テスラの目標株価算出について
岡元:私の記憶が正しければ、キャシーさんはテスラ(TSLA)について2018年2月に業績予想を出されていましたが、大正解でしたね。1年前に、2024年にテスラの株価は、(分割後)1,500ドルとなると予想していました。これが、基本的なシナリオで、ブルケースシナリオは3,000ドルでした。しかし現在、3,000ドルの目標株価は、ブルケースシナリオではなく、ベースケースシナリオになっている感じでしょうか?もしそうであれば、その理由を教えてください。
キャシー氏、以下キャシー:ハッチさん、あなたがまるで私たちのリサーチ会議の場にいたように感じます。私たちは、1月11日週にリサーチ会議を行ったばかりで、Ark Investのアナリストのターシャ・キーニがテスラの株価予想モデルの最終調整をしていました。
テスラの配車サービスや、自動運転車の所有者やライドヘイル車の所有者に提供できる低コストの自動車保険、これは非常に収益性の高いものですが、こういったものを分析に含めています。今はその内容をお伝えすることはできませんが、私たちは、数週間以内にテスラの新しい目標株価を発表する予定です。
岡元:明確な数字をこの場でお話いただくことはできないということですが、テスラは今から約10年後の2030年にどのような姿になっていると思いますか?
キャシー:私たちは、テスラは世界最大級のタクシープラットフォームの一つになると信じています。テスラは、米国の主要な自動運転タクシー会社になれると信じています。私たちは、世界全体で自動運転の市場は、約10兆ドル程度になると考えていますので、テスラの時価総額をより大きなものにすると思います。
ですから、テスラにとってとても大きなチャンスだと思います。そして、もし自動運転が成功してテスラの評価額が大幅に上昇するとしたら、それは自動運転の粗利益率が高い為です。電気自動車のグロスマージンは25〜30%くらいだと思います。テスラはそれを40%に押し上げることができるかもしれませんが、私たちは念のため25〜30%と想定しています。
ただし、自動運転といっても、「サービスとしての輸送(TaaS)」であり、そのモデルは「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」のようなものです。これは、80〜90%のグロスマージンが得られる構造になりえます。したがって、テスラ全体としてのグロスマージンは、おそらく60%台半ばから後半になるでしょう。
テスラの価格モデルにそのような混合グロスマージン構造を設定しているアナリストは他にいないと思います。なぜかというと、彼らは自動運転としての価値を考えているのではなく、今そこにある電気自動車としての価値しか見えないからです。
テスラへの投資戦略、こう考える
岡元:2020年、テスラの株価は大きく上昇し皆を驚かせました。しかし、キャシーさんはまだ大きなアップサイドがあると信じていますね。2020年の驚異的なパフォーマンスを考えれば、一般の個人投資家が投資に慎重になるのは当然のことだと思うのですが、個人投資家は、急騰したテスラ株を今年はどうするべきなのでしょうか。今後生じうる混乱は無視して2024年、更にはその先まで株を保有すべきでしょうか。
キャシー:私が個人投資家であれば、私の戦略は「しっかり保有し続けること」だと思います。もちろん税金やその他考慮しなければならないこともありますが、個人的には継続保有です。しかし、ファンドとしての私たちの投資行動は別です。ポートフォリオを見ていただくと分かると思いますが、私たちはテスラ株を売却してきました。その理由は他のアナリストがどんどん目標株価を上げてきているからです。
ある証券会社が1月18日週にテスラの目標株価を1,400ドルと掲げました。それは、別の証券会社がこれまでつけていた目標株価の1,000ドルを大きく上回るものでした。つまりこれは、私たちは電気自動車の機会・将来性が多くの人に理解されたことを意味すると判断しています。
ただ、今後その彼らの掲げた目標株価に近づくにつれ、彼らは自動運転の将来性を信じていないので、おそらくテスラの評価を下げ、株価に修正が起こるだろうと考えています。もしかすると自動運転の戦略絡みで株価の大きな修正が起きるかもしれません。私たちは、これまでの株価上昇の局面で株を売却したのですが、株価が下がる局面ではポジションを増やしていくでしょう。なぜなら、自動運転は最大の投資機会の一つであると考えているからです。
真の企業価値を見出す方法とは
旧来の業界に存在しない企業を調査する方法
岡元:ウォール街のアナリストの多くは、キャシーさんのテスラの分析よりもテスラを低く評価していますね。その理由は、テスラ株をカバーしているこれらのアナリストは元来は自動車業界のアナリストであり、自動車アナリストの視点からしか会社を見ていないからだとも言われています。
なぜ、テスラをカバーしているほとんどのアナリストは、あなたが見ているような真の企業価値を見出せないのだと思いますか?
キャシー:そうですね。自動車アナリストは非常に成熟した業界を担当しています。実際、ガスエンジン業界は衰退していく業界で、彼らはバリュー的に株価の分析をする傾向があります。PBRや配当利回り、あるいは事業ごとの価値の総和(SOTP分析)で株価を判断しようとするのです。
例えば、最近GMのクルーズ・オートメーションの価値を300億ドルと評価をしたアナリストがいました。GMは800億ドルの評価額で、現在GMはそれぞれの部門の評価の総和を反映するような形で株価の評価がされているのですが、同じ手法でテスラの様な企業の価値を算定するのはとても難しいのです。
なぜならテスラは旧来の業界には存在しないからです。そのため伝統的な自動車アナリストたちは、テスラをどう評価すれば良いかわからないのです。彼らはソフトウェアアナリストでもなく、ロボティックスアナリストでもなく、エネルギー貯蔵アナリストでもなく、人工知能アナリストでもありません。
私たちはそれを、4つの異なる領域の専門知識のモデルに落とし込んでいます。1つの銘柄に、4つの領域の専門知識を持った3人のアナリストがついています。自動車アナリストがテスラを理解するのが難しいのは分かります。テスラは単なる自動車株ではありません。それが最大の問題だと思います。
岡元:キャシーさんは、企業や業界の分析をする際に、大多数のアナリストが理解していないことを見抜かれています。他のアナリストと人とは違う分析ができるのは何故だと思いますか?
独自の調査手法
キャシー:理由は2つあります。1つ目は、私たちの調査の取り組みの方法です。これは他の調査組織や金融サービス業とは特に異なるやり方をとっています。従来の世界では、セクターごと、サブセクターごと、サブ・サブセクターごとに責任が切り離されていました。極めてサイロ化されており、専門化されています。それは今日のイノベーションを分析するための正しい方法ではないと考えています。
私たちは、アナリストは全員がテクノロジーに慣れていなければならないと考えています。ですから、彼らは全員が技術アナリストでなければならないし、同時にジェネラリストでなければならない。
そこで私たちは、アナリストが責任を分担できるように「イノベーション・プラットフォーム」に分割しました。つまり、イノベーション・プラットフォームのエキスパートは、セクター別に見るジェネラリストということになります。そう、これは現実の世界、あるいは伝統的な世界とは全く違うやり方です。
イノベーションの収束が次から次へと起きている時代においては今までのやり方の分析では、非常に困難になっていくことでしょう。先ほどテスラの例で説明しましたが、テスラの分析は3つのプラットフォームの融合からなっています。
自動運転配車ネットワークはロボット工学、これまでになく費用対効果の高い電気自動車はエネルギー貯蔵、そしてこれらの自動車の動力源となっている人工知能の3領域です。
当社のアナリスト3人が1つの企業について協働しているのは、それぞれの専門領域を融合させるためなのです。従来の調査部門で私たちが目にしてきたものは、ある銘柄をカバーしたいアナリストと別のアナリストとの綱引きです。アマゾンを思い出します。
テクノロジーアナリストはアマゾン株の調査をしたいと言っていましたが、小売アナリストは「ノー」と言いました。ところがアマゾンはAWSのおかげで、テクノロジー企業としての評価が高まったのですから、本当ならば小売とテクノロジーのアナリスト両方でリサーチをするべきだったのです。
このように私たちは、従来のリサーチ組織にはなかったような形で、アナリスト同士のコラボレーションを可能にし、また奨励するように組織されています。
ベンチマークを利用しない銘柄選定
第2の利点は、ベンチマークを使って銘柄を選別していないことです。私たちは、まずは白紙の状態から、例えば電池技術に関して言うと、自動車や携帯電話の分野ではどのような電池があり、誰がどのような電池を使って何をしているのか、ということからリサーチを始めます。
そして、彼らが何をしているのか、どれくらいの速さでコストが下がるのか、他と比較しながら分析します。そういうわけで、テスラがすでにバッテリー技術を進歩させ、バッテリーコストを劇的に削減していた家電業界のコストカーブに乗ることを決めていたことを最初からわかっていたのです。
どのようなバッテリー技術を使用しているのかという点ですが、リチウムイオンを使用した他の自動車メーカーのコストは家電業界よりもずっと高いのです。このことにより、テスラが正しいバッテリーを選択していたことが非常に早い段階で明らかになりました。
テスラ以外の注目銘柄
ゲノム領域
岡元:キャシーさんが、テスラと同じぐらい、もしくは、テスラ以上に気に入っている会社があれば教えてください。
キャシー:テスラはまだ当社の主力戦略の中で最大のポジションを占めていますので、質問の答えの1つになっていますね。現在ポートフォリオの中で、大きな上昇余地があると考えている銘柄としては、ゲノム分子診断のインビテ(NVTA)があります。インビテは、他のどの診断会社よりも積極的にDNA配列決定と人工知能の融合を大きく活用しています。
中国にどんな会社があるかわからないということを除いては、インビテは最も先を行っていて、おそらく世界最大の分子診断企業の1つと言っていいでしょう。もしこれが人工知能ゲームだとすると、最も多くのデータと最高品質のデータを持っている会社が勝つことになるからです。
病気の治療・解決しようとしている多くの機関と協力して、インビテが収集したすべてのゲノムプロファイルの量は膨大なものです。例えばてんかんは大きなものです。インビテは、データと病識を共有するために、そのような組織のすべてと契約しているので、世界の他のどの組織よりも多くのデータを持っていると思います。
また世界で最も重要な研究病院のいくつかと連携して、研究と科学を前進させるために無料でゲノムの配列の解析をしています。つまりデータを得るために、多くのサービスを無償で提供しています。同社は世界で最も重要な診断会社の1つになると思っています。
デジタルウォレット
同じように、デジタルウォレットの分野では、スクエア(SQ)がより早く進化していますね。Wechat、Wechat Pay、Alipayなどのアジアのサービスから多くを学び、非常に高度なマーケティング戦略で急速に成長しています。ゲーム業界に非常に関与しており、その広告は2週間に1回、仮想通貨コミュニティ向けにCashApp Fridayというキャンペーンでビットコインをプレゼントするなど行っています。
ここはペイパル・ホールディングス(PYPL)等の大手が進出できていない領域です。こういった分野は、伝統的なビジネスの世界よりもはるかに早い速度で成長していくと考えています。サービスを提供する商品に対する戦略とCashApp戦略の中で、二面性のあるマーケットプレイスとなります。その中のプレイヤーが伝統的な金融機関を利用する必要がなく、囲い込み型のエコシステムになり始めると考えています。このような企業は、先ほど申し上げたように、伝統的な銀行を競争上の不利な立場に追いやっていくと考えています。
10年後、ビットコインが経済に果たす役割とは
岡元:キャシーさんはビットコインにも非常に強気ですね。10年後ビットコインが私たちの経済に果たす役割をどのように考えていますか?
キャシー:地球上で最初の、世界のデジタル通貨システムの基軸通貨になると思います。多くの人が、現状ではこれは不可能だと考えています。なぜなら、政府がそれを取り締まりに来ると考えているからです。実際彼らは仮想通貨のリブラを事実上シャットダウンしました。
しかしビットコインがそうはならない理由ですが、リブラには取り締まるべき主体がありました。つまりフェイスブック(FB)です。ですが、ビットコインでは取り締まろうとしても取り締まるべき実体がありません。ですので、ビットコインは世界的なデジタル通貨になり、デジタルな世界で最も重要な価値の保存手段になるのではないかと考えています。
また、非常に裕福な人々のためのヘッジ、富の搾取に対するヘッジになると考えています。これには2つのケースがあります。1つはインフレです。インフレが問題になるとは考えていませんが、金融政策が不安定になると見方を変えた場合、インフレとなり、インフレは富の搾取へと変わります。ビットコインはそのヘッジとなります。
そして、もう1つが実際の弾圧、中東で起きたように、富の没収が行われる場合です。皇太子が自分のいとこの富を奪ったように。ますます多くの富裕層が想像しえないことを考えるようになるでしょう。そして、ヘッジが必要だと言うでしょう。これもビットコインの非常に大きな利用の例になると考えています。
岡元:キャシーさん、再度、マネックス証券とお客様を代表して、お忙しい中、このようなインタビューの時間をいただき、また、お知恵をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。私たちスタッフ一同、あなたとArk Investの今後のご活躍をお祈りしております。
私たちは、将来的にまたお会いできることをとても楽しみにしています。