前回の記事では旧村上ファンド出身者が設立した投資ファンド「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」と「シティインデックスイレブンス」がどのような銘柄に投資しているのかをご案内いたしました。同記事の中で、エフィッシモは第一生命HD(8750)、東芝(6502)などかなりの大型銘柄に投資している一方、シティインデックスイレブンスは比較的小規模な企業への投資が多く、時価総額1000億円未満の銘柄が中心であることをお伝えしました。
アクティビストが企業に対して提案(エンゲージメント活動)することは、多くの株主にとって共通の利益になる場合が通常です。アクティビストの保有割合は小さくても、それに同意する他の株主が存在しうることで株主全体として企業を動かす圧力になり得ます。
しかしながら、日本ではまだアクティビストの存在感が小さく、ある程度の株数を持つことが必要と考えられているように思います。そのため、ある程度の株数を持ちやすい小規模な企業がポートフォリオの中心になるのでしょう。
旧村上ファンド系の2020年の投資成果は?
では、両ファンドの保有銘柄のパフォーマンスはどうだったのでしょうか。2020年は日経平均でいうと、2019年末に比べて16%程度上昇しています。前回の記事で示した両ファンドの保有銘柄を見ると、各銘柄の騰落率の単純平均では日経平均を下回る結果でした。エフィッシモは3%、シティインデックスは7%程度の上昇にとどまっています。
これは2020年のマーケットが比較的小規模な企業にとって相対的に逆風だったことも影響しているかと思います。しかし、安値からの上昇率を見ると日経平均が68%なのに対し、両ファンドとも74-75%の上昇となっており、特に下落していた時期からしっかりと回復している地力のある銘柄が多かったと評価できそうです。
一方、前回の記事で保有銘柄として両社合わせて35銘柄をご紹介しましたが、そのうちのニチイ学館、エクセルは公開買付や完全子会社化により上場廃止しており、島忠(8184)も上場廃止の見通しです。さらに日本アジアグループ(3751)も上場廃止を前提とした公開買付の対象になっており、この1年間だけで4銘柄が上場廃止の見通しとなっているのも興味深いところです。
エクセルの上場廃止はやや特殊で、シティインデックスが同社を完全子会社化し、同社の資産のうち事業部分を他社に売却したケースです。
公開買付価格が2倍に上昇したケースも
注目すべきは、その他の公開買付案件では、すべて当初の公開買付価格より高い金額に引き上げられていることです。通常、公開買付価格は第3者の意見も踏まえた上で、過去の値動きや事業の収益状況などを元に設定されます。そのため、公開買付価格が事後的に変更されることはあまり生じません。しかし、これだけ公開買付価格の引き上げが行われているということは元の公開買付価格が妥当だったのか疑問に思えます。
その中でも日本アジアグループ(3751)に対して現在行われている公開買付に注目です。こちらは経営陣による買収が行われましたが、当初の公開買付価格は600円でした。しかし、シティインデックスはこの価格に納得せず840円で公開買付を実施すると発表していました。そして、1月26日に当初600円だった公開買付価格が1,200円に引き上げられると発表されました。当初の公開買付価格が実に2倍になったのです。
アクティビストの声による変化
これはまさにアクティビストが声をあげることで、本来あるべき価格に引き上げられたと言えるでしょう。買付者側が納得しない限りこの価格の引き上げは行われ得ないので、本来あるべき(妥当として支払える)価格より元の買付価格が低すぎたのかもしれません。日本アジアグループの株価は2019年末に389円で、2020年末には776円になっていましたが、それよりさらに高い公開買付価格になったということです。
まとめると、アクティビストの投資成果はある程度マーケットに沿ったもので、このようなイベントの発生により、さらにアップサイドを得られていると言えそうです。他の企業に対しても表面化していないものを含め、様々なアプローチが行われていると思われます。2020年のマーケットは特殊だったと思いますが、その中でもこれだけイベントが起きていることを考えると、ある程度リターンを得られており、ゆえにこれだけ投資できる資金が集まっていると言えそうです。