この連載ではアクティビストの投資先が大きく株価を上げている例を多数ご紹介してきました。ただ、成功例を見るだけではなく、アクティビストの投資先の全体像を知りたいと思われる方も多いかと思います。そして、「その投資はうまくいっているのか」も気になるところでしょう。

そこで今回から次回にかけて、最近日本で活躍の目立つアクティビストがどのような企業に投資しているか、その投資で利益が出ているのかを確認していきたいと思います。

国内上場の法人の5%超の株式を保有する場合、その投資家は大量保有報告書を提出する必要があります。一定以上同じ資本の会社(親会社や兄弟会社)などの場合でも共同保有というかたちで届け出る必要があります。またその後、保有割合が1%以上増減した場合はその変更報告書を提出する必要があります。そのため、これらを見ていくと、様々な投資家がどこに投資しているかをある程度見ていくことができるのです。

旧村上ファンド系の投資先は?

まず、旧村上ファンド関係者の投資先を見てみましょう。日本におけるアクティビストの嚆矢とも言える村上ファンドですが、その関係者は引き続きアクティビストとして投資を続けています。その中でも旧村上ファンドの出身者が運営する「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」が有名です。エフィッシモは直近1年でも多数の銘柄に投資を行っています。

エフィッシモの投資先は以下の通りです。これらは過去1年間に大量保有報告書が提出された銘柄で直近提出分の保有比率と直近の時価総額から保有金額を出しています。大量保有報告書の提出に至らずに保有しているものや、1年以上前に提出されたものは含まれていません。(以降のリストも同様です)

【図表1】
出所:筆者作成

まず、目を引くのは時価総額1兆円を超える第一生命HD(8750)、東芝(6502)に1割近く投資していることです。それに続くリコー(7752)、ヤマダホールディングス(9831)、川崎汽船(9107)も名の知れた企業です。川崎汽船に至っては4割近くの株式を保有しています。

次に目立つのはメーカーで、ニッチな分野で強みがあり、歴史のある企業が並んでいます。また、大企業の子会社・グループ会社も目立ちます。日産車体(7222)は日産自動車(7201)の子会社です。鳥居薬品(4551)はJT(2914)の子会社、大阪製鐵(5449)と大平洋金属(5541)は日本製鐵(5401)が出資しています。セゾン情報システムズ(9640)、三井金属エンジニアリング(1737)、近畿車輛(7122)もそれぞれ大株主が存在しています。

日本製鉄が東京製綱にTOB

折しも日本製鉄(5401)が、1月21日にワイヤロープなどを手掛けるロープ最大手の東京製綱(5981)に公開買付を実施すると発表しています。日本製鉄の説明によれば、東京製綱はワイヤロープで国内トップシェアを誇り、極めて高い技術力とブランド力を有しているとのことです。日本製鉄は旧富士製鉄時代から同社に投資しており、現在は9.9%の株式を保有し、パートナーとして長年、協力関係を築いてきました。

しかし、東京製綱は近年、経営方針に起因し、業績が悪化の一途であると日本製鉄は指摘しています。日本製鉄は株主かつパートナーとして経営に指摘を行い、取締役選任に株主総会で反対するなど警鐘を鳴らしてきたものの、東京製綱は自律的な経営改善を行っていないとのことです。そして、日本製鐵は公開買付により株式を追加取得し、コミットメントを高めることで東京製綱の企業価値の回復・向上を図ろうとしているそうです。

日本の名門企業の代表格とも言える日本製鉄が50年来の付き合いがある企業に対し、公開買付で株式を取得し、「物言う株主」のような動きをしているのは驚きです。このことは日本製鉄のような現場に近い企業も、長い歴史を持ちニッチな分野で強みがある会社の経営に問題がありうること、しかも自身が10%近い株式を保有していてもガバナンスが効いていないことを示していると考えられます。

エフィッシモの投資先にこのような企業が目立つのは、ガバナンス改善など、アクティビスト活動により改善余地が高い企業を日本製鉄と同様によく見ているからだと思います。

次に、同じく旧村上ファンド系の投資会社「シティインデックスイレブンス」の投資先を見てみましょう。シティインデックスイレブンは、オフィスサポートや南青山不動産などと共同での保有が多いようです。以下のリストでは共同保有分も保有比率に合算しています。

【図表2】
出所:筆者作成

エフィッシモに比べるとそれほど規模が大きくない企業が多く、特に建設・不動産が目立つようです。島忠(8184)投資はまさに成功例と言えると思いますが、島忠も首都圏の店舗網に魅力があったことを考えると不動産保有会社として投資していたと考えてもよさそうです。

次回は、実際にこれらの投資で利益が出ているのかを確認していきたいと思います。