TSMCの決算を振り返る
半導体の受託生産世界最大手である台湾のTSMC(TSM)が7月15日に発表した2021年第2四半期(4-6月期)の決算は、売上高が前年同期比19%増加の3721億台湾ドル(132億8900万ドル)と、世界的な半導体不足を背景に四半期として過去最高を記録した。
営業利益は11%増の1456億台湾ドル(52億100万ドル)、純利益は1344億台湾ドル(48億200万ドル)と、こちらも11%増加し、第1四半期からに比べると伸び率は鈍化したものの、2ケタ増益での着地となった。
7月15日付のロイターの記事「台湾TSMC、第2四半期は11%増益 半導体需要続く見通し」によると、TSMCのウェンデル・ファンCFOは、「第2四半期は、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)と自動車関連の需要が引き続き好調だったことが、主な原動力となった」と指摘した。
TSMCがホームページ上で公開している第2四半期決算資料(※)の「2Q21 Revenue by Platform(用途別売上高)」を見ると、売上の中で最も大きな割合を占めるのはスマートフォン向けが42%、パソコンやサーバー、ゲーム機用CPU、GPUなどを含むHPC向けは39%と、この2つの分野で全体の8割を占めている。
スマートフォン向けが第1四半期(1-3月)に比べて3%減少しているのに対して、HPC向けは12%増加と全体の伸びをけん引した。一方、全体に占める割合は4%と小さいものの、自動車向けも前四半期から12%伸びており、これらが用途別としては最も大きい伸び率となった。
同資料(※)に掲載されている「2Q21 Revenue by Technology(テクノロジー別売上高)」を見ると、最先端分野である7ナノプロセスが31%、5ナノプロセスが18%と全体のほぼ半分を占めている。最先端の7ナノプロセスと5ナノプロセスの売上は順調に伸びており、とりわけ今後も5ナノプロセスの成長が期待されている。
こうして振り返ると一見好調に見えるTSMCの決算であるが、営業利益率が低下している。前四半期まで40%を維持していた営業利益率は第2四半期に39.1%と40%を割り込んでいる。5ナノの生産が増えるにつれ、材料費、人件費などの生産コストが増加し、利益率が低下することが懸念されている。
前述のロイターの記事によると、次の四半期についてファンCFOは、「第3四半期は、業界をリードする当社の5ナノメートル、7ナノメートル技術の好調な需要が、業績を支える見通しだ。スマートフォン、HPC、IoT、自動車関連アプリケーションの4つの成長プラットフォームすべてが原動力になる」と強気な姿勢を示している。
なお、第3四半期についての会社側ガイダンスは、売上高4,073~4,157億台湾ドル(前年比14.3~16.6%増)、営業利益1,568~1,684億台湾ドル(同4.5~12.2%増)を見込んでいる。営業利益率は38%から40%程度と引き続き4割を割り込む可能性もあり、この決算発表を境に半導体関連株は売りが先行する格好となっている。
半導体ビッグ3の大型投資と業界再編
このTSMCの決算発表でもう1つ注目されたのが日本への投資についてのコメントだ。TSMCのトップは、日本への工場建設について投資効率などの検討にあたるデュー・デリジェンスの段階にあり、あらゆる可能性を排除しないと語った。TSMCの日本進出については、茨城県のつくば市に研究施設を設置する計画が決まっているが、6月にはソニーと組んで熊本に工場を建設するとの報道もあった。
また、3大デバイスメーカーの一角、韓国のサムスン電子は、米テキサス州のオースティンに既に工場を構えているが、さらに新たな半導体受託生産工場の建設を米国において検討している。投資額は170億ドルを上回り、1,800人の新規雇用を生む見通しだ。投資が決定すれば、2022年第1四半期までに着工し、2024年末までに生産を開始する計画だという。
前回のコラム「世界で需要急拡大!注目したい米国半導体銘柄」でも述べたように、半導体に対する旺盛な需要と供給不足を背景に、デバイスメーカーによる設備投資計画が加速している。
SEMI(国際半導体製造装置材料協会)が6月22日に発表した、半導体工場に関する予測レポート「World Fab Forecastレポート」の最新版によると、2021~2022年に着工を予定している半導体の新工場建設は世界で29件である。
SEMIによると、この新工場建設計画29件のうち、19件が2021年中の着工を予定しており、10件は2022年の着工計画とのこと。SEMIによると、29の新規工場建設に伴う製造装置への投資額は、今後数年間にわたり1400億ドルを超える見通しだとしている。
インテルも米アリゾナ州に200億ドルを投じて半導体の新工場を建設することを発表しているほか、TSMC同様、他社の製造を請け負うファウンドリー事業に参入することを明らかにしていた。そのインテルが半導体受託生産のグローバルファウンドリーズを約300億ドルで買収する交渉を進めていると報道された。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが7月15日、事情に詳しい複数の関係筋の話として伝えたところによると、企業価値は約300億ドル(約3兆2900億円)と評価される可能性があり、取引がまとまる保証はなく、グローバルファウンドリーズは新規株式公開(IPO)を進める可能性もあるとしている。
グローバルファウンドリーズは2008年にアドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)のファウンドリー部門が分社化され独立、2010年にはシンガポールのファウンドリー会社を買収して顧客基盤やノウハウを吸収した。2014年にはアイビーエム(IBM)の半導体部門を買収し、エヌビディア(NVDA)やAMDなど向けに半導体製造を行う世界3位のファウンドリーである。本社は米国にあるが、アブダビ政府系ファンドのムバダラ・インベストメントが保有している。
グローバルファウンドリーズは、2018年に7ナノプレセスにおける半導体製造を中止し、ビッグ3との最先端プロセスの開発競争から離脱し、最先端ではない半導体へ資源を振り向ける戦略に転換していた。インテルによるグローバルファウンドリーズの買収がどう決着するのか未知数であるが、ファウンドリービジネスに参入するインテルにとっては補完関係にある良いパートナーだと言えるだろう。
止まらない半導体の技術進化
2021年5月、IBMは2ナノメートルプロセスの半導体製造技術でテストチップの作成に成功したと発表した。IBMによれば、現在主流となっている最先端プロセスである7ナノプロセスと比較して、チップの演算性能を45%高めるか、あるいは消費電力を75%削減できるとしている。
具体的には、これまで1日1回だったスマートフォンの充電が、4日に1回で済むようになると言う。早ければ2024年後半には2ナノプロセスのチップを実用化できる見通しだとしている。
IBMの今回の発表は半導体チップの微細化を支えた「ムーアの法則」がさらに継続していく可能性を示した。半導体の能力向上を語る上で欠かせないのが「ムーアの法則」だ。「ムーアの法則」はインテルの共同創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が1965年に発表した半導体技術の進歩についての経験則で、半導体回路の集積密度は1年半~2年で2倍となるというものだ。
2ナノプロセスで製造した半導体チップは、指の爪ほどの大きさのチップに500億個のトランジスタを搭載できるとしており、7ナノプロセスの200億個ほど、5ナノプロセスでは300億個で、世代が進むごとにトランジスタの密度を約1.5倍高めることができており、ムーアの法則がまだ生き続ける可能性を世に知らしめた。
半導体製造技術の進化は、人工知能(AI)技術の進化からデータセンターの省電力化まで、その波及効果は大きい。IBMは現在、量子コンピューターの実用化に向けた研究開発を進めているが、今回の2ナノプロセスによって、実用化がさらに近づいていることを明らかにしただろう。半導体の技術進化は遠い未来をぐっと近くに引き寄せつつある。
石原順の注目5銘柄
(※)TSMCのホームページの投資家向け情報の「第2四半期決算資料」
https://investor.tsmc.com/japanese/encrypt/files/encrypt_file/reports/2021-07/47901de3b41481cfca3b9ce066c6b648ba751188/2Q21Presentation%28E%29.pdf