>> >>特別インタビュー【2】ESG投資はパフォーマンスも期待できる?注目のESG銘柄は?

注目すべき経済指標は?

岡元:ハリスさんが最も注目する経済指標を教えてださい。

ハリス:私は債券市場に埋め込まれた情報を注視しています。債券投資家は、株式市場に投資する株式投資家とは少し異なります。株式投資家は少し高揚する傾向がありますが、債券投資家は、より純粋に数字で動く傾向があります。

私はイールドカーブ(利回り曲線)とその形状を見るのが好きで、物価連動債も参考にしています。それが実質金利にとって何を意味するのか、それが短・長期のインフレに何を意味するのか。債券市場には非常に示唆に富んだコンテンツが多くあると思います。

また、フォワードカーブを見るのも好きです。原油価格が$60台に達すると、多くの人々がスポットレートを見るでしょう。2年先の先物を見ると、その価格はコロナ以前と変わりません。原油価格は大きく上昇しましたが、それは非常に短期的なラリーであることを意味するだけです。したがって、石油株に投資する場合、先物市場で何が何倍になるかを検討しても、実際には持続可能ではないのです。今後10年間の原油価格の高さというのも、非常に短い範囲内です。ですから、私は先物とフォワードカーブを実際に見ることが非常に重要だと考えています。

米国で、多くの投資家が最も重要なデータとして挙げているのが、(米国雇用統計の)非農業部門雇用者数です。通常、雇用統計は非常に重要です。しかし、依然としてコロナ禍の影響から13ヶ月間にわたって歪みがあります。平時に戻ってもしばらくはその歪みが残り続けることでしょう。

この点は重要です。短期で変動するでしょうから、いつ影響が限定的になるかを知る必要があります。そのため、雇用統計の内容は信頼性が低いと考えています。私は、将来の成長率に関しては債券市場が語ることに、より多くの信頼を置いています。

インフレにおける投資の考え方

岡元:株を買い持ちしかできないような場合に、どのようにリスクを管理しますか。

ハリス:まず、リスクに対する考え方によって異なります。リスクはインフレが起きている状況で、購買力を失うことです。実質購買力ではなく名目購買力が低下している場合は、お金を失うということにはなりません。米国では実質購買力が重視されていますが、実際に株を買い持ちしている際、景気が後退し金利が上昇している局面においても、価格決定力があるかどうかを確認することがリスクを考える上で重要です。では、何によって株価が下がるのでしょうか。それは景気後退であると考えられます。

企業収益が悪化し、その後、景気後退期に投資家がナーバスになり、PERが低下する複合効果があります。ですので、比較的抵抗力のあるビジネスは何かを考え、質の高いキャッシュフローを探します。投資サイクルを通じて、収益をあげられる企業はどこかも考えます。そしていくつかの過剰反応が見られる場合は、リターンを滑らかにするための投資機会だと捉えるようクライアントにお勧めしています。

心理的にベストなのは、直近3年または四半期のリターンを見ることです。最悪なのは、毎日自分の退職年金口座残高を見ることです。そうすることで、様々な変動局面で誤った行動をとるかもしれないからです。

実際には、長期間、またインフレの中で大きなリターンを獲得するために適切な株式を持ちたい場合、下降相場で短期的にできることはほとんどありません。

株式売却の判断基準は?

岡元:どのように株式売却の決定を下すのですか。

ハリス:私の義理の弟が株を買うときは、最後の買い場、つまり売り時だと思います。それは冗談ですが(笑)。真面目に申し上げると、完璧なガイドはありません。しかし、バリュエーションについて規律を守ることが重要で、保有していない株式を「今日」買うのか、常に自分自身に問いかける必要があります。

避けるべきことは、株に惚れ込んでしまうこと、トレーディングし過ぎないことです。そして、目標株価に達したら再評価し、自動的に売却しないことです。株の再評価プロセスについて、現状以上の株価が正当化できないとき、私たちはその株式を売却します。それが規律を持つということです。

投資している企業で私たちの見通しを変えるような何かが根本的に変わったら、客観的に自身に問いかける必要があります。しかし、これには注意を要します。株価が大きく動いたからといって売却する必要はありません。20年前にアップル株を購入した哀れな投資家が50%上昇して売却すれば、1日か1週間は気分良くいられたでしょうが、長期保有していれば得られたであろうリターンを逃してしまっていました。アップル、アマゾンやフェイスブック、グーグル(アルファベット)等についても同様です。

もし一握りの優れた強い成長企業の株式を保有している場合、景気循環サイクルに左右される企業と比べて本当に強い成長ビジネスであるかどうか、バリュエーションが魅力的でも長期間に見ると成長率が限定的ではないか、と疑ってみることが重要です。

投資初心者向けお勧めの書籍

岡元:投資初心者向けに、株式投資の基礎が学べる本をご紹介いただけますか。

ハリス:たくさんの良い本があります。私が大ファンであるマイケル・ルイス氏の著書です。彼はウォール街に関連する多くの本を書いています。

マイケル・ルイス氏以外では、経済コンサルタントのピーター・バーンスタイン氏の本がお勧めです。彼に何度もお会いできたことを光栄に思っています。彼は90歳まで働き、何年も前に「証券投資の思想革命:ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち」(Capital Ideas: The Improbable Origins of Modern Wall Street)という本を書きました。彼はウォール街の歴史とともに、20世紀に入った1900年代に、様々な概念をどのように分析したら良いのかを説き、投資の偉大な土台となるものを形成したと言えるでしょう。

そして2作目の「リスク 神々への反逆」(Against the Gods: The Remarkable Story of Risk)では全てリスクに関すること、リスクを理解し、リスクがポートフォリオに存在することについて説きました。私は本書で書かれている以上に優れた見方は考えつきません。

投資に興味がある方にとって、この本は個別株式のヒントをくれるものではなく、各時代における投資理論を理解するための基礎となるでしょう。背後の歴史を理解することは非常に重要であり、バーンスタイン氏は偉大な作家で、彼の著書は最高だと思います。最近ありがちな消費期限の短い本ではなく、長い歴史的内容が書かれているので、本棚にずっと置いておきたい本ですね。

ドルコスト平均法ならではの利点

岡元:ご存知のように、株価の底がどこなのか誰にも分かりません。個人投資家はドルコスト平均法がベストという考え方について、どのようにお考えですか。

ハリス:私もドルコスト平均法は好きです。これが非常に重要だと思うのは、私たちが皆、個人として持っている行動決定における欠点のいくつかを取り除けるということです。人間は間違いを犯します。私たちは間違った行動を繰り返し、株価の底であまりにも悲観的になり、天井では楽観的になり過ぎます。ドルコスト平均法は意思決定から感情を取り除くことができます。それは投資において、とても重要なことです。

岡元:個人投資家がドルコスト平均法を行うには、どれぐらいの期間が理想的ですか。

ハリス:数年にわたって投資を継続する場合は、毎月または四半期ごとに少しずつ投資していくと良いでしょう。年金プランを継続するのに便利なツールとして構築されています。

ドルコスト平均法の恩恵について考えてみると、コロナショックが起こった2020年の2月、3月、4月は相場としては厳しく、「もうだめだ。10年不況になる。私は買いたくない」といった気持ちになった方も多かったと思います。しかし、そんな時でも、投資を自動的に継続していれば当時2,200ptまで下落したS&P500も、現在は4,000ptに向かっています。規律の利点をわかっていても、なかなか実行するのは難しいものです。そこにドルコスト平均法の利点があります。

個別株投資のポイント

岡元:市場投資全体についてお話いただいていますが、個別株はどうでしょうか。

素晴らしいアイデアを持っていると思う企業に投資をしたいが、株価の底がどこにあるのか分からない。そのような場合、ポジションを構築するのに、どのくらいの投資期間を費やしたらよいでしょうか。

ハリス:個別株については、多くの場合、株価を大きく動かす材料があります。それはまさに先ほど(こちらをご覧ください)お話したように、企業の四半期決算発表です。

株式の購入を考えている場合は、決算発表前であれば全額投資せずに資金の50%、または2/3の金額を投資し、発表後に残りの資金で買うことを検討してみてください。これもドルコスト平均法と同様の考え方です。

しかし、本当に素晴らしい企業であると確信しているのであれば時間を分ける必要はないでしょう。ただ私のアドバイスを鵜吞みにしないでください。小型株は決算の前と後で分けて買うのが良いかもしれません。なぜなら、小型株は決算発表後に株価が10~15%下落することがあるからです。「損してしまった、嫌な気持ちになったから、株を売却する」。これはやってはいけないことです。むしろその時こそが買い時なのです。

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本インタビューは2021年4月22日に実施しました。