米株市場の調整のきっかけとなったゲームストップ株とは?

史上最高値を更新し続けた米国の株式市場の調整は、誰も予想もしなかったゲームストップ(GME)を巡る、個人投資家と空売りを行ったヘッジファンドとの戦いがきっかけで始まりました。

2020年末に$18.84だったゲームストップの株価は、2021年1月末には$325で引け、1ヶ月で約17倍も暴騰したことになります。

ゲームストップとは、米国のビデオゲームの小売りチェーンで、今更あまり儲かりそうもないビジネスを行っている会社です。売上こそ直近で65億ドル(約6760億円)もあるものの、営業利益は約4億ドル(約416億円)の赤字となっています。そのような企業が今、なぜ注目を浴びているのでしょうか。

ゲームストップ株を巡る「ヘッジファンドvsミレニアル世代」の戦い

米国には機関投資家やヘッジファンドに下落しそうな銘柄の空売り情報を提供している調査会社がいれば、実際に空売りを専門にしているようなファンドも多くあります。

米国の掲示板型ウェブサイト「レディット」内に会員数640万人を超える「ウォール・ストリート・ベッツ(WSB)」という投資情報を公開しているSNSフォーラムがあります。その中で、「ゲームストップのように空売り比率が浮動株の100%に近い銘柄を買い上げると面白いぞ」といった情報が投稿されました。その情報に基づいて多くの個人投資家が一斉にゲームストップ株や、ゲームストップ株のコールオプションを買う状況になったのです。

そして、空売りをしたプロのヘッジファンドとミレニアル世代を代表する個人投資家との戦いが始まったのです。ミレニアル世代に人気のロビンフッド(投資アプリを提供する米国のネット証券会社)も、このミレニアル世代とヘッジファンドの戦いに利便性を提供したことになります。

この動きは、より多くの個人投資家の参戦を招き、空売りしていた機関投資家がショートスクイーズ(踏み上げ)で我慢できなくなる事態を生みました。反対売買に転じたファンドもあれば、一部は、空売りを追加するファンドも出てきました。

彼らの大きな間違いは、個人投資家のパワーを甘く見ていたことでしょう。株価は上がり続けたため、空売りを増すという作戦は見事に失敗となります。このような状況はメディアで報道され、「我も、我も!」と新たな個人投資家が参戦することになり、株価は暴騰を続けたのです。その暴騰は、新たな買いを誘い、1月26日のゲームストップ株の売買代金は約2兆円となり、世界最大の時価総額を誇るアップルの売買代金を超えてしまう事態となりました。

株式市場の一部で、ファンダメンタルズを完全に無視したギャンブルの会場のようになってしまったのです。私の知り合いのニューヨーク州に住む米国人の友人の息子さん(大学生)も「ゲームストップの戦い」に参戦し、学生にとってはかなりの利益を上げたようです。

これまでのところ、空売りファンドと個人投資家の戦いは、個人投資家に軍配があがりましたが、このような状況が先週の株式市場の調整に一役を買ったと考えています。

不確実性の懸念から投資家のセンチメントは「リスクオフ」に

流動性もあり、ディープポケットの米国株市場ですから、ある意味何が起きても驚かないのですが、今回問題となったのは、空売りを仕掛けていたヘッジファンドが追証を迫られる事態となったことです。ヘッジファンドの取引の執行・決済、資金管理等サービスを行っているプライムブローカーは、レバレッジをかけたファンドが取引のポジションを保有し続ける為に必要な最低金額の引き上げを行いました。マージン・コールと呼ばれるものです。

今回のゲームストップ株の空売りで失敗したヘッジファンドは約200億ドル(約2兆円)もの損失を出したと言われています。それにより、市場には経営破綻するヘッジファンドも出たのではないかという噂も流れました。そのような事態によって、マーケットが嫌う不確実性が生み出され、市場には売りが出て、投資家のセンチメントは今までの「リスクオン」の展開から、「リスクオフ」へと変わっていったのです。

米国株の調整幅の目処は

私は年末年始のイベントで「1月後半から2月にかけて株価の調整があるだろう」とお話してきました。ただ、ゲームストップのショートスクイーズ(踏み上げ)がきっかけとなり、米国株市場全体の調整が始まるとは思いもよりませんでした。

S&P500は2020年10月から調整なしで上昇してきましたので、これからも引き続き史上最高値を更新する為には、株価の調整が起きることは健全であり必要でもあります。その調整は下がっても史上最高値から5~10%程度の調整だと考えています。1月26日に付けた史上最高値の3,870ポイントから、1月29日には3,714ポイントと既に4%の調整が起きています。

今週良いニュースが出ないとしても、ダウンサイドはあってもあと1~5%程、3,670~3,500ポイントのレンジへの下げだと考えられます。

大きく下落しないだろうと考えるのはFRB(米連邦準備制度理事会)による十分すぎる流動性の供給、潤沢な個人や機関投資家の待機資金の存在が理由です。バイデン米大統領の経済対策案も再浮上してくるでしょう。さらに、米国企業の2020年第4四半期の決算発表も、これまでのところの総じて言うと業績回復が行われていることが確認できる内容です。

個人投資家たちの次なる資金の向かう先は

このゲームストップ株の今の株価はバブル以外の何物でもないと私は考えています。バブルがはじけるのは時間の問題だと思われます。誰が最後にババをつかむか、それが分かるのも時間の問題でしょう。

また、ゲームストップ株の取引で利益を上げた個人投資家の資金が、次にどこへ向かうか、これも大変興味のあるところです。私はミレニアル世代に人気のあるGAFA系や、EV車系の銘柄、またビットコインのような暗号資産に資金が流れていくのではないかと考えています。