、私たちはまだ氷山の一角を見ているに過ぎません。

AIで成長する企業には「データ・ドリブン」の文化が必要

岡元:AIの進化によって、どのような産業が恩恵を受けますか。

トーマス氏:私たちはあらゆる業界がAIの影響を受ける可能性があると考えています。AIの導入に向けた重要な要素の1つは、文化的な変化です。単にテクノロジーを採用するというよりも、実はもっと繊細なものです。つまり、データを収集し、分析・理解し、エンドユーザーに役立つ意味のある方法でデータに反応できる組織を持つということです。これには、多くの文化的な変化が必要です。

テスラ(TSLA)の自動運転技術を例に挙げてみましょう。高速道路を走行中の車を制御するソフトウェアを、車に搭載して出荷することは、自動車業界の幹部にとってみれば非常に困難なタスクです。 なぜなら、頭の中で「これは法的責任がある」「そのソフトウェアが機能通りに動作しなかったらどうしよう」「株主のために多くのリスクを冒しているのだろうか」などと考えなければならないからです。

このようなイノベーションを受け入れられるようにするには、企業文化において変化が必要です。そのための投資が不可欠です。だからこそ自動運転ソフトウェアの分野では、創業者が率いている企業が成功を収めているのだと思います。「データ・ドリブン」の文化を支えるリーダーシップが必要であり、その姿勢はすべての業界において言えることでしょう。
 
かつてはテクノロジーから始まり、その後医療分野でもAIの進歩が見られました。医療分野においては、健康状態の追跡や医療記録の分析、ゲノムの配列など、多くのデータが存在するからです。今では業界全体で見られるようになり、当社のAIファンドのポートフォリオ構築にも反映されています。

米中AI競争における懸念点

岡元:米国と中国の間での、AI競争をどのように見ていますか。 

トーマス氏:AIは非常に重要なテクノロジーですが、その根幹には、AIに何を達成させたいのか、どのようにして実現するのか、といった的確な判断が求められます。開発したいアプリケーションに文化的価値が確実に盛り込まれるようにするための適切なプロセスが必要なのです。

監視カメラをいたるところに設置し、人々を監視することによって犯罪を減らそう、というのは一見、素晴らしいアイデアに思えるかもしれません。広義では道理にかなうかもしれません。しかし、政府の行動に対して人々が意見を表明できないような警察国家を作ることになるのではないかという懸念が生まれます。

基礎的な技術においては、米中間で競争が激しく、かつ急速に進歩しています。特に中国の躍進は目覚ましいものがあります。しかし、いまだに疑問が残るのは、社会や国民を守り、安心感や幸福感を提供し、国民の自由を侵害しないことを担保する法的要素や基盤要素に関してです。米国と中国、そしてAIの競争がどのように展開していくかについては、その点が懸念されます。 

イノベーションをもたらした企業の今後の見通しは?

岡元:AI技術の生みの親であり、またAI技術の受益者でもある企業は、生み出す豊富なキャッシュによって更に成長を続けていくのでしょうか。

トーマス氏:アルゴリズムを代表する企業は、素晴らしい企業ばかりです。そのほとんどは米国で時価総額が1兆円を超えており、人々に素晴らしいサービスを提供しています。これらの企業には、AIを活用してサービスを強化し、人々の生活をより便利にし、周辺サービスを提供する機会があります。そしてその機会を更に増やし続けています。

AIのイノベーションサイクルは、これまでに見られたものとは少し異なります。例えば、クライアント・サーバー・コンピューティングからインターネット・コンピューティングへの移行など、これまでのイノベーションサイクルは、既存企業にとって非常に「破壊的」なものでした。またモバイルへの移行も、多くの既存企業に大きな「破壊」をもたらしました。

その結果、新しい企業が台頭してくると、他の企業が衰退していくのがわかりました。例えば、グーグルが台頭してきたとき、ヤフーはユーザーにとって重要性が希薄になりました。
かつてPC業界では、ヒューレット・パッカード、コンパック、デルなどの企業がそうでした。重要な企業ではありましたが、モバイルの革新についていけず、ユーザーとの親和性を失っていきました。

AIが他の技術と異なるのは、既存企業がAIを使って、提供するサービスの種類を増やすチャンスがあるということです。これらの企業には非常に魅力的な機会があります。ただし、課題としては、企業が大きくなりすぎて規制当局から注目を浴びるようになり、企業の活動や公益に貢献しているかどうかについて世間で議論されるようになったことが挙げられるでしょう。

岡元:政府はそれらの企業を規制しようとしていますが、結局のところ、彼らは中国と競争しているのです。米国内のそれらの業界や企業を過剰に規制することが、米国の利益になるとは思えません。今後、規制が厳しくなると思いますか。

トーマス氏:これらの企業は精査され、行動に関して多くの世論が形成されるでしょう。しかし、実際に不正行為を告発されたり、規制をかけたりすることは、少しずつ減っていくでしょう。彼らが意図的に不正を行なっているとは思えないからです。彼らには「自然独占」(※)があるかもしれませんが、一部の例外を除いてその独占力を過度に拡大しようとはしていないと思います。

彼らは米国に本拠地を置きながら、世界中の人々にサービスを提供しているので、そのような議論は重要です。米国がこれらの企業の活動を精査しないのであれば、他の国の政府が精査するでしょう。実際に欧州連合(EU)は、これらの企業の活動を精査しています。

このような議論は世界中で注目されることになるでしょう。なぜならば、彼らの気前の良いサービスによって、競争が阻害されたり、イノベーションが妨げられたりしていないかを確認したいからです。これは重要な議論だと思います。

だからといって、それが悪い企業だとは思いません。ただ、その影響力の大きさから、彼らが何をしているのかを評価しなければならないと思います。

(※)制度などの人為的な要因ではなく、経済的な要因によって規模の経済が働くとき自然に発生する独占を指す。

>> >>特別インタビュー【2】テスラ株(TSLA)の将来性、長期投資先として有望な銘柄は?

本インタビューは2021年8月26日に実施しました。