>> >>特別インタビュー【3】注目すべき経済指標、個別株投資のポイント、投資初心者必見の書籍は?

注目される銅市場

岡元:御社のウェブサイトである記事を見つけました。銅は新しい世代、つまり次の金属のスーパーサイクルであるという内容の記事ですが、その背後にある考えや、恩恵を受けることができる個別株についてお聞かせいただけますか。

ハリス:銅と言えば「ドクター・カッパー(Copper=銅)」という異名があります。なぜなら銅は経済活動を予想すると言われているからです。銅はパイプやワイヤーなど、あらゆる製品に用いられているので、銅の需要と経済活動には高い相関関係があります。そこに投資支出とインフレ率を加味しても、金属は通常その価値を維持するのでインフレに対する良いヘッジになります。

コロナ禍はいずれ収束し、経済は自然と反発することになるでしょう。その中で、EV(電気自動車)の需要も加わります。銅は電気モーターの重要な構成要素であり、世界的に銅の需要が高まっています。

いくつかの大きな銅鉱山会社に投資をすることで、銅の価格に最もレバレッジをかけた投資をすることができるでしょう。銅そのものに投資をしたければ、コモディティ取引が可能です。また銅鉱業の銘柄を買っても恩恵を受けることができると思います。

別の投資先としてマイニングETFがあります。銅鉱山会社の株式を保有していて、鉱山で事故が起きた場合、債務を負うことになり、分散化が出来ません。マイニングETFであれば、銅のエクスポージャーを獲得することができます。

岡元:長期的にマイニング・スーパーサイクルが続くと予想されていますか。

ハリス:私たちは20年間の支出サイクルの入口に立っているにすぎません。世界の自動車の台数について考えてみると、かなりの数に上ります。米国だけで2.5億、世界では10億台をはるかに超えて13億台ほどだと思います。毎年、多くの電気自動車が販売され、新車販売台数も成長していますが、すべてがEVに置き換わるわけではありません。

まだ多くのエンジン車があり、それらを代替するのに長い時間がかかります。フォルクスワーゲンでさえ、2030年までに新車販売の50%をEVとするとしていますが、まだ多くのエンジン車が路上を走っています。この変革は、おそらく今後20年間かけて起きるでしょう。自動車インフラ全体、トラック輸送インフラの変化や、電力変更に伴う電力網全体への再投資など、大きな投資が必要になるでしょう。

また、高速インターネット網が構築されてきています。すべての通信会社が何年にもわたり投資してきました。今後より多くのインフラ投資が行われると思いますが、一晩で完了するわけではありません。整備には何年もかかるでしょうし、それは気候変動の1つの要素になるでしょう。

気候変動は皮肉ながら、投資機会となります。打破するには多額のコストがかかるでしょうし、支出される側に立ちたいと思うでしょう。あなたが投資家なら、誰がそのコストを負担するのかを気にする必要があります。それは正味コストです。気候変動と闘うにはコストがかかりますが、それにより有利なポジションに立つ企業もあるのです。

バイデン政権下で株式市場はどうなる?

岡元:米国ではバイデン大統領が就任しました。過去4年間に比べて、今後4年間の株式市場はどうなると思いますか。

ハリス:率直に言って、直近10年または12年間は、過去最速の調整が起こった2020年3月の3週間を除いて、投資しやすかったと思います。現在、私たちは前例のない絶壁にいます。コロナ禍からの回復に伴う需要により、高いペースの経済成長率に向かっている最中です。欧州も行動制限の解除後は過去数年間で最も高い成長率に達するでしょう。

米国は多額の財政刺激策による押し上げ効果で今後数年間は高い成長率を達成するでしょう。その予想すら上回り、1950年代初頭以来の高い成長率となるかもしれません。米国で市場がどの程度織り込んでいるのかが重要な問いです。バリュエーションは割高で一時調整するかもしれません。一部のセクターのリターンは良好となるでしょう。テクノロジー企業は、バリュエーションのアップサイドがどれくらいあるのか。それらは非常に大きなインデックス構成比率を持っています。2021年と2022年の米国の経済見通しは良好だと考えています。

新型コロナワクチンの接種拡大についても楽観的です。2021年の秋にコロナの大きな波はないだろうと思っています。ただ大きな注意点があります。変異種に対してワクチンが効かない場合、私たちは新しいワクチンを短期間で製造して展開できるでしょうか。このシナリオが現実にならなければ、経済見通しは良好で、株式市場で大きな調整は起こらないでしょう。

景気刺激策が終了した時、金利がどうなるか、そこに大きなオーバーハングがあるか、というリスクは引き続き警戒されるでしょう。株式には常にリスクがあります。私がこのビジネスを始めた時点では私の白髪が今日よりもはるかに少なかったのはこのためです(笑)。常にマーケットでは調整のリスクがあります。

相場が弱気に転じる可能性

岡元:株価が大きく下落しはじめるとすれば、2021年ではなく、おそらく2022年または2023年になると思われますか。

ハリス:繰り返しですが、株式には常に調整のリスクがあります。株式投資家であれば、株価調整を受け入れなければなりません。避けたいのは、長期間の弱気相場です。それは不況にならなければ通常起こりませんが。

おそらく2022年は不況にならないでしょう。早ければ2023年、バイデン大統領の法案が通らない、または法人税率が引き上げられた場合、市場は売りに転じ、調整が起こりうるでしょう。S&P500の10%程度の調整はいつでも起こり得ます。

非常に強い経済と良好な収益成長があり、経済の可視性が2022年まで続くなら、20~30%下落するような弱気相場にはならないでしょう。ただ2022年に景気刺激策が終了し、中間選挙があり、議会で財政が膠着状態になってしまったら、2022年に停滞する可能性も出てくるでしょう。

長期的な米国株式市場の見通し

岡元:さて、最後に、長期的なコンセンサスの見方として、米国では日本よりも有利なマクロ経済見通し、例えば、人口の増加や、日本と比べて高いGDP成長率が見られます。米国の長期的な株式市場の見通しに対する考えをお聞かせください。

ハリス:米国は依然として起業家精神に溢れており、多くの資本形成が起きています。ベンチャーキャピタル業界は健在で、常に企業に出資されています。そして企業はリターンの形成に注力しています。これらの条件はすべて、市場が求めるものであり、その対価として、ビジネスが成功すれば高いバリュエーションが付与されます。

世界で最も成長スピードが速い企業は米国にあります。長期的な見通しでは、米国企業は良好でしょう。テクノロジーセクターは引き続き支配的なマーケットシェアを保持するでしょう。ただアジアにも優れたテクノロジー企業がありますので、独占的にはならないでしょう。

テクノロジーに関して言うと欧州は出遅れています。欧州の強みは気候変動に対応している製造業です。米国で急速に成長しているセクターはITのほかに、ヘルスケアがあります。病気の治療を助けるゲノミクス革命が起きつつあります。新型コロナワクチン開発のためのmRNA技術の奇跡を見てください。かつてこんなに速くワクチンを開発できたことはありませんでした。

今後数年間で医療では何が起こるでしょうか。これまで存在しなかったような、例えば血液検査で癌を検出するようなテクノロジーは注目に値するでしょう。このように新種のビジネスでは、他の国で追随する企業が出てきても、米国が世界を先導するでしょう。米国にとって長期的に希望が持てる点は成長機会がある領域に、常に再投資されていることです。

世界全体が人口変動の課題を抱えています。日本、韓国は高齢化問題に直面しており、米国もこれまでのように人口増加が見込まれていません。したがって、米国でも景気刺激策が終了した後のGDP成長率は、減速するでしょう。

とは言え、そういった中でも斬新で革新的な企業が出てきて、経済成長率を上回る収益成長を達成するでしょう。そして、今後も「イノベーション」がキーワードであり続けるでしょう。テクノロジーがより多くのテクノロジーを生む循環が続くと思います。新しいビジネスやサービスのテクノロジーが、さらに多くのテクノロジーを生み出し、そして加速していくでしょう。

需要が満たされていない最大の領域は、気候変動の分野だと考えます。ヘルスケアもそれに該当すると考えます。これらの分野は今後起こる大きな変化の先端にいます。

岡元:米国株式市場に投資し続けることは、日本の投資家にとって悪いアイデアではなさそうですね。

ハリス:そうですね。円安の恩恵もありますし、米国市場は長期投資家に適した市場です。

岡元:アドバイスをたくさんいただき、ありがとうございました。

ハリス:ご参考になれば幸いです。インタビューにお招きいただき、ありがとうございました。

本インタビューは2021年4月22日に実施しました。