中国株が上昇した背景

5月下旬の中国株ですが、大幅上昇となりました。5月14日終値から5月末終値までの騰落率は、上海総合指数が+3.6%、香港ハンセン指数も+4.0%となっています。上海総合指数も香港ハンセン指数も5月25日に大きく上昇しています。

大きく上昇した理由はいくつかあります。まずは米国株や世界の株式市場が金融緩和や財政政策拡大を背景に上昇している中で、中国株に割安感が出たことが大きな要因としてあります。

その中で、中国の劉鶴副首相が米USTRのキャサリン・タイ代表と米中間の貿易問題について協議しました。中国商務省は「公平性と互いへの尊重に基づき、双方は率直で実用的かつ建設的な意見交換を行った」と短い声明を発表し、両政府当局者が話し合いを続けていくことにも同意したと述べていますが、これが米中の対立懸念への後退につながり、株価に影響した可能性があります。

その他、中国当局が資源価格や民生商品、公共の価格統制に乗り出すことを示唆していることがインフレ懸念の後退につながったことも要因の1つです。

中国の4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.9%増(市場予想1.0%増、前月実績0.4%増)と低い水準で留まっていますが、卸売物価指数は6.8%増(市場予想6.5%増、前月実績4.4%増)まで高まっています。また、米国の4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.2%増となっています。

これらのことが世界的なインフレや今後の中国のインフレ懸念へとつながり、それは同時に金融引き締めへの懸念へとつながっていたわけです。

しかし、中国当局が消費者物価指数の上昇につながる商品価格の抑制へ動き始めたことは株式市場にとってプラスとなりました。なお、中国当局は主要国の中では珍しく、コロナ抑制後の金融引き締めをすでに示唆しており、これが株価の重しとなっていました。

ITハイテク銘柄が大きく反発

5月下旬の株価の動きでもう1つ言えることはITハイテク株の株価が反転していることです。5月14日終値から5月末終値までの主要銘柄の騰落率はテンセント(00700)が+6.2%、アリババ・グループ・ホールディング(09988)が+3.1%、美団(03690)が+20.5%、小米(01810)が+13.2%となっています。

ITハイテク株が好調な大きな理由の1つは米国でナスダック総合指数やグロース株が上昇してきていることがあります。

中国のIT企業は中国当局の管理強化懸念で株価が軟調でしたが、米国のITハイテク企業と比較すると割安感が出ていたところ、罰金などの罰則が与えられ、一通りの管理強化の流れは一旦落ち着いた印象があります。

なお、全般的に言って、ITハイテク企業が現在発表している2021年1-3月期の業績はやや予想を下回るものとなっています。しかし、これは長期的に見るとプラスな要因となりえます。

例えば、テンセント(00700)の2021年1-3月期の業績は売上が25%増の1,353億元、本業の実質的な儲けを示す調整後純利益が前年同期比+22%の331億元となりましたが、利益は市場予想平均の358億元を7%超下回りました。

しかし、今回の決算で重要なのは予想を下回ったことではなく、2021年の方針として投資優先を表明し、当面の利益を犠牲にして成長期待のある分野の事業基盤を強化していく方針を示唆したことです。

テンセントはグローバルDX(デジタル・トランスフォーメーション)の初期段階に立っているとして、今後の大きな事業機会を捉えるための投資を強化しています。

これはテンセントだけでなく、そのほかのIT企業にもみられる傾向です。中国全体の大手インターネット企業全体が、経済のDX化を見据えて一大投資フェーズに入っており、新規事業拡大への先行投資費用で利益が圧迫されている面があります。

各社はここで思い切ってお金を投じて投資しないと、将来の大きな果実を取り損ねる恐れがあると考えている様子です。

もちろんこれは足元の業績は悪化することにつながりますので、目先の株価にはマイナス材料です。しかし、中長期で考えれば、その潜在的成長は大きく膨らむことになります。

以上を考えると中国のITハイテク企業の中長期見通しは引き続き有望であり、一時的な業績悪化で株価を調整したところはチャンスと見ることもできると思います。